振戦せん妄
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振戦せん妄

概要
診療科精神医学
分類および外部参照情報
ICD-10F10.4
ICD-9-CM291.0
DiseasesDB3543
MedlinePlus000766
eMedicinemed/524
MeSHD000430
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振戦せん妄(振戦譫妄、しんせんせんもう)は、通常はアルコールからの離脱によって引き起こされるせん妄の急性発作である。英語圏では一般的にdelirium tremens(ラテン語で「震える錯乱」の意)と呼ばれ、その略からDT、あるいは症状からthe horrors、the shakesとも言う。文献への記載は、1813年が初である。[1][2]鎮静催眠剤からの離脱は、アルコールの離脱と本質的に同じものが生じうる[3]

ベンゾジアゼピン系薬は、振戦せん妄(DT)に対する治療法の選択肢である[4]。共にGABAA受容体に作用するためである[5]が、同時に薬因性の振戦せん妄の原因ともなり得る。

アルコール以外には、ベンゾジアゼピン系バルビツール酸系のような鎮静催眠剤からの離脱も適切に管理されなかった場合に発作や振戦せん妄、死亡を引き起こしうる。カフェインコカインのような鎮静催眠薬以外の薬物からの離脱は、医療的に複雑な事態には至らず致死的ではない。[6]アルコールにおける身体依存に起因する離脱反応は、最も危険で致死的になりうる。通常は、震え、動悸発汗のような身体的な影響につながり、一部では痙攣を引き起こし、治療が伴わなければ死亡しうる。[7]

アルコールが原因となる場合、アルコール依存症の既往歴を有する患者にのみ生じる。ベンゾジアゼピン系が原因の場合には、長期連用していた場合に限らず起こりうる。

アメリカ合衆国において、アルコール依存症者の50?60%未満に、アルコール摂取をやめた場合に何らかの明白な離脱症状が発症する可能性があり、5%の急性のアルコール離脱症候群がDTに進行する[1]。アヘンのようなオピエート依存症に伴う離脱症状とは異なり、DT(および一般的にアルコール離脱)は致命的となる可能性がある。死亡率は、集中治療と高度な薬物治療が実現する以前は35%と高かったが、医学が進歩した現代では、死亡率は5%から15%の範囲である。[1]

似たような易刺激性幻覚は、マグネシウム欠乏症も原因となる[8]
症状

振戦せん妄の主な症状は、悪夢興奮・広範な混乱・見当識障害、視覚や[9]聴覚の幻覚・発熱・発汗や、ほかの自律神経系の活動亢進の兆候(頻脈や高血圧)である。これらの症状は突然出現する可能性があるが、大量飲酒の停止から2?3日後に発症し、4?5日目に最高の激しさとなる。[10]また、これらの症状は「夜間に特徴的に悪化する[11]」。DTは、一般的にアルコール離脱における最も重篤な症状とみなされており、最後の飲酒の後、3?10日後に生じる[9]。ほかの一般的な症状には、虫、蛇、ネズミが見えるといった激しい知覚の混乱が含まれる。これらは、環境に結びついた幻覚あるいは錯覚である可能性がある。例えば壁紙のパターンや周辺視野において、虫に形態が似ていることから患者が誤って知覚したり、患者に何かが這う感覚のような触覚的幻覚—蟻走感(英語: formication)として知られる—に関連付けられている。振戦せん妄は、通常、「切迫する破滅」のきわめて強烈な感情を含む。激しい不安や切迫した死の感情はDTの症状である。

DTは時に、深刻な抑制できない手足の振戦(震え)や不安やパニック発作、妄想のような二次症状に結びつく。混乱は、患者が簡単な文を構成することや、簡単な論理的な推測をすることが困難であるとか、観察者にとってしばしば目につきやすいものである。多くの症例で、酔いがさめているにもかかわらず、失言の傾向が増しているために、まれに順番を無視して話す。

