抗真菌薬(こうしんきんやく、英: antifungal drug)は、真菌の生育を阻害する医薬品である。真菌症の治療や、農薬として用いられる。細胞膜であるエルゴステロールを阻害するポリエン系抗生物質(ポリエンマクロライド系)のほか、ラノステロールからエルゴステロールの生合成を阻害するアゾール系薬剤、βDグルカン合成酵素を阻害し細胞壁合成を阻害するキャンディン系薬剤、DNA合成を阻害するピリミジン系薬剤などの化学療法薬を含む。真菌に対して選択毒性を示す薬剤は真正細菌に対して選択毒性を示す薬剤よりも少ない。この理由として真菌は動物と同じく真核生物に属しており、真正細菌と比較すると動物細胞に類似することが挙げられる。 作用機序は真菌の細胞膜を構成する物質であるエルゴステロールに結合して、細胞膜に穴を空けて破壊する。ヒトの細胞膜を構成するコレステロールにも作用するため選択毒性は低く、副作用も強い。代表的な副作用には、発熱、悪寒、急性尿細管壊死など腎障害、低カリウム血症などがある。抗真菌作用は濃度依存的である。アムホテリシンBをデオキシコール酸で懸濁させた注射薬のファンギゾンが、深在性真菌症治療薬として使用されてきたが副作用のため十分な投与量、投与期間が確保できなかった。リポソームアムホテリシンBであるアムビゾームはアムホテリシンBとコレステロール複合体がリポソーム膜に組み込まれた構造をしており、その平均粒子径が100nmと小さいため網内系細胞に取り込まれにくい。血中でリポソーム構造を維持したまま安定に存在し、正常組織においては血管から漏出しにくいのに対して、感染部位においては血管透過性の亢進によりリポソームが漏出し存在する真菌に特異的に作用し抗真菌活性を示す。すなわち、リポソーム製剤のアムビゾームはファンギゾンよりも副作用が緩和されている。 真菌内のシトシンデアミナーゼにより5-FUに変換され、核酸合成を阻害する。ヒトの細胞ではシトシンデアミナーゼの活性が弱いため比較的副作用が小さいとされている。代表的な副作用は骨髄機能抑制や胃腸障害である。カンジダはフルシトシン耐性菌が増加している。フルシトシン単独での投与の場合は耐性を生じやすく、ポリエン系抗真菌薬であるアムホテリシンBと併用されることが多い。併用により相加・相乗作用があり、アムホテリシンBの投与量を減量することで副作用を軽減できる可能性がある。5-FCとアムホテリシンBの併用による相乗効果はアムホテリシンBの細胞膜障害作用によって5-FCの取り込み効率が上昇することにより生じると考えられている。抗真菌作用は時間依存的である。
目次
1 内服薬と点滴薬の種類
2 外用薬の種類
2.1 民間療法の種類
3 ヒトの真菌症と抗真菌薬
3.1 ヒトの真菌症の分類
3.2 真菌症の診断
3.3 抗真菌薬のスペクトラム
3.4 薬力学と薬物動態学
3.4.1 PK-PDパラメータ
3.4.2 併用療法
3.4.3 バイオフィルム
4 深在性真菌症の診断と治療の基本パターン
5 ヒトの代表的真菌症と抗真菌薬
5.1 カンジダ症
5.2 アスペルギルス症
5.3 クリプトコッカス症
5.4 接合菌症(ムコール症)
5.5 トリコスポロン症
5.6 ニューモシスチス症
5.7 白癬症
5.8 輸入真菌症
6 参考文献
7 関連項目
内服薬と点滴薬の種類
ポリエン系抗生物質
アムホテリシンB(商品名ファンギゾン)
リポソームアムホテリシンB(商品名アムビゾーム)
ナイスタチン(商品名:ナイスタチン)
フロロピリミジン系
フルシトシン (5-FC)(Flucytosine
イミダゾール系
脂溶性のイミダゾール環を持つ。イミダゾール系は水に難溶であるため、ミコナゾール以外はすべて外用で使用。表在性真菌(白癬)や、口腔、咽頭、膣カンジタ症のクリーム、トローチ、膣錠として使用。ミコナゾールはトリコスポロン症の第一選択薬で、イミダゾール系で唯一の内用剤(注射剤)。トリアゾール系とあわせてアゾール系といわれる。アゾール系抗真菌薬は分子内に2個の窒素原子を含む五員環(イミダゾール環)をもつイミダゾール系と3個の窒素原子を含む(トリアゾール環)をもつトリアゾール系に分かれる。細胞膜のエルゴステロールの合成過程を阻害する。具体的にはラノステロールを14α位の脱メチル反応に関与するチトクロムP450と結合し本酵素の作用を阻害しエルゴステロール合成を阻害することで抗真菌作用を示す。ポリエン系よりも副作用は小さい。肝障害や胃腸障害がよく知られている。
ミコナゾール(商品名フロリードF)
トリアゾール系
イミダゾール系とあわせてアゾール系といわれる。アゾール系抗真菌薬は分子内に2個の窒素原子を含む五員環(イミダゾール環)をもつイミダゾール系と3個の窒素原子を含む(トリアゾール環)をもつトリアゾール系に分かれる。細胞膜のエルゴステロールの合成過程を阻害する。具体的にはラノステロールを14α位の脱メチル反応に関与するチトクロムP450と結合し本酵素の作用を阻害しエルゴステロール合成を阻害することで抗真菌作用を示す。ポリエン系よりも副作用は小さい。肝障害や胃腸障害がよく知られている。カンジダではフルコナゾールが近年耐性化が進んでいる。抗菌作用は時間依存的である。
フルコナゾール(商品名ジフルカン)
イトラコナゾール
キャンディン系抗真菌薬はヒト細胞にはない真菌細胞壁の主要成分を特異的に阻害するため深在性真菌症に高い有効性を有すると同時に選択毒性が高く、重篤な副作用は少ない。細胞壁のβ-Dグルカン合成を阻害することで抗真菌活性を有する。代表薬はミカファンギン(商品名:ファンガード)でありカンジダ族とアスペルギルス属に優れた抗真菌作用を有する。しかしβ-Dグルカンを持たない、または少ない真菌である接合菌やクリプトコッカス、およびトリコスポロンには無効である。またキャンディン系抗真菌薬はアゾール系に比べて薬物相互作用の発現する可能性低いとされている。抗真菌作用は濃度依存的である。
ミカファンギンナトリウム (Micafungin)(商品名:ファンガード)
カスポファンギン (Caspofungin)
その他
グリセオフルビン - 白癬の治療
ウンデシレン酸
外用薬の種類
イソコナゾール(商品名アデスタン)
ビホナゾール(英語版)(商品名マイコスポール)
ラノコナゾール(商品名アスタット)
ケトコナゾール(商品名ニゾラール)
ルリコナゾール(商品名ルリコン)
クロトリマゾール(商品名エンペシド)
テルビナフィン(商品名ラミシール)
ブテナフィン(商品名ボレー、メンタックス)
ネチコナゾール(商品名アトラント)
ミコナゾール
チオカルバミン系抗真菌薬
リラナフタート
トルナフタート (商品名ハイアラージン)
トルシクラート
民間療法の種類
ティートゥリーオイル
アロエベラ
ハチミツ
アリシン (ニンニク由来)
ヨウ素
オレンジオイル
パチョリ
レモンマートル
ヤシ油 (ココナッツオイル、有効成分はカプリル酸などの短鎖脂肪酸)