採掘プラットフォーム
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メキシコ湾に設置されている石油プラットフォームサンタバーバラ海峡のプラットフォーム・ハリードイツ最大の油田であるMittelplate

石油プラットフォーム(せきゆプラットフォーム、英語: oil platform)または石油リグ(せきゆリグ、英語: oil rig)は、海底から石油天然ガス掘削・生産するために必要な労働者や機械類を収容する、海上に設置される規模の大きい海洋構造物である。水深など環境に応じて、プラットフォームを海底につないで人工島にするか、あるいは浮かせた状態にする。

一般的に、石油プラットフォームは大陸棚に設置されるが、技術の進歩に伴ってより深海での掘削・石油生産が可能になっている。原油価格の動向によって、掘削コストの合理性は変動する。指向性の掘削技術(Directional drilling)により、1つのプラットフォームから異なる深度の複数の場所(約8km以内)に向けて、30ほどの坑井の掘削を行うことが可能である。また多くのプラットフォームでは、アンビリカルケーブルに接続された遠隔坑井があり、そこからさらに周辺の多数の坑井に分岐していることもある。

シンガポールの政府系複合企業ケッペル・コーポレーションが世界最大手である。次いでセムコープなども同国の南西側のジュロン地域に集中する「シップヤード」と呼ばれる湾岸区域での基地を持つ。高度な油田探査ソフト、溶接・切断技術、安全確保に長けており、同国における石油・ガス産業は製造業の中枢を担ってきた。ケッペルは東南アジア各国、ブラジルメキシコ中国北欧各国など、世界中の産油国にプラットフォームを輸出している[1]
歴史

第二次世界大戦においてイギリスを防衛するために建設されたテムズ海上要塞(マンセル要塞(英語版)、Maunsell Forts)が、現代の海上石油プラットフォームの直接の先祖であると考えられる。この要塞は、あらかじめ構造を造っておき、浮かせてテムズ入り江の設置位置まで移動させた後、その浅い底に着底させることで極めて短期間に建設された[2][3]

1938年、スペリオル石油会社(Superior Oil Company)がルイジアナ州沖のメキシコ湾岸油田に最初の海上石油プラットフォームを建設した。

海洋浮上式のプラットフォームの製造は、造船会社または系列の会社が担う例が多くみられるが、原油価格の変動によるコスト増や安い労働力を背景とする新興企業の安値攻勢により企業の顔ぶれが変わる。2010年代には、シンガポールのセムコープマリンなどが受注を伸ばす一方、2017年には日本IHI[4]が、2018年には韓国現代重工業が赤字を理由に石油プラットフォームを含む海洋構造物の事業から撤退、大規模な見直しを行う例が見られた[5]
種類

石油プラットフォームは、人類が建造した移動可能な構造物としては世界でもっとも大きい部類に属する。プラットフォームはいくつかの異なる種類に分類される[6]様々なタイプのプラットフォーム
固定式プラットフォーム

固定式プラットフォームは、コンクリート鋼鉄でできた脚(レグ)を持ち、その脚を直接海底に固定して建設され、脚の上に掘削設備や石油の生産設備、作業員のための設備などを設置するデッキを載せている。この種類のプラットフォームは、固定されていて動かない性質を利用して、長期間の使用を想定して設計されている。素材としては、鋼鉄やコンクリートのケーソンなどが用いられる。鋼鉄のケーソンは、中空の鋼鉄の管のようなものを使い、海底にねじ込まれる。コンクリートのケーソンは、コンディープ(Condeep)と呼ばれる構想によって使われるようになり、内部が石油を貯蔵できるタンクになっていることが多い。また、タンクはケーソンを浮かせるためによく用いられ、海岸付近で建設して設置位置まで輸送して、海底に沈めて設置するために用いられる。固定式プラットフォームは、約1,700フィート(約520m)ほどまでの深さならば経済的であると言われる。
コンプライアント・タワー
横倒しにしてで運送中のコンプライアント・タワー。このあと海中に投下し、直立させたうえ海底へ着底させる

コンプライアント・タワーは、細くて柔軟な塔状の構造物を積み重ねた基礎の上に、掘削生産設備を収容したデッキを載せているものである。コンプライアント・タワーは横方向の大きなたわみや力に耐えられるように設計され、深さが1,500フィートから3,000フィート(450mから900m)くらいまでの範囲で使用される。
半潜水式プラットフォーム
半潜水式プラットフォーム(左)、ドリルシップ式(右)

