放出音(ほうしゅつおん、英語: ejective)は、調音方法に基づいた自然言語の子音の分類のひとつ。入破音、吸着音と並んで、肺からの呼気を用いない非肺気流機構の子音である。 放出音は、調音点と声門の二カ所で閉鎖を作って空気を閉じこめたのち、声門を上げて口腔内の気圧を上げると、外との気圧差で調音点での閉鎖が開放され、中から弱い外向きの気流が作り出されることによって発音される。 放出音を生成するには、声門が閉鎖されていなければならないので、口腔の閉鎖が維持されている状態では声帯を振動させることは出来ない。よって、放出音は無声音となる。 文献によっては有声の放出音があると記されているものがあるが、これらは実際には有声の無開放の閉鎖音に無声の放出音が後続しているのであり、放出音が有声であるわけではない[1]。 調音部位では奥の方で調音されることが多く、両唇放出音は比較的珍しい[2]。摩擦音の放出音は少ないが、破擦音の放出音は一般的に見られる[3]。 放出音は日本語を母語とする者にはなじみのない音だが、それほど珍しい音というわけではなく、世界の言語の約18%が放出音を持つ[4]。放出音をもつ言語には、北西コーカサス語族、北東コーカサス語族、南コーカサス語族(グルジア語など)、アフロ・アジア語族に属するアムハラ語やハウサ語、コイサン語族、アメリカ州の先住民族の言語(ナバホ語、マヤ語、ケチュア語など)などがある。 朝鮮語の濃音を [ʼ] によって表記することがあるが、これは濃音を表すための適切な音声表記法がないが故の代用表記に過ぎない。朝鮮語の濃音は咽頭の緊張を伴う子音であり、放出音とは異なる。 国際音声記号(IPA)では、通常の肺気流機構の子音字に補助記号 [ʼ] を付すことによって表記する。以下は例である。
調音過程
特徴
言語
国際音声記号
[pʼ] - 両唇放出音
[t?ʼ] - 歯放出音
[tʼ] - 歯茎放出音
[??] - そり舌放出音
[c?] - 硬口蓋放出音
[kʼ] - 軟口蓋放出音
[qʼ] - 口蓋垂放出音
[sʼ] - 歯茎摩擦放出音
脚注^ Ladefoged & Maddieson (1996) p.80
^ Greenberg (1970) p.127
^ Greenberg (1970) pp.130-131
^ Ladefoged & Maddieson (1996) p.78
参考文献
Joseph H. Greenberg (1970). “Some Generalizations concerning Glottalic Consonants, Especially Implosives”. International Journal of American Linguistics 36 (2): 123-145. doi:10.1086/465105