抗うつ薬
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抗うつ薬(こううつやく、: Antidepressant)とは、典型的には、抑うつ気分の持続や希死念慮を特徴とするうつ病のような気分障害 (MD)に用いられる精神科の薬である。

不安障害のうち全般性不安障害パニック障害[1]社交不安障害 (SAD)、強迫性障害[2]心的外傷後ストレス障害 (PTSD)[3]にも処方される。慢性疼痛月経困難症更年期障害耳鳴りなどへの適応外使用が行われる場合がある。しかし適用外の処方には議論があり、アメリカ合衆国司法省による制裁が行われた例もある。
概要

モノアミン酸化酵素阻害薬三環系抗うつ薬の抗うつ作用が偶然に発見されて以降、セロトニンとノルアドレナリンの挙動が着目され、四環系抗うつ薬選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)が開発されてきた。

抗うつ薬は、効果の発現が服薬開始から2-6週間遅れるが、しばしば1週間後までに効果が見られることもある。抗うつ薬の有効性が議論されており、軽症のうつ病に対しては、必ずしも薬剤の投与は一次選択にはなっていない[4][5][6]。統計的には偽薬との差があるが効果は小さく、臨床的に意味がない差だとされる[7]

1990年代後半から、約30年間の抗うつ薬の大幅な増加は、測定可能な公衆の利益を生み出していない[8]。使用にあたっても1種類の抗うつ薬のみを使用する[9][10]。もし抗うつ薬に対して反応がない場合でも、複数の抗うつ薬の併用はせず、有害作用が臨床上問題にならない範囲で十分量まで増量を行い、十分量まで増量しても反応が見られない場合は薬剤の変更を、一部の抑うつ症状に改善がみられるがそれ以上の改善がない場合は抗うつ効果増強療法を行う[11][12][13]

ケタミンは、治療抵抗性うつ病に対しても時間単位で効果が現れるという即効性から[14]、世界では用いられるケースがある[15]。ただケタミンは解離性麻酔薬であり、薬物乱用されうる薬剤でもあることから、製薬会社はケタミンの薬理学的作用に注目した『ケタミン様薬物』の研究を進めている[16]

抗うつ薬の使用は、口渇といった軽い副作用から、肥満性機能障害など、様々な#副作用が併存する可能性がある。また2型糖尿病の危険性を増加させる[17]。さらに他者に暴力を加える危険性は、抗うつ薬全体で8.4倍に増加させるが、薬剤により2.8倍から10.9倍までのばらつきがある[18]。投与直後から、自殺の傾向を高める賦活症候群の危険性がある[19]。治験における健康な被験者でも自殺念慮や暴力の危険性が2倍であった[20]。日本でも添付文書にて、24歳以下で自殺念慮や自殺企図の危険性を増加させることを注意喚起している[21]。WHOガイドラインでは、12歳未満の子供については禁忌である[4]

急に服薬を中止した場合、ベンゾジアゼピン離脱症状に酷似した離脱症状抗うつ薬中断症候群)を生じさせる可能性がある[4][22]。離脱症状は、少なくとも2-3週間後の再発とは異なり、数時間程度で発生し、多くは軽度で1-2週間でおさまるとされるが[23]、2018年の調査では46%が重症で、数か月までにわたることも珍しくはない[24]。離脱症状の高い出現率を持つ薬剤、パロキセチン(パキシル)で66%やセルトラリン(ゾロフト)で60%がある[23]。副作用に関するデータは過小評価されており、利益よりも害のほうが大きい可能性がある[25][8]

製薬会社は、特許対策のために分子構造を修正し似たような医薬品設計を行っていたが、2009年にはグラクソ・スミスクラインが、神経科学分野での採算悪化を理由に、研究を閉鎖した[26]。その後、大手製薬会社の似たような傾向が続いた[27][28]
抗うつ薬の種類

日本で用いる事ができる抗うつ薬の一覧[29][30]系統一般名商品名発売年
三環系イミプラミンイミドール
トフラニール1959年
アミトリプチリントリプタノール1961年
トリミプラミン(英語版)スルモンチール1965年
ドスレピン(英語版)プロチアデン1965年
ノルトリプチリンノリトレン1971年
クロミプラミンアナフラニール1973年
アモキサピンアモキサン1980年
ロフェプラミン(英語版)アンプリット1981年
四環系マプロチリンルジオミール1981年
ミアンセリンテトラミド1983年
セチプチリンテシプール1989年
SARIトラゾドンデジレル
レスリン1991年
SSRIフルボキサミンデプロメール
ルボックス1999年
パロキセチンパキシル2000年
セルトラリンジェイゾロフト2006年
エスシタロプラムレクサプロ2011年
SNRIミルナシプラントレドミン2000年
デュロキセチンサインバルタ2010年
ベンラファキシンイフェクサー2015年
NaSSAミルタザピンリフレックス
レメロン2009年


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