半潜水式プラットフォーム(Semi-submersible platform、セミサブ型、半潜水型)は、全体としては海に浮いている構造である。脚部は海の中にあり、構造物を浮かせられるだけの浮力を持ちながら、構造物の上部を上に向けて立っていられるだけの重さを持っている。半潜水式プラットフォームは場所を移動させることが可能で、浮力タンクに水を入れることで上下させることも可能である。通常は掘削作業中はを入れて固定するが、自動船位保持装置によっても場所を設定することができる。半潜水式プラットフォームは600フィートから6,000フィート(180mから1,800m)ほどまでの深さで使用可能であり、水深の深い海底油田の掘削が可能となる。船体の揺れも少なく安定していることから、北海などの海象の厳しい海域での稼働が可能である。
甲板昇降式プラットフォーム

甲板昇降式はジャッキアップ式とも呼ばれ、のように移動して、備え付けられた脚を海底に降ろして接地させ、潮流などの自然環境に合わせて甲板をジャッキアップして設置する。浅い海でのみ用いられる。
ドリルシップ式
手前が洋上支援船「トイサ・パーセウス」(Toisa Perseus)、奥が第5世代深海掘削船「ディスカバラー・エンタープライズ」(Discoverer Enterprise)

ドリルシップ式(船式)は、掘削装置を備えた船である。新しい油田ガス田を探索する時によく用いられるが、科学的な探索目的でも用いられる。しばしばタンカーを改造して建造され、自動船位保持装置を利用して掘削地点に留まる。大水深での稼働(1,500m以深)と高移動性が特長。
浮体式生産貯蔵積出設備

浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO: Floating Production Storage and Offloading)は、石油の処理設備を備えた大きな船であり、長期間にわたって一地点に固定されて使用される。浮体式生産システムには、浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)、浮体式貯蔵積出設備(FSO: Floating Storage and Offloading)、浮体式貯蔵設備(FSU: Floating Storage Unit)などの種類がある。これらは掘削そのものは行わず、他の方式で掘削した坑井からの生産や貯蔵、積み出しのみを行う。
緊張係留式プラットフォーム

緊張係留式プラットフォーム(TLP: Tension-leg platform)は水に浮く構造物をケーブルで海底に、ほとんどの縦方向の動きが起きないような方法で固定したものである。構造物には強い浮力が掛かるように設計されており、ケーブルで海底へ強く引っ張ることでほとんど移動しない構造物を実現している。TLPは6,000フィート(2,000m)ほどの深さまで使用される。従来からのTLPは、セミサブのような4つのコラムを備えた構造をしている。Seastarや、MOSES mini TLPと言われるものはより低コストで、600フィートから3,500フィート(200mから1,100m)ほどの範囲で使用される。mini TLPは深海探査における初期生産プラットフォームなどとしても用いられる。
スパー

スパー(SPAR)は、TLPのように海底に繋留されているが、TLPが垂直方向に張力を持つケーブルで固定されているのに対して、スパーは従来型のケーブルで固定されている。スパーは3種類の形式で設計されている。1つは従来型(conventional)で、1つの垂直な円筒状の構造物を持っている、もう1つはトラス・スパー(truss spar)で、上部の浮力構造体(ハード・タンク hard tankと呼ばれる)と下部のバラストを入れた構造体(ソフト・タンク soft tankと呼ばれる)を結ぶトラス構造を持っている。3つ目はセル・スパー(cell spar)で、複数の垂直な円筒状の構造物を持っている。小型や中型のプラットフォームを造る上では、TLPよりもスパーの方が経済的であり、また下部に錘を持ち垂直の向きを保つために繋留索に頼っていないために、本質的に安定している。繋留索に備えられたチェーン・ジャッキを利用することで、水平方向に移動することもできる。最初に生産を開始したスパーは、カー・マックギー(Kerr-McGee)のネプチューン(Neptune)で、メキシコ湾の1,930フィート(588m)の深さの地点に設置された浮体生産設備である。ただし、かつてはスパーは浮体式貯蔵積出設備として用いられていた。ドミニオン石油(Dominion Oil)のデビルズ・タワー(Devil's Tower)というスパーは5,610フィート(1,710m)の深さの地点に設置されていて、世界最深のスパーである。最初のトラス・スパーは、カー・マックギーのブームバン(Boomvang)とナンセン(Nansen)である。唯一のセル・スパーは、カー・マックギーのレッド・ホーク(Red Hawk)である。
無人設備

無人設備(Normally unmanned installation)(しばしば毒キノコ toadstoolsと呼ばれる)は、デッキとヘリパッド、緊急のシェルターで構成された小さなプラットフォームである。通常の運営では遠隔制御で動くように設計されており、定期保守作業やその他の作業の必要な時にだけ作業員が訪問する。
特に大きなプラットフォームブラジルのペトロブラス社が運用する100%国産の半潜水式プラットフォーム、P-51ノルウェーで建造中の重力着底型構造物"Statfjord"、完成して設置されるとほとんど全てが海中に沈む


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