指名打者
[Wikipedia|▼Menu]
九人制でのメンバー表(上)と指名打者制でのメンバー表(下)。指名打者制では守備番号が指名打者は「DH」、投手は「P」と表示されている。
阪神甲子園球場にて)

指名打者(しめいだしゃ、: designated hitter)とは、アメリカ・メジャーリーグの公式ルールや日本の公認野球規則(5.11)などにもとづき、野球の試合において攻撃時に投手に代わって打席に立つ、攻撃専門の選手のことをいう。DH(ディーエイチ、英称の頭文字をとった略)ともいう。

ソフトボールの試合においては、任意の野手に代わって打席に立つ打撃専門の選手として指名選手(DP:designated playerの略)が認められており、指名選手はどの守備位置の選手にも適用可能[注 1]である。対して、DHは投手以外の野手に代わることは認められない。
概要

指名打者(以下DHと表記)は守備位置に一切就かず、本来投手が担うべき打撃を代行することで投手と攻守を分担する。したがって、DHは野手には含まれず、守備位置ポジション)でもない[注 2]。後に先発投手とDHの兼任が可能となるルールも導入されている[1]

試合開始前にスターティングメンバーを発表する際には、投手以外の野手とともに打順が定められる。先発出場したDHは、相手チームの先発投手に対して、少なくとも一度、打席を完了(安打または四死球失策等により走者となる、またはアウトになる)しなければならない。ただし、DHの打順が来る前に相手チームの先発投手が交代した場合はこの義務はなくなる。

チームは必ずしもDHを起用しなくてよい。ただし、起用しなかった場合には、その試合の途中からDHを起用することはできない。また、DHを試合中に解除して守備の9人のみにするというメンバー変更が可能である。このときも再度DHを起用することはできない。

世界的にはDH制を採用するルールが主流になりつつあり、アメリカのメジャーリーグベースボール(以下、MLB)、日本プロ野球(以下、NPB)のパシフィック・リーグ、韓国の韓国野球委員会(KBO)、台湾の中華職業棒球大聯盟(CPBL)、キューバのセリエ・ナシオナル・デ・ベイスボルなどのプロ野球リーグ、四国アイランドリーグplusベースボール・チャレンジ・リーグなどの独立リーグや社会人野球、日本の大学野球リーグ(一部の連盟を除く - 後述)、および日本中学硬式の「フレッシュリーグ」等で採用されており、国際試合においても採用されることが多くなっているが、それ以外の少年野球高校野球・NPBのセントラル・リーグに属するチームの一軍主催試合においては採用されていない。

DHには守備力は不要であり、打撃技術は秀逸だが守備能力に難のある選手や、長打力から専ら打撃を期待される外国人選手などの打撃専業化を目的として起用されることが多い。そのためコンタクト、パワー、選球眼を含めたトータル・パッケージを求められるが、中でも打線の中軸を担えるだけの破壊力が必需である。具体例としては、MLBにおいては1シーズン30本塁打OPS.900の両方をコンスタントにクリア出来れば一流と目される[2]。その他にも、負傷により守備力が落ちている選手、あるいは足腰に不安があるベテラン選手等の守備配置による体力消耗軽減を目的として起用されることも多い。特にMLBにおいては、レギュラー選手の疲労回避手段や軽負傷選手の負担軽減を目的として、普段は守備についている選手をDHとして起用する例がしばしば見られる。ただし、守備をこなしてから打席に入ることで打撃のリズムを作ることをよしとする選手は、DHとしての起用を嫌う場合がある。このことから、NPBにおいて、現役生活で長年にわたり指名打者で起用され続けた日本人選手は、門田博光山ア武司石嶺和彦などわずかな例しか存在していない[注 3]

また、DHに固定されることによって選手寿命が短くなるという議論がある。例えば、現役(MLB)当時の松井秀喜の契約更改に際して読売新聞の記事[3]では、「選手寿命を重視しての移籍もある。DHのみでは体のキレが衰えるからだ」と記載している。他方、松井当人は後にDH制のメリットとして「個人的にはDHがあったおかげで選手寿命が延びました。それは間違いないです」とコメントしている[4]

DHは打撃と走塁以外は試合に参加せずに済むので、打席が回るまで30分、時には1時間近く暇になることがある。そのため、選手によっては守備位置に付く場合よりも試合態度の悪さが浮き彫りになる場合がある。例として、ビル・マドロックメル・ホールは日本球界時代にDHを経験したが、その際に打席が来るまでテレビゲームで時間を潰していたと伝わる。
歴史
MLB

1972年、過度な投高打低状態にあったアメリカンリーグ(ア・リーグ)では12球団のうち9球団が年間観客動員数が100万人を割る状態であった[5]。これを解消するためオークランド・アスレチックスのオーナーだったチャーリー・O・フィンリーらのアイディアによって、翌1973年よりア・リーグで初めてDH制が採用された[5][6]。つまりDH制は元来、商業的な理由によるローカルルールとして定められたものであり、投手の安全や健康を管理するという趣旨ではなかった。DHとして最初に打席に立ったのはニューヨーク・ヤンキースのロン・ブルームバーグであった[5]

DH制制定以降のMLBではポール・モリターエドガー・マルティネスデビッド・オルティーズなどDHのスター選手が現れた[5]。2004年、長年DHとして活躍したマルティネスの引退の際にア・リーグはこれを称え、年間最優秀指名打者賞をエドガー・マルティネス賞と改名することを決定した[5](しかし2010年、マルティネスがアメリカ野球殿堂入りの対象者となった際には、野球記者の投票は36.2%しか集まらなかった[5])。同年1月に招集されたMLB特別委員会で、以後のMLBオールスターゲームではア・リーグ、ナショナルリーグ(ナ・リーグ)のどちらの本拠地での開催であってもDH制を採用することが決定した[5]。尚ワールドシリーズでは1976年に初めて採用され、1985年まで隔年で全試合採用の年と全試合不採用の年とに分けるという方式がとられた後、1986年よりア・リーグ優勝チームの本拠地の試合で採用されている。なおDHとしてのワールドシリーズMVPはモリターが初であるが三塁手との兼任扱いとされるため、フルタイムでのDHによるMVPは松井秀喜が初である。

2020年はナ・リーグでも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として、DH制が導入された(2021年は再びDHなしに戻った)。

2022年3月10日にMLBと選手会の新労使協定が締結され、この中でナ・リーグにおけるDH制の導入(ユニバーサルDHの採用)が決まった。これにより2022年シーズンよりMLBは両リーグでDH制となった[7]

また、2021年7月13日に行われたMLBオールスターゲームでは、ファン投票でア・リーグの指名打者部門1位・選手間投票では先発投手部門の5位となり、投手・打撃の「二刀流」で選出された大谷翔平ロサンゼルス・エンゼルス)について特別ルールが適用され、先発投手として起用されながら打者としても「1番DH」扱いの打順で先発出場した[8](大谷翔平については後述)が、この「同一選手による先発投手とDHとの兼任」がルール変更により公式戦でも可能となり、2022年3月31日のオープン戦より実施された[9]。これにより「投手兼DH」として先発出場した選手は、投手として降板後もDHとして引き続き打席に立つことが可能となる。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:127 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef