抗リン脂質抗体症候群
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抗リン脂質抗体症候群
概要
診療科血液学
分類および外部参照情報
ICD-10D68.8 (ILDS D68.810)
ICD-9-CMICD9 289.81
OMIM107320
DiseasesDB775
eMedicinemed/2923
Patient UK抗リン脂質抗体症候群
MeSHD016736
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抗リン脂質抗体症候群(こうりんししつこうたいしょうこうぐん、Anti-phospholipid antibody syndrome; APS)は自己免疫疾患のひとつ。自己抗体ができることによって、全身の血液が固まりやすくなり、動脈塞栓静脈塞栓を繰り返す疾患である。特に習慣性流産や若年者に発症する脳梗塞の原因として重要である。特定疾患のひとつであるが、これだけでは公費対象ではない。
歴史

抗リン脂質抗体症候群は、1983年、Harrisらによって報告された疾患概念である。第一例目は全身性エリテマトーデス(SLE)に合併する疾患として報告された。ループスアンチコアグラントや抗リン脂質抗体が陽性となって血栓イベントや習慣流産の原因となるものと報告された。抗リン脂質抗体症候群はSLEを合併しない症例と合併する症例がある。
症状、徴候
血栓症

血栓症は、動脈、静脈のいずれにも生じ、また全身のどこにでも生じうる。生じる部位には個人差があると言われているが、そのメカニズムはわかっていない。

動脈血栓脳梗塞心筋梗塞、副腎梗塞、胃十二指腸動脈梗塞、腸間膜動脈閉塞症を指すが、皮膚潰瘍、四肢壊疽を呈することもある。

静脈血栓深部静脈血栓症、脳静脈洞血栓症、肺塞栓症、下大静脈血栓、バッド・キアリ症候群など

一度に複数の部位に同時に多発性の血栓症を起こし、生命の危険のある病型を劇症型抗リン脂質抗体症候群と称する。

流産

抗リン脂質抗体症候群は習慣流産の原因の一つである。胎盤の血管に生じた血栓が引き起こす胎盤梗塞により、胎児に血液が供給されなくなるのが原因と考えられている。
その他

網様皮斑、リーブマン・サックス心内膜炎、自己免疫性溶血性貧血などを合併することがある。
検査所見

凝固系
活性化部分トロンボプラスチン時間が延長する。

自己抗体ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピンIgGまたはIgM抗体、抗カルジオリピンβ2GPI抗体が陽性となる。

血算中等度の血小板減少症を伴うことが多い。

その他梅毒検査(Serological Test for Syphilis; STS)が陽性となる(生物学的偽陽性、Biological False Positive; BFP)。より梅毒に特異的なTPHA(Treponema pallidum hemagglutination)やFTA-ABS(Fluorescent Treponemal Antibody-ABSorption)が陰性であることが生物学的偽陽性と判断する鍵であるが、梅毒感染初期には同様の検査所見を呈することがあり注意を要する。

診断基準

国際的な診断基準が、北海道大学教授の小池隆夫らにより1999年に提唱され、札幌基準(クライテリア)と呼ばれている。これは本症を特徴的臨床所見(血栓塞栓症状または習慣流産)のうちひとつと、特徴的検査所見(自己抗体)のうちひとつを6週間以上の間隔をあけて二回確認されるものとしており、基本的に臨床研究に用いるためにつくられたが現場でも用いられている。2006年、改訂版が提案され、自己抗体確認の間隔が12週間に延長されるなどした。改訂札幌・シドニー基準とよばれる[1]
治療

おおまかに2つの臨床症状に対して治療がなされる。下記の臨床症状がでておらず、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラントも含む)のみが陽性である場合に、治療を行うかどうかはいまだ議論の分かれるところである。
血栓症

血栓症の進行を防ぐため、すなわち2次血栓予防のために薬剤が投与される。脳梗塞などの動脈系の血栓であればアスピリンなどの抗血小板薬が使用される。下大静脈血栓や、動脈血栓で効果が足りないときにはワルファリンを投与する。劇症型抗リン脂質抗体症候群に対し、ステロイド剤シクロフォスファミドも投与されることがある。
脳梗塞

抗リン脂質抗体症候群と関連が深い神経症状は血管症状としての脳梗塞やTIAであり、APS患者の13.2%で虚血性脳卒中が認められる[2]。日本人では無症候性脳梗塞を含めると抗リン脂質抗体症候群の脳梗塞発症率は61%と高く、代表的な中枢神経病態である[3]。逆に脳梗塞患者における抗リン脂質抗体陽性率は13.5%程度である[4]。脳梗塞では若年者において他の危険因子を持たない場合や再発を繰り返す場合に抗リン脂質抗体が持続陽性ならばAPSを疑う。抗リン脂質抗体症候群の脳梗塞に対してはステロイドや免疫抑制剤は使用せず抗血栓薬を用いる。抗リン脂質抗体症候群では血栓症再発率が高く、抗血栓療法を行っているのにも関わらず1年間に7%の患者で再発が見られるため二次予防が重要である[5]。脳卒中治療ガイドライン2021では抗リン脂質抗体陽性者の脳梗塞再発予防には第一選択としてワーファリンを考慮してよいと記載されている。しかし推奨度Cでありエビデンスレベルは高くない。膠原病医の見解や診療の慣例と一致していない。また脳卒中診療ガイドラインではDOACに関してワルファリンと比較して脳梗塞再発を抑制できない可能性があり使用を勧められないと記載されている。確かに抗リン脂質抗体症候群患者における動脈血栓症の適切な管理について専門家間でのコンセンサスは乏しく、エビデンスも十分ではない[6]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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