攻撃行動
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攻撃行動(こうげきこうどう、英:aggressive behavior)とは、危害を避けようとしている他者に身体的・精神的な危害を加えようとする攻撃行動である[1]。本項では生物学心理学における攻撃行動について概説する。
原因

攻撃行動の原因としては内的衝動説、情動発散説、社会的機能説の三つの系統が考えられている。
内的衝動説とは、人間には内的な攻撃の本能(衝動)が備わっており、それが表面化したのが攻撃行動であるとする考え方である。精神分析学者のフロイト動物行動学者のローレンツがこの立場を採っている。

情動発散説とは、不快な感情を解消するために攻撃行動を起こすという考え方である。ダラードは欲求不満が常に何らかの攻撃行動をもたらすと論じている。またバーコヴィッツは欲求不満に加えて攻撃行動のきっかけによって初めて起こると論じた。

社会的機能説とは、さまざまな対立や利害衝突などの社会的葛藤を解決するために攻撃行動が機能しているという考え方である。攻撃の社会的機能としては強制制裁防衛威嚇などの機能が挙げられる。

生物学における攻撃性オスのアザラシの攻撃行動

生物学では攻撃性は内部的な要因と外部の刺激の相互作用によって引き起こされると考える。攻撃性はいくつもの非常に異なる内部的な特徴を持つ。様々な技術と実験によって科学者は神経学的・生理的構造と攻撃性の関連について調査を行うことができた。

多くの研究者は攻撃性を説明するためにに注視する。ほ乳類の攻撃性が関連する部位には扁桃体視床下部前頭前野前帯状皮質海馬、中隔核、中脳中心灰白質が含まれる。動物の意思を測定することは困難であるため、神経科学の研究では攻撃性は「他の物体や動物に向けられ、対象を傷つけるか破損させた行動」と定義されている。ネコネズミの研究が示すように、視床下部と中脳中心灰白質がほ乳類で攻撃性をコントロールする最も重要な部位である。視床下部への電気刺激は攻撃行動を引き起こす。それは攻撃性レベルを決定する助けとなる神経伝達物質セロトニンバソプレッシンに対する視床下部の急速な受容を促す。扁桃体も攻撃性に深く関与している。ハムスターの扁桃体への刺激は強い攻撃行動を引き起こす。トカゲの進化的に相同な部位の損傷は、攻撃性と闘争性の大きな減少をもたらす。
ホルモン

様々な神経伝達物質ホルモンが攻撃行動と相関することが示されている。もっともよく言及されるのがテストステロンである。ある研究はテストステロン濃度と攻撃的な反応が明確に関連していると指摘した。成人期には個人レベルでの攻撃性の測定にテストステロンを用いることができないのは明らかである。しかしいくつかの研究では暴力犯罪の前科がある再犯男性は前科がない男性の犯人や非暴力犯罪を犯した男性と比較して血中テストステロン濃度が高かった事を示した。しかしテストステロン濃度と攻撃性の相関関係は、テストステロンが攻撃性の原因であることを意味しない。男性スポーツ選手の調査では、試合の前に急速にテストステロン濃度が上昇し、その後は低下するが試合の結果でも変動することが分かった。勝者のテストステロン濃度は敗者よりも高い。女性の場合も、暴力犯罪の前科のある女性はそうで無い女性よりテストステロン濃度が高い。しかし女性スポーツ選手の研究では男性のような顕著な反応は見られなかった。

アロマターゼは攻撃行動の調整に関連する部位で顕著に分泌される。アロマターゼ酵素の分泌を遺伝的にノックアウトされたマウスでは攻撃性が顕著に減少した。しかし異なる種ではアロマターゼ活性と攻撃性は逆のパターンを示す。他のマウスではエストラジオール環境依存的に作用する。16時間の日照のもとではエストラジオールは攻撃性を減少させる。8時間の日照の元ではエストラジオールは急速に攻撃性を増加させる。
遺伝学

ほ乳類以外の例では、キイロショウジョウバエで遺伝学的研究が進んでいる。キイロショウジョウバエのフルーツレス遺伝子(英語版)(それは同性愛をもたらす)はショウジョウバエの闘争に重大な影響を与える。脳のフルーツレス遺伝子かトランスフォーマー遺伝子の働きを操作することで、メスの攻撃行動を持ったオスや、オスの攻撃行動を持ったメスを作り出すことができる。二性の間で攻撃性を分けていると思われる候補の遺伝子はSTS遺伝子(英語版)とY染色体上のSRY遺伝子である。STS遺伝子はニューロステロイド合成のために重要なステロイドスルファターゼ酵素をコード化している。それは両性で分泌され、雄マウスでは攻撃性と相関している。雌マウスでは出産授乳時に劇的に増加し、その時期に母親は攻撃的になる。
攻撃性の進化

