排中律(はいちゅうりつ、英: Law of excluded middle、仏: Principe du tiers exclu)とは、論理学において、任意の命題 P に対し「P であるか、または P でない」という命題は常に成り立つという原理である。 ラテン語で「第三の命題が排除される原理」 Principium tertii exclusiあるいは「第三の命題(可能性)は存在しない」 Tertium non daturと称され、英語ではLaw of excluded middle
概要
排中律は任意の命題Pに対してそれが成り立つか成り立たないかのいずれか一方であって、その中間は無いことを述べた論理学の法則であり、 P ∨ ¬P はつねに真(恒真)であるという主張であると考えてよい[3]。「すべての命題は真または偽のいずれかの真理値を持つ」という二値原理
(英: Principle of bivalence)とは直感的には同じものに感じられ古典論理学では同等のものと扱われるが、様相論理学においては異なるものである(二重否定の除去も参照)。論理の古典的体系では、同一律、無矛盾律とともに、思考の三原則を成す[4]。ただし、論理体系によっては等価な別の主張(二重否定の除去やパースの法則など)が公理として採用されることもある。
直観主義論理においては排中律は公理として採用されておらず、また排中律は直観主義論理の定理ではない(すなわち、排中律は直観主義論理において証明できない)。ただし、排中律の二重否定 ¬¬(P ∨ ¬P) [注釈 1]や三重否定除去 ¬¬¬P → ¬P [注釈 2]などは直観主義論理においても証明可能であり、すなわち排中律が否定されているわけでもない。
誤謬の一種である誤った二分法のことを「排中の誤謬」(英語: the fallacy of the excluded middle)と呼ぶことがある[5][6]が、それぞれの定義の通りこれらは異なる概念である。 次の命題 P について考える。「ソクラテスは死ぬ」 この命題に対して、排中律とは、「ソクラテスは死ぬかあるいは死なないかのどちらかである」 という命題 P ∨ ¬P はつねに成立する(常に真である)、とする主張である(それ以外の第三の状態や中間の状態を取らない)。 この主張は古典論理(形式論理学)における基本的な定義であり、命題 P の内容によらず適用できる。 排中律に依存した論証の例を次に示す。これは、よく知られた例である[7]。a と b 2つの無理数からなるabが有理数となる a 、 bが存在する。 2 {\displaystyle {\sqrt {2}}} が無理数であることは知られている。そこで、次のような数を考える。 2 2 {\displaystyle {\sqrt {2}}^{\sqrt {2}}} 排中律に基づくと、明らかにこの数は有理数か無理数かのどちらかである。これが有理数なら証明が完了する。もし無理数なら、次のような数を考える。 a = 2 2 {\displaystyle a={\sqrt {2}}^{\sqrt {2}}} および b = 2 {\displaystyle b={\sqrt {2}}} すると、 a b = ( 2 2 ) 2 = 2 ( 2 ⋅ 2 ) = 2 2 = 2 {\displaystyle a^{b}=\left({\sqrt {2}}^{\sqrt {2}}\right)^{\sqrt {2}}={\sqrt {2}}^{\left({\sqrt {2}}\cdot {\sqrt {2}}\right)}={\sqrt {2}}^{2}=2} 2 は明らかに有理数である。従って証明が完了する。 この論証において、「この数( 2 2 {\displaystyle {\sqrt {2}}^{\sqrt {2}}} )は有理数か無理数かのどちらかである」という主張は排中律に基づいている。直観主義では、aが 2 {\displaystyle {\sqrt {2}}} であるのか 2 2 {\displaystyle {\sqrt {2}}^{\sqrt {2}}} であるのか特定されていないような上記の論法、あるいは 2 2 {\displaystyle {\sqrt {2}}^{\sqrt {2}}} について何らかの証拠(数・実数としての存在可能性、あるいは有理数であるか無理数であるかといった具体的な証明)がない限り、このような主張を認めない。この変形として、ある数が無理数(あるいは有理数)であることの証明や、ある数が有理数かどうかを判定する有限なアルゴリズムなどが考えられる。 上記の例は直観主義では許されない「非構成的; non-constructive」証明の例である。「この証明は、定理を満足する a と b という数を特定せずに可能性だけで論じているため、非構成的である。実際には a = 2 2 {\displaystyle a={\sqrt {2}}^{\sqrt {2}}} は無理数だが[注釈 3]、これを簡単に示す証明は知られていない」(Davis 2000:220) (なお、上記の設題に関して別の数を用いれば、特定の構成的な証明を行うのは困難な事ではない。例えば a = 2 {\displaystyle a={\sqrt {2}}} 及び b = log 2 9 {\displaystyle b=\log _{2}9} は共に無理数であることは容易に証明でき、 a b = 3 {\displaystyle a^{b}=3} 。これは直感主義で認められる証明方法の1つである。) Davis は「構成的」について「実際に一定の条件を満たす数学的実体が存在するという証明は、明示的に問題の実体を表す方法を提供する必要があるだろう」(p. 85) としている。
例
無限に関する非構成的証明の法則