DTは、アルコール幻覚症とは明確に区別されるべきで、後者は入院したアルコール依存症患者の約20%に生じ、死亡率は大きくない。対照的に、DTはアルコール依存症者の5?10%に生じ、治療が伴えば最大15%の死亡率、未治療で最大は35%である[2]。DTは、感覚の変化の存在によって特徴づけられ、現実の世界のいかなる認識もない完全な幻覚を生ずる。DTは、極度の自律神経系の活動過剰(早い脈拍、高い血圧、呼吸の頻度の増加)と、35?60%の患者が発熱する。一部の患者は発作に襲われる。
原因振戦せん妄

振戦せん妄は、長期間の飲酒の後の突然の断酒と離脱中に、生化学的な制御の連鎖につながることが主因である。また、大量飲酒の既往歴を有する患者において、頭部外傷や感染あるいは病気によっても引き起こされる。さらに別の原因として、バルビツール酸系やベンゾジアゼピン系の鎮静剤に比較的強い依存を有する患者が、それらを急に断薬する場合が挙げられる。

なぜならこれらの鎮静剤の主な薬理学的および生理学的な作用は、GABA化学作用と伝達物質の体細胞系の操作に由来し、同じ内因性神経伝達物質系がアルコールにより影響を受けており、振戦せん妄は重度に依存した患者における投薬の急な中止によって生じる。これらのDTは、兆候と付随する離脱症候群もアルコールによるものと似通っている。それが、ベンゾジアゼピン系薬が多くの場合に、それ自身が原因でもあるにもかかわらず、DTに対する治療に有効だという主な理由である。なぜならエタノール(アルコール)と、バルビツール酸系やベンゾジアゼピン系のような鎮静剤は、脳のGABAA受容体における正のアロステリック調整因子として機能し、バランスを失った化学系のバランスをとるために、内因性GABAの生産の突然の停止を引き起こす。この停止は、どんどん依存を強くし、それに伴う大量投与は中毒を引き起こす原因となる。鎮静作用の特性を有することに加え、心拍、血圧、ほかの多様な重要な自律神経下位系の間の、発作の閾値を統制する神経伝達物質の制御に非常に重要である。

振戦せん妄は、アルコール離脱症候群の既往歴を有する患者において最も起こりやすく、特に1日にビールで7?8米パイント(3310?3790ミリリットル)、蒸留酒で1米パイント(473ミリリットル)に相当する量を飲んでいる場合である。振戦せん妄は、10年以上の習慣的なアルコールの飲用や、アルコール依存性の既往歴に影響する。[12]

ベンゾジアゼピン系のジアゼパムでは30?40mgからの中止によってせん妄や痙攣発作が生じやすい[13]。アルコールなどの併用を除外して、ベンゾジアゼピン依存症だと同定された108人のうち高用量から突然断薬となった12%(13人)にせん妄や痙攣が生じ、そのうちせん妄が10%(11人)、痙攣が3%(3人)であった[14]。別の調査では、ベンゾジアゼピンを一年以上使用した患者に、離脱反応として7%に精神病症状、4%にてんかん発作が生じている[15]

エタノールに関する正確な薬理学は、完全に理解されているわけではないが、理論的には振戦せん妄はGABA受容体におけるアルコールの作用が主因であると想定されている。アルコール飲料の消費(あるいは習慣的な鎮静剤の使用)は、脳において恒常性を保つ試みのために逆調整反応を起こす。

これは、主にグルタミン酸のような興奮性神経伝達物質の生産や、同様にノルアドレナリンドーパミンアドレナリンセロトニンにおいて、脳の受容体における下方制御あるいは上方制御を起こし、飲酒者のアルコールに対する更なる耐性を獲得する。

アルコールの消費がなくなった時、下方制御されたGABAA受容体複合体は、GABAの標準的な量では非常に弱い作用となっており、GABAに対して反応しにくい。それと共に、GABAは本来ならば活動電位の形成を阻害しており、GABAが結合する受容体は多くない。これは交感神経系の活性が大きく優越することを意味し、アドレナリンの嵐(英語: adrenergic storm)として知られている。


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