抗精神病薬
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この項目では、主として統合失調症の治療薬について説明しています。精神に作用を及ぼす薬物全般については「向精神薬」をご覧ください。

抗精神病薬(こうせいしんびょうやく、英語: Antipsychotics)は、広義の向精神薬の一種[注 1]で、主に統合失調症などの症状を緩和する精神科の薬である[1][2]。過去には、神経遮断薬 (Neuroleptics)[3]、あるいはメジャートランキライザー (Major tranquilizers) とも呼ばれ、1950年代には単にトランキライザーと呼ばれた。薬事法における劇薬に指定されるものが多い。抗精神病薬は、それ以外にも幅広い精神障害に使用される。精神科の薬というのはこの抗精神病薬のことを指す。薬品として、コントミンやセレネースなどがある。
概要

抗精神病薬は大きく2分類することができ、古い定型抗精神病薬と、新世代型の非定型抗精神病薬がある。非定型抗精神病薬は、双極性障害のうつ状態やうつ病にも適応がある薬がある。非定型抗精神病薬は、従来の定型抗精神病薬と比較してドーパミンD2受容体拮抗作用に加えてセロトニン5HT2A受容体拮抗作用を有したり、「緩い」ドーパミンD2受容体拮抗作用を有するなどの特徴をもった薬剤である。非定型抗精神病薬は、錐体外路症状、口が渇く、便秘といった副作用が少なく、統合失調症の陰性症状にも効果が認められる場合があるとされる。しかし#定型対非定型節に見られるように、大規模な試験による分析によれば、非定型抗精神病薬が定型抗精神病薬よりも優れているという根拠は乏しい。

副作用として、口渇、便秘、無意識的に身体が動く錐体外路症状や、肥満といった代謝の異常、母乳が出るといった高プロラクチン血症などがある。代謝の異常は、特に非定型抗精神病薬に特徴的である。抗精神病薬を服用している患者の代謝のチェックが日常的に適切に行われていないことが多く、約90%の患者が1つ以上の代謝性の危険因子を持ち、約30%がメタボリックシンドロームである[4]。さらに抗精神病薬の使用は高い無職率の原因となっている[5]。また服薬を中断する場合#離脱症状が生じる可能性がある。#有効性節以下で示されるが、効果がなかったり副作用のため服薬の中止が多い薬剤である。

抗精神病薬の過剰処方が問題となっている。投与量の増大に伴う治療効果は頭打ちになるが、副作用発現率は上昇していくため、世界保健機関英語: World Health Organization、略称:WHO)および英米の診療ガイドラインでは単剤療法を推奨している[1]。日本でも2010年に、抗精神病薬の種類が2種類以下である場合に診療報酬が有利になる改定が行われた[6]。厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームが「統合失調症に対する抗精神病薬多剤処方の是正に関するガイドライン」の策定を計画しており[7]2013年10月にSCAP法という減薬ガイドラインが公開された[8]。抗精神病薬の大量処方からの減量は、過感受性精神病という離脱症状による精神症状の悪化を引き起こす可能性があり注意が必要である[9]

抗精神病薬の使用は脳の容積を減少させるかについてはさらなる研究を要する[10]。抗精神病薬の使用は若年認知症発症の危険因子である[11]
医療用途

統合失調症に用いるのが典型的な用途である[1]。抗精神病薬は、ドーパミン拮抗薬(ドーパミン・アンタゴニスト)で、主な作用は脳内の神経伝達物質であるドーパミンの遮断である。主に、中脳辺縁系ドーパミン作動性ニューロンのドーパミンD2受容体を遮断する。そのことによって、妄想幻覚といった精神症状を軽減させる。PET(ポジトロン断層法)での研究から、高プロラクチン血症や錐体外路などの副作用が生じるよりも少ない量で有効な反応がみられることが明らかになっている[12]

単に適応が認められていないばかりでなく、小児や高齢者では死亡リスクを高めることが実証されているために、適応外使用の違法なマーケティングに対し、非定型抗精神病薬のエビリファイ(アリピプラゾール)、ジプレキサ(オランザピン)、セロクエル(クエチアピン)、リスパダール(リスペリドン)と罰金の史上最高額を塗り替えている[13]

いずれにせよ、各々の薬剤の特徴を考え、標的症状の性質と照らし合わせながらエビデンスに基づいた薬剤使用が望まれる。また、いたずらな多剤併用は避け、可能な限り単剤投与を心がけるべきであり、WHOガイドラインでも「一度に1種類の抗精神病薬を処方する」という立場である[1]
統合失調症「統合失調症#薬物療法」も参照

WHOのガイドラインでは、急性精神病の管理に抗精神病薬の治療を開始するとしている[1]。NICEガイドラインでは、統合失調症の治療第一選択肢は抗精神病薬および心理療法の併用である[14]。しかしプライマリケア医は、専門医の確定診断が無い限り、初回発症の段階で抗精神病薬を処方してはならないともしている[15]

またNICEは発症防止、予防を目的とした抗精神病薬の投与は行ってはならないとも述べている[16]
双極性障害「双極性障害#薬物療法」も参照

WHOガイドラインでは、双極性障害の急性躁エピソードの治療選択肢のひとつとして抗精神病薬が挙げられている[2]。抗精神病薬の処方を中断する場合は、最低4週間かけ徐々に減薬する必要がある[17]
認知症「認知症#薬物療法」も参照

認知症患者のBPSD管理に用いられる。処方は強い精神病症状、暴力、攻撃性、行動障害の症状に限り、正しい利用に努め、低用量にて副作用を監視しながら慎重に投与すべきである[18][19]

NICEの2006年ガイドラインは、BPSDに対して薬物介入を第一選択肢とするのは、深刻な苦痛または緊急性のある自害・他害リスクのある場合に限らなければならないとしている[18]
その他

脳の興奮状態を抑制させる作用を利用して、抗不安薬では取り除けないような強度の不安や極度のうつ状態、不眠に対する対処薬としても利用される場合もある。また、ドーパミン遮断作用を応用し、嘔気嘔吐などの消化器症状や吃逆の対症薬として利用される場合もある。

アメリカ精神医学会英語: American Psychiatric Association、略称:APA)は成人の不眠症に対し、抗精神病薬を継続的にファーストライン治療としてはならないと勧告している[20]。NICEは不安障害に対し、抗精神病薬は特別の事情 (specifically indicated) を除き処方してはならないとし、かつルーチン処方を禁じている[21]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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