抗日神劇
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抗日神劇(簡体字表記:抗日神?、?音:kangrish?nju〈日本語音写例:カァンリィーシェンジュゥ〉、日本語読み:こうにち しんげき)とは、中国インターネットユーザーによるスラング[1]中華圏製作される日中戦争(中国側の呼称は抗日戦争)などをテーマにしたテレビドラマのなかで、荒唐無稽なストーリーの作品を表す[1]。日本語では「抗日神ドラマ[2]」「反日神ドラマ」という意訳もある。

中国だけではなく、中国語話者の多い東南アジア北アメリカなどでも衛星放送テレビインターネット配信などで視聴されている。
製作背景

中国では民間のテレビ番組の内容について中国共産党検閲が行われているが、内容が「反日」的であれば規制が緩くなるとされる。そのため、第二次世界大戦中の中国大陸を舞台に中国人が日本兵(日本軍兵士)を撃退する「抗日ドラマ(反日ドラマ)」というジャンルが一定数製作されていた。これらの一部は、「(インターネット上で)人気のあるドラマ」や「不思議なお笑いドラマ」を意味する中国語インターネットスラングである「神劇[注 1]と「抗日」を組み合わせて「抗日神劇」と通称されるようになった。

このような作品が増えた要因の一つとして、放送の規制が厳しい中国では比較的自由度が高いことや、テレビ視聴層の高齢化によって高齢者向けのコンテンツが求められたが、抗日ドラマは他ジャンルよりも製作が容易で派手なアクションを入れやすいという利益重視の姿勢があるという[3]

中国では共産党やその傘下の宣伝部の主導で、日中戦争を題材としたプロパガンダ作品が多数制作されているが、日本と戦った中国人や共産党を美化・英雄視することでナショナリズムを煽る作品が中心であり、抗日神劇のような荒唐無稽な作品ではない。
内容

当初は共産党が主導するプロパガンダ作品のような「典型的な抗日ドラマ」が中心であった。

しかし規制の緩さと視聴率に目を付けた制作側は、次第に「武術の達人がカンフー映画のようなワイヤーアクションで日本兵をなぎ倒す」「男が単身で日本軍の基地に乗り込んで壊滅させる」「地上から投げた手榴弾戦闘機を撃墜する」など、荒唐無稽なアクションを追求したり[4]、「手刀打ちで日本兵の体を切り裂く[1][5]」「少女が全裸になって八路軍敬礼する[5]」など、過剰なグロテスクエロスを売り物にした作品が濫造されることになった[5]。また、娯楽性を重視したため、1942年ごろの時代設定でありながら戦国大名武田信玄平成時代の総理大臣小泉純一郎が登場する、日本軍に「女性将校」や「忍者部隊」が存在するなど、史実を無視していたり、「横書きの平仮名が並んだ戦死公報」「適当なデザインの軍服や装備」「中国語を流暢に話したり、中国武術特有の刀さばきで日本刀を使う日本兵」など、雑な時代考証も目立つ。プロットの粗さも目立ち、「私のおじいさんは9歳のとき日本人虐殺された。私は日本鬼子を恨む! [1][6][注 2]」「同志よ、8年間の抗日戦が今始まろうとしているぞ! [1][6]」「抗日戦も7年目に入った。最後の1年だ。諦めるな! [6]」「800から撃てば鬼子機関銃射撃手をやっつけられる[6]」「各人が爆薬150キログラムを携行せよ! [6]」などといった、理屈の通らない台詞も多い[6]

女性層を意識し、「日本軍のイケメンリーダーと中国の女性工作員が恋に落ちる」という恋愛ドラマ的要素を盛り込んだ作品も多く製作されている。

反日作品でありながら、黒崎一護(日本の漫画『BLEACH』の主人公)や貞子が登場したり、『ONE PIECE』の要素を取り入れるなど、日本のサブカルチャーに影響された作品も存在する[7]
ブーム

2012年だけでも200以上の作品が製作されるほどのブームにより、日本兵役が不足したため、同じ日本人俳優が多数の作品で同じ(歴史上の)人物を演じていたり、作品によっては日本語を話せない中国人が演じていることも多い。それでもモブキャラクターとしてまとまった数が必要であるため、日本兵役の中国人エキストラの史中鵬は、普段でも一日7〜8回、最も多い時には一日で31回も死ぬシーンを演じたという[8]三浦研一矢野浩二渋谷天馬塚越博隆ら、中国で活動する日本人俳優は悪役の常連となったため、皮肉にも中国での知名度が上昇したが、「極寒の雪中行軍の最中、馬から飛び降りて娘を強姦する」という不自然なシーンに対して抗議するも聴き入れられなかった塚越[8][9]オーディションに挑むも「痩せすぎで、怖くない。日本兵に見えない。」という理由で不合格になることが多かった渋谷[9]など、彼らは製作側の「悪い日本兵」というイメージに対して複雑な感情を抱いている[9]。抗日ドラマで日本兵役を演じるのに疲れてしまった矢野は、2008年からバラエティー番組司会を始め、「日本鬼子」と呼ばれることは少なくなったが、どのようなドラマであろうと日本人の役は必ず最後に死んでしまうのが気になると語る[9]。塚越はある村でロケ撮影中に高齢女性が「この小日本鬼子め!」と叫びながら襲ってきたこともあると言う[9]。塚越は先述の雪中行軍での演技の際も「君は分かっていない。当時の日本兵はこんな風だったんだ」と“正しく理解して演じる”よう監督から諭されているくらいで、製作陣や(それは一部かも知れないが)一般視聴者の反日意識の根深さを感じざるを得ないという[9]。日本人俳優は撮影スタッフから「日本人が悪いことをしたのだからおまえが代わりに謝れ」と言わんばかりの態度を執られることもあるという[9]。ブームの最中にあった2009年に中国人ブログ「慎言」に掲載された反日記事「妄想の中国映画」は、「近年の抗日戦争映画は日本兵を可愛げ馬鹿っぽく描くことが多く、あまりにも現実離れしている」と批判し、日本鬼子の描写は本来の「貪欲で、残虐で、非人間的」なものでなければならないと主張していた[10]


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