数理モデル
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

数理論理学におけるモデル理論での「モデル」とは異なります。
計算科学」も参照

数理モデル(すうりモデル、(: mathematical model)とは、通常は、時間変化する現象の計測可能な主要な指標の動きを模倣する微分方程式などの「数学の言葉で記述した系」のことを言う。モデルは「模型」と訳され「数理模型」と呼ばれることもある。元の現象を表現される複雑な現実とすれば、モデル(模型)はそれの特別な一面を簡略化した形で表現した「言語」(いまの場合は数学)で、より人間に理解しやすいものとして構築される。構築されたモデルが、元の現象を適切に記述しているか否かは、数学の外の問題で、原理的には論理的には真偽は判定不可能である。人間の直観によって判定するしかない。どこまで精緻にモデル化を行ったとしても、得た観察を近似する論理的な説明に過ぎない。

数理モデルは、対象とする現象や、定式化の抽象度などによって様々なものがある。
概要
数理モデルの使用

数理モデルは、自然科学においてのみではなく、社会科学人文科学においても用いられる。数理モデルが用いられている分野を網羅することは難しいと考えられるが、例えば、物理学工学生物学経済学経済工学社会学社会科学心理学計算機科学生態学神経科学分子生物学生物統計学免疫学地球物理学天文学電気回路機械工学航空工学気象学言語学計量文献学、伝染病感染予測、オペレーションズ・リサーチデータサイエンスなどがある。

近年はコンピュータの性能の向上により、複雑な数理モデルでもそのふるまいをシミュレーションによって見ることができるため、様々な分野で用いられるようになっている。数理モデルは、対象とする現象や、定式化の抽象度などによって様々なものがある。
モデルとは詳細は「モデル (自然科学)」を参照

そもそもモデルとは何か、ということに関して様々な説明がありうるが、例えば大学生向けのあるテキストでは「モデルとは、対象とするシステムを簡略化して、その本質を表したもの」「システムを理解するために用いられる」などと解説されている。その意味では、地球のモデルとしての地球儀建造物のモデルとしての設計図人生のモデルとしての小説価値のモデルとしての金銭など様々なものがあげられる[1]

普通、モデルは現実世界のシステムに対して簡略化されているので、現実のシステムそのものを考察するのに比べると、モデルだけを対象として考察を行うことのほうが圧倒的に容易である。

モデルが現実のシステムの興味がある部分の性質を残していれば、モデルを考察することによってシステムに対する理解(あるいは解釈)を行うことが可能になったり、現実のシステムのふるまいの予測を行うことができるようになる。例えば、実際に歩き回らなくても、地図を見れば行き方がわかるし、宇宙に出なくても地球の形状や各国の分布を知ることができる。モデル化とは、興味のある本質を残して対象を大幅に簡略化することにより、理解可能にすることである。

ただし、モデルは対象そのものとはやはり別物であり、簡略化によって必然的に対象の持っている多くの性質を失ったものとなる。(モデルが何らかの現象をとりこまないことを「捨象」と言う)。
数理モデル

数理モデルは、特に数学によって記述されたモデルのことである。モデルという言葉に含意されているように、対象とのズレ(特に近似抽象化)が意識されていることが多い。モデルの正当性が実験観察などによって裏付けられ、非常にうまく行っている事が確かめられている場合は「理論」と呼ばれるようになることもある。もっとも、「理論」という場合、しばしば独自の概念の使用なども含んだより包括的な体系となる。(例えば、ボーアによる水素原子の構造を説明する理論は普通"Bohr's model"あるいは「ボーアの原子模型」と呼ばれるが、シュレーディンガーによる量子力学の基礎方程式はモデルとは呼ばれない。前者は水素原子の電子の軌道のエネルギー準位を説明するものであり、後者は非相対論的量子力学の基礎方程式を示す理論である。前者においては、バルマー系列におけるリュードベリ定数の、他の基礎的な物理定数による説明という大きなインパクトおよび、量子条件という、理論発展に対する帰納的および仮説形成的側面へのインパクトが重要であるが、後者においては、(例えばエネルギー保存則などの)そこから演繹できる法則の広さが重要である。
簡単な例

「A君が歩けば歩くほど前に進む。歩幅が広いほど前に進む。」という現象を(距離)=(歩幅)×(歩数)

という数式で表せば、これは数理モデルである。この数理モデルは、という数学的な概念によって記述されている。このように、現実の対象を数学の中に写像する過程を「モデル化」という。この数理モデルにおいては、もはやA君が何を話しているのか、どんな表情をしているのか(気持ち、感情)、どちらの方角に向かっているのかといったようなことは全て捨象されてしまっている。しかし、世界の数的な側面についてこの式(モデル)を用いて推論をすることは、A君の歩く様子を眺めてそれを行うよりも極めて容易であり、数学の知見により、例えば、歩幅が50cmで1,000歩歩いたら500m進むということが分かる。さらに言えば、10 km歩いてきたA君の疲労困憊した顔を見た時に、この数理モデルを用いる事によって、彼が2万歩歩いたことを算出し「なるほど疲れるわけだ」と理解することもできる。
ばねの振動の例

ばねは、自然長からの伸びが小さい範囲では、伸びた長さと戻ろうとする力が比例することが知られている(フックの法則)。力=(比例定数)×(伸び)( F = − k x {\displaystyle F=-kx} )

となり、ばねという自然現象が数理モデルに対応づけられる。ばねに小さなおもりがついている状況をニュートン運動の法則 m d 2 x d t 2 = F {\displaystyle m{\frac {d^{2}x}{dt^{2}}}=F}

を用いて表せば、 d 2 x d t 2 = − k m x {\displaystyle {d^{2}x \over dt^{2}}=-{k \over m}x}

となる。この数理モデルは、数学的には二階線型微分方程式であり、強力な理論が得られている分野である。数学的な考察により、運動が三角関数で表されることが直ちにわかる[2]
モデルの普遍性

いったん抽出された数理モデルはもともと対象とされた現象を超えて、遥かに広い範囲の対象を記述することが多い。例えば、コンデンサコイルを接続した電気回路電圧の発展を記述する微分方程式は、上記のばねの振動の方程式と全く同一のものになる。

他にも、熱拡散におけるフーリエの法則、電流におけるオームの法則、液流におけるハーゲン・ポアズイユの法則、粒子の拡散におけるフィックの法則は全て J = − D d u d x {\displaystyle J=-D{\frac {du}{dx}}}

の形をしており、数学的には全く同一のものである。

(なお、これらの方程式が似た形をしているのには理由がある。これらの物理法則が得られるのは、どれも平衡点から少しだけずれた点における法則としてである。系のダイナミクスがたとえ非線型であっても、平衡点からほんの少しだけずれた点においては、ずれに対して線型な応答が得られると期待できる系における現象であるからだ。非線型力学的にいうならば、平衡点における発展方程式のヤコビアンによって、その近傍の発展は決まる。)
自然界の階層性と数理モデル構築の可能性

一般に物理学では、ミクロな世界の第一原理法則にしたがって相互作用する粒子がシステムの時間発展を決めていると考えられている。ところが、その仮定から考えれば明らかではないことに、自然界には物理的なスケールの違う階層からなる階層構造があり、それぞれの階層においてなんらかの秩序が見られることが知られている(素粒子原子分子高分子固体流体細胞組織器官群れ社会習慣流行伝染生態系地形天候惑星系銀河銀河団宇宙、など)。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:50 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef