教会で死んだ男
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教会で死んだ男
Sanctuary
著者
アガサ・クリスティー
発行日1951年1961年
1982年早川書房
発行元
早川書房ほか
ジャンル推理小説
イギリス

ウィキポータル 文学

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『教会で死んだ男』(きょうかいでしんだおとこ、英題:Sanctuary)は、1982年(底本は1951年1961年)に早川書房より刊行されたアガサ・クリスティ推理小説の短編集、および収録されている短編のタイトル。全13編からなる。

基本的に、それぞれエルキュール・ポアロ(11編)、ミス・マープル(1編)を主人公とする推理小説であるが、「洋裁店の人形」だけは怪奇小説である。
底本と早川書房版

本作は1951年に刊行された『The Under Dog and Other Stories』(『「負け犬」ほか』)と、1961年に刊行された『Double Sin and Other Stories』(『「二重の罪」ほか』)を底本とする早川書房オリジナルの短編集である。拾遺集である『マン島の黄金』を除いて、早川より出版された最後のクリスティ短編集であり、既に出版済みの短編集収録作品との重複を避けるため、底本と比較して以下の作品が収録されなかった。

The Under Dog and Other Stories

「負け犬」 (『
クリスマス・プディングの冒険』に収録)


Double Sin and Other Stories

「クリスマス・プディングの冒険」 (ここでは "The Theft of the Royal Ruby" という別題、『クリスマス・プディングの冒険』に収録)

「グリーンショウ氏の阿房宮」 (『クリスマス・プディングの冒険』に収録)

「最後の降霊会」 (『死の猟犬』に収録)

早川書房版としては最終の短編集となっているが、収録作品の発表自体は1920年代のものが多く、英版では『Poirot's Early Cases』(ポアロ初期の事件簿)として取りまとめられた初期のポアロシリーズ短編集との重複も多い。特に『ビッグ4』(1927年刊行)や『ヘラクレスの冒険』(1947年刊行)にも主要人物として登場するヴェラ・ロサコフ伯爵夫人の初登場作である「二重の手がかり」は1923年発表である。
他作品との関係

収録されたいくつかの話の中には、ほぼ同一プロットの別作品が存在する。

潜水艦の設計図 - 短編「謎の盗難事件」(短編集『
死人の鏡』収録)

プリマス行き急行列車 - 長編『青列車の秘密

また、「マーケット・ペイジングの怪事件」は短編「厩舎街の殺人」(短編集『死人の鏡』収録)と非常によく似ている。

先述のように、早川書房版では出版順序が逆転しているため、本作に収録されている方が初期作である。
各話あらすじ


戦勝記念舞踏会事件

(原題: The Affair at the Victory Ball)(1923年)主人公: エルキュール・ポアロ

ジャップ警部は、最近行われた戦勝記念の仮装舞踏会で起こった奇妙な出来事について、ポアロに捜査協力を依頼する。若いクロンショー卿を筆頭に6人のグループが「コンメディア・デッラルテ」の衣装で参加していた。クロンショー卿はアルレッキーノ、伯父のユースタス・ベルタン卿はプルチネッラ、アメリカ人未亡人のマラビー夫人はパンチネロに扮した。ピエロとピエレットはクリストファー・デビッドソン夫妻(デビッドソンは舞台俳優)、そして最後にクロンショー卿と婚約していると噂される女優、ココ・コートニーがコロンビーナに扮していた。

この夜は、クロンショーとコートニーが最初から険悪な雰囲気なのが周囲には明らかだった。コートニーは泣きながらクリストファー・デビッドソンにチェルシーにある自分のアパートまで送ってくれるように頼んだ。二人が去ると、クロンショー卿の友人が、ボックス席から舞踏会を見下ろしているアルレッキーノを見つけ、メインフロアに降りてこいと声をかけた。クロンショー卿はボックス席を出て仲間に加わったが、その後姿を消した。その10分後、彼は夕食会場の床の上で刺殺されているのが発見された。コートニーはコカインの過剰摂取によりベッドで死んでいるのが発見され、その後の審問で彼女が薬物中毒であったことが判明した。ポアロは調査を開始し、クロンショー卿が麻薬に断固反対していたこと、ベルテンの衣装にはこぶとフリルがあること、夕食の部屋にカーテンのかかった凹みがあることを発見し、皆を困惑させる。彼は自分のアパートに関係者を集め、逆光のスクリーンを使って6つの衣装をシルエットで紹介するが、実際は5人だったことを明かす。ピエロのゆったりとした衣装の下には、より細身のアルレッキーノの衣装が隠されていたのだった。デビッドソンは飛び上がってポアロを罵倒するが、すぐにジャップに逮捕される。

ポアロは、ナイフがクロンショー卿に突き刺さった強さから、犯人は男であることを明らかにする。死体が硬直していたことから、死後しばらく経っており、ボックス席の中で目撃されてから床で死体として発見されるまでの10分の間に殺されたのではないと考えられる。したがって、アルレッキーノと思われたのはクロンショー卿とは別人である。ベルタンの衣装はあまりに精巧で、すぐに着替えることができないので、ベルタンである可能性は無い。デビッドソンは先にクロンショー卿を殺し、その死体をカーテンのかかった窪みに隠した後、コートニーを家に送っていき、彼女に薬を過剰摂取させた。彼はそこに長く留まることなく、すぐに戻ってきたのだった。殺人の動機は、彼がコートニーに麻薬を提供しており、クロンショー卿がそれを知って暴露しようとしていたためであった。
潜水艦の設計図

(原題: The Submarine Plans)(1923年)主人公: エルキュール・ポアロ

夜遅く、ポアロに国防省から依頼の手紙が届く。急行すると、次期首相とも目される大臣から直々に数時間前に盗まれた最新鋭潜水艦の設計図の捜査を頼まれた。
クラブのキング

