放置自転車
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駅前の放置自転車の一例 - 池袋駅北口付近(東京都豊島区、2006年9月)警告の一例 - 新横浜駅付近(神奈川県横浜市、2011年2月)

放置自転車(ほうちじてんしゃ、Abandoned Bicycle)とは、日本国内において通勤通学時や買い物時および不法投棄盗難車の乗り捨てなどにより、駐輪場のような許可された場所以外に、持ち主が傍に居ない状態の自転車のことである。

放置自転車は駅や商店街などに集まりやすく、社会問題化している。
概要

放置自転車は交通渋滞や事故の原因、身体障害者緊急自動車の通行の妨げ、割れ窓理論などを根拠とした治安悪化の原因および、街の美観を損なうとして問題視される場合が多い[1][2]国土交通省の調査によると、全国の駅周辺に放置された放置自転車の数は減少傾向ではあるが、約2.8万台(2021年)に及んでいる[3]。三大都市圏での放置数は、東京圏約1万9百台・大阪圏約4千5百台・名古屋圏約6千6百台となっており、全国総数の約78%を占めている[3]。放置数が多い自治体は、愛知県名古屋市(約5千7百台)、大阪府大阪市(約2千6百台台)、北海道札幌市(約1千6百台)・神奈川県横浜市(約1千5百台)などとなっており、駅ごとに分けると多い順から、動物園前(新今宮)駅(967台)、久屋大通駅(944台)、上前津駅(810台)などとなっている。全体的に改善傾向が続いており、大阪市では2011年(約2万3千台)から約11分の1に減少したほか、2007年・2009年時点で2千台超となった名古屋駅、難波駅、川崎駅などは500台以下まで減少している[3][4]

放置自転車が社会問題化したのは昭和50年代後半で、1980年(昭和55年)に「自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律」(旧 自転車法)が作られた。現在のような対策の枠組みが出来たのは、1994年(平成6年)に成立した「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」(自転車法)からで、市区町村の義務と権限が拡大し、撤去や処分を行いやすくなった。また、市区町村を中心に駐輪場を整備し、放置自転車の撤去を行ってきた結果、駐輪場の収容能力は1977年(昭和52年)の約59.8万台から2021年(令和3年)の間に約7倍の約432.5万台となり、放置自転車の数も最盛期(1981年)の98.8万台から約71分の1の約2.8万台まで減っている[3]。また、レンタサイクルの稼働自転車数は、約6.5万台(2021年)である。なお、全国で撤去された放置自転車は約64.3万台(2020年度)で、うち約34.0万台が年度内に持ち主に返還されたが、約46%(約29.9万台)もの放置自転車は廃棄され、これらは資源回収業者に費用を支払って回収させることが多いことから返還の際の費用徴収などでそれを賄いきれず収支は赤字とされる[3]
放置される理由
自転車大国

日本は世界的に見て自転車の保有台数が多く、一人当たりの保有率も高いため、交通システムの中で自転車の占める割合(交通分担率)が高い。日本の自転車の平均販売価格はデフレーションの進行によって、14,363円(1999年)から10,509円(2005年)にまで下落している一方で、出荷台数と比べて保有台数が伸びていない事から、「使い捨て」にしているのではないかという意見がある[5]
鉄道利用者

駅には多くの乗降客が居り、駅まで自転車で来る交通弱者(アクセス交通)もそれなりの数が居る。人数が多いため問題は大きくなりがちだが、約30年に渡って市区町村が駅周辺に駐輪場を整備した事もあり、一般的には駐輪場の利用率は高い。最近は駅から自転車で学校や会社に向かう人(イグレス交通)の対策も考えられており、夜間や休日の長時間駐輪に対応するために、レンタサイクルの導入が進んでいる[6]
駅前施設利用者