大部分の行動と同様に、攻撃行動も動物が生存繁殖する助けとなるかどうかを検証的に確かめることができる。動物は縄張り、食糧、、つがいの機会を獲得し、維持するために攻撃性を働かせる可能性がある。研究者は攻撃性と殺人の能力が我々の過去の進化の所産であると理論を立てた。
部外者への攻撃

攻撃性のもっとも顕著なタイプは捕食者と被食者間によく見られる。捕食者に対して自分や自分の子を守ろうとしている被食者も攻撃的になる。しかし非常に大きな敵や敵の集団に対する攻撃性はその個体の死に繋がるため、個体数の数への敏感さを発達させている。相手の強さを測定するこの能力は天敵に対して「闘争か逃避か」の反応として現れる。

個体の遺伝子の存続のために、利他的行動と呼ばれる行動が進化する。利他的な行動の例は捕食者が接近しているときにそれを知らせる警告音である。この呼び出しが群れに捕食者の存在を知らせるのと同時に、警告を発した個体の位置を捕食者に知らせることになる。警告音は発信者に進化的な不利をもたらすように見えるが、親族が逃れることができれば遺伝子の継続は容易となる。

多くの研究者によれば、捕食は攻撃的ではない。ネコはネズミを追いかけるとき背中を丸めたり威嚇したりしない。視床下部の状態は攻撃行動よりも飢えを反映した状態に類似している。
同種間の闘争

個体への攻撃性は繁殖に関係するいくつかの目的にかなう。この目的のうち一般的なものの一つは順位の確立である。特定の種の動物が他個体の住む環境に置かれたとき、最初にすることは社会的順位を決定し自分の立場を守るために戦うことである。一般的に上位の個体は下位の個体よりも攻撃的である。大多数の同種間闘争は実験個体の導入から24時間以内に終わる。

オスメスが異なる攻撃性の傾向を持つことを説明する理論はいくつかある。いずれも生存の主要な「目的」が個体DNAを伝達するチャンスの増大であると考える点では共通している。そのうちの一つは一方のが他方より多くの親の投資を行うために、一方の性は他方にとっての希少資源となると述べる。大多数の種においては多くの投資を行う性はメスである。オスにとって、高い社会的序列の維持と資源の保有は繁殖の機会を獲得し、遺伝子を伝えるために重要である。メスはそれとは異なり、繁殖成功は同時に長い妊娠期間と授乳に束縛されることを意味する。したがってオスの繁殖成功はつがうことのできるパートナーの数に束縛される。

その結果、オスはしばしばメスよりも頻繁に身体的な攻撃性を発揮する。オスは他のオスと争い、リスクを冒して高い社会的地位を確保する。オスはまた自分のパートナーの持つ他のオスの血をひく仔を殺すことさえある(頻度は少ないがメスにもある)。オスは従って身体的な福利厚生を軽視する傾向にある。対照的にメスは他の個体と資源を争う。資源は子どもに変えることができる。社会的地位の確保はメスよりもオスにとって高く付く。それはメスが高い社会的地位を獲得しても余分な利益をオスよりも獲得しにくいからである。理論的にはメスは健康と豊かさのために低い攻撃性、低いリスク、資源を得るための間接的な戦略を採らせるようになると予測できる。その結果、メス同士の資源を巡る闘争では互いを負傷させることはまれである。

この事実は人間に翻訳されると、男性女性よりも社会的地位を望む傾向を示すと示唆する。社会では、男の子の攻撃性は社会的地位と自尊心によってさらに動機付けされるが、一方女の子の攻撃性は地位ではなく資源獲得に集中され、より身体的な危険が少ない間接的な隠れた攻撃性に向かうと予測できる。しかしながら、動物の行動を用いて人間の行動を説明すること、現代人行動進化的に説明することには広い反対がある。
心理学における攻撃行動
発達心理学

発達心理学において幼児が攻撃行動を行うことについてこれまで多数研究されている[2]。残念ながら、厳密な統計的文献分析によれば、子供時代に見られる攻撃的行動には遺伝的要因が関与しており、攻撃的行動は成人期まで持続する傾向がある[3]
挑発的攻撃・報復的攻撃・制裁的攻撃

攻撃行動は他者への損害をおよぼすために道徳的には違背行為ともされるが、他方、戦争などで攻撃を受けた側が報復する場合などは肯定的に評価されることもある[2]


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