(原題: The King of Clubs)(1923年)主人公: エルキュール・ポアロ

ロンドン郊外のストリータムに住むオグランダー一家から警察に通報が入る。彼らが自宅の居間でブリッジをしていると、フランス窓が開き、血の付いたドレスを着た女性がよろめきながら入ってきて、「殺人よ!」と言って倒れたという。一家は医者と警察を呼び寄せ、警察は隣の別荘で演劇界の興行主ヘンリー・リードバーンの死体を発見する。彼は書斎で頭を鈍器で殴られていた。死体を発見した女性は、有名な踊り子ヴァレリー・サンクレアであった。

ポアロのもとに、この踊り子との結婚を望むモーラニア王国のポール王子が訪ねてくる。リードバーンはヴァレリーに一方的な想いを抱いていたという。ポール王子とヴァレリーが前週会った透視能力者は、トランプからクラブのキングのカードを裏返し、ある男が彼女に危険をもたらすと予言していた。王子は、ヴァレリーがこれをリードバーンのことだと解釈して彼を襲ったのではないかと恐れいていた。

ポアロがオグランダー家を訪れると、客間のテーブルには中断していたブリッジのカードが残されている。この家にヴァレリーがまだ滞在しており、彼女はリードバーンから脅されてはいたが自分は犯人ではないと言う。その夜彼から呼び出されて家に行ったが、彼と話していたところに、カーテンの裏に隠れていた浮浪者のような男が襲ってきたため、彼女はオグランダー家の灯りの方へ逃げ出したのだと言う。客間に戻ったポアロは、ブリッジのカードの中にクラブのキングが無いことに気づく。ポアロは、クラブのキングを箱の中に見つけ、オグランダー夫人に警察は真相にたどり着かないだろうと言い、クラブのキングを夫人に返してそれが唯一の不手際だったと告げる。

ポアロはヘイスティングスに真相を話す。オグランダー家のブリッジテーブルは、事件後に彼らがアリバイ工作で用意したものだった。リードバーンを殺したのは一家の息子であり、ヴァレリーと一緒にリードバーンと対峙しに行ったときに暴力に発展したのだと思われる。ヴァレリーはオグランダー家の別居中の娘であった。

浮浪者の件は彼女の作り話だったが、警察はそれを信じ、彼女はポール王子と無事結婚できることになる。
マーケット・ベイジングの怪事件

(原題: The Market Basing Mystery) (1923年)主人公: エルキュール・ポアロ

お手伝いの女性と2人暮らしの独身男が自殺した。しかし、自殺にしては怪しい点が多すぎる。最近住み込み始めたパーカー夫妻も怪しい。自殺に見せかけた他殺の可能性も指摘される中、偶然居合わせたポアロが捜査を始める。
二重の手がかり

(原題: The Double Clue)(1923年)主人公: エルキュール・ポアロ

ポアロは、様々なアンティーク貴金属の収集家であるマーカス・ハードマンから、宝石盗難の捜査を依頼される。彼が自宅で小さなティーパーティーを開き、中世の宝石のコレクションを客に見せていたが、後にその金庫が荒らされて宝石が盗まれていることが分かった。容疑者はそこに来ていた4人の客、すなわち、ロンドンに来たばかりの南アフリカの大富豪ジョンストン、ロシア革命からの難民であるヴェラ・ロサコフ伯爵夫人、ハードマン氏の代理人の若者バーナード・パーカー、盗癖がある叔母を持つ社交界のレディ・ランコーンであった。

ポアロは犯行現場を調べ、金庫を開けるときに使われた男性用手袋と「BP」のイニシャルが入ったシガレットケースを発見する。バーナード・パーカーを訪ねて確認すると、手袋は自分のものだと言うがシガレットケースは自分のではないと言う。その日、ロサコフ伯爵夫人がポアロを訪問ね、ポアロがパーカーを疑っていることに憤慨する。ポアロは伯爵夫人が本物のロシア人ではないと疑っていたが、このとき感銘を受けて彼女がロシア人であることを認める。その夜、ヘイスティングスはポアロがロシア語文法の本を読んでいるのを目撃する。

翌日、ポアロはハードマンを訪ね、泥棒が誰であるかを告げる。収集家は驚き、警察を巻き込まずに問題を収めるようポアロに任せる。ポアロはヘイスティングスを伴って伯爵夫人を訪ね、冷静に自分のタクシーが待っていること、彼女が宝石を渡してくれればありがたいことを伝える。伯爵夫人は同じく冷静にそれを受け入れる。伯爵夫人は、ポアロが傑出した好敵手であることを認め、二人は円満に別れる。ポアロもまた彼女に感銘を受ける。彼はヘイスティングスに、手袋とシガレットケースという2つの手がかりがあったことがかえって怪しかったのだと話す。片方は本物で、もう片方は間違いであった。シガレットケースはパーカーのものではなかったので、そちらが本物の手がかりだったのだろう。ケースは伯爵夫人のもので、そのイニシャルであるVRはキリル文字でВРであることを、ポアロはロシア語の文法書から知ったのだった。
呪われた相続人

(原題: The Lemesurier Inheritance)(1923年)主人公: エルキュール・ポアロ

先祖の殺人によって代々、長男は短命で家を相続できないと云う曰く付きの一族がある。このことを話してくれたヘイスティングの友人(当時の当主の長男)も相続直前に亡くなった。それから数年後、現当主はその友人の叔父だったが、彼の幼い長男が3度死にかける。我が子が心配になった夫人は、ポアロに捜査を依頼する。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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