鉄道利用者に代わって問題視されているのが、買い物客などの駅前施設利用者である。鉄道利用者と比べると放置時間は短いものの、駐輪場の存在を知っていても利便性が悪く、常習的に自転車を放置する傾向がある[6][7]。原因の1つは店舗に隣接する駐輪場が整備されていないことであり、大規模な建物に対して「附置義務条例」を作って整備を促す自治体が増えている[6]が、駐輪場があっても登録制であったり、自治体などの周知不足などで存在が知られていないケースもある[7]
盗難自転車

自転車盗は全国で2022年に約12.9万件発生した。盗まれた自転車が所有者に戻る確率は約49.9%で、最も低いのは沖縄県(約24.6%)、最も高いのは高知県(約85.2%)であった[8]。盗難自転車は放置自転車として発見されることもあるが、自治体によっては事前に盗難届が出されていれば撤去保管料を免除している事例もある[9]
放置自転車を巡る法律と違法行為
放置自転車の撤去

他人の私有地に自転車を放置することは財産権の侵害であり、車道上に放置することも駐停車禁止・駐車禁止の場所(道路交通法第44条・第45条)なら違法駐車である。使用しなくなった自転車を放置した場合には、不法投棄廃棄物処理法違反)として処罰される。一方で私有地に放置された自転車を処分するには所有者への周知などが必要とされ、所有者が分からない場合は遺失物法の規定により、元の所有者に返還するか警察署長に届け出なければならない。これは地方自治体であっても同じで、原則としては勝手に処分できないことになっているようである。一方で自転車法は放置自転車の対策を地方自治体に求めており、自治体は条例などを作って、一定の範囲内で自転車を撤去できるようにしている。
放置自転車の拾得

使用者が自ら、指定された日時にごみ回収場に出したり粗大ゴミとして処理を依頼したりした場合、行政側は所有権放棄とみなして処分するが、ごみに出された自転車を他人が拾って乗り回すことには法律的な問題が生じる可能性がある。警察官による職務質問・所有者照会などの際、防犯登録の抹消がされていない限り、元の使用者に所有権があると推定されるからである。事実関係が確認され、所有権の放棄が明らかになれば窃盗の疑いは晴れるが、なお遺失物等横領罪の疑いで引続き取調べを受ける可能性がある。また、近年ではごみ回収場に出された物は元の所有者から自治体に占有が移転したとみなされたり、その様に条例等で規定している場合があり(再利用可能な「ごみ」を自治体において回収・再利用するために、悪質な業者による「横取り」を防ぐための規定)、廃棄物関連の条例違反に問われる可能性もある。

放置自転車を拾得して乗り回していた場合には窃盗罪もしくは遺失物等横領罪(刑法254条)の現行犯となる。どちらの罪が適用されるかは、拾得時の自転車の状態などによる。老朽化するなどし所有権が放棄されていることが明白な場合や、元の所有者が被害届(盗難届)を出していないなどの場合、実務上、遺失物等横領として処理されるケースが多い。職務質問で自転車の所有者と使用者が一致しなかった場合やその自転車について被害届が出されていた場合、窃盗の容疑で取り調べを受ける場合がある。所有者の分からない自転車を拾得した時は、遺失物法の規定により、元の所有者に返還するか警察署長に届け出なければならない。
地方自治体の取組自治体により撤去された自転車の一時保管場所 - 東松山市
条例の整備

市区町村は放置自転車に対応するために、自転車法に基づいて放置自転車等規制条例や附置義務条例、自転車等駐車場管理条例、その他の関係条例を整備している[6]。また自転車法に基づいて自転車等駐車対策協議会の意見を聞いて放置自転車対策の総合計画を定めている自治体もある。
駐輪場の整備

1977年(昭和52年)頃は駐輪場の収容台数(約60万台)より放置自転車の数(約68万台)の方が多く、駐輪場不足が深刻だった[6]。1994年(平成6年)に改正された自転車法[10]は「一般公共の用に供される自転車等駐車場の設置に努めるものとする」として、地方公共団体に対して努力を求めた。そのため市区町村は自転車等駐車場管理条例を作って駐輪場の整備に努め、2021年現在では30年前の7倍の収容能力となっている[6][3]


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