手ぶれ補正機構
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キーパッドの接近写真による手ぶれ補正機構の有無の比較

手ぶれ補正機構(てぶれほせいきこう、: image stabilization)は、カメラデジタルカメラビデオカメラおよび双眼鏡で生じる、手ぶれによる映像の乱れを軽減させる仕組みのことである。
手ぶれ補正が使用される目的

手振れ補正の原理は機器の種類によって大きな差はないが、目的や使用法には若干の違いがある。
静止画撮影

静止画撮影における手ぶれ補正機構は、手ぶれにより生じる画像の乱れを防ぐことを目的とする[1][注釈 1]

静止画撮影における手ぶれとは、シャッターを押す時に、保持力が不十分であることなどに起因して手持ちしているカメラが動くことによって生じる画像のぶれである[注釈 2]

物理的には、露光時間の間にカメラ中の露光面が移動することによって、その露光面に当たる光が変化することによって生じる。直接的には、カメラの動きが原因であるが、そのカメラを支えるものは通常「手」であるため手ぶれと呼ばれる。片手で撮影するなど撮影者の問題である場合は、撮影時の姿勢や持ち方によってある程度は手ぶれを抑えることができる。しかしながら、撮影者が十分に気をつけていても、人間はカメラを完全に静止させることができないためにわずかな手ぶれは発生してしまう。また、後述するように、周囲が暗い場合などシャッター速度が十分に確保できない場合、手ぶれを防ぐのは難しい。

シャッター速度が速い場合、つまり露光時間が短い場合には、カメラの動きがほとんど撮影画像に影響を与えないため手ぶれが生じることは少ない。また、レンズの焦点距離が長くなればなるほど、カメラのわずかな動きであっても露光面に当たる光には大きな動きが生じるようになるから、焦点距離が長いとそれだけ手ぶれも生じやすい。ただし、焦点距離が短くても絞り値が大きくなればシャッター速度が遅くなるために、手ぶれは生じやすくなる。

一般的には、「使用レンズの焦点距離[注釈 3]分の1のシャッター速度」が手ぶれしない限界の目安と言われている[2]。つまり、焦点距離が長い望遠レンズでは高速なシャッター速度が要求される。たとえば、換算300mm望遠レンズでは、目安として1/300秒以上のシャッター速度が必要である。
補正効果と注意点

手ぶれ補正の効果は機種により異なるが、2020年には露出段数換算で8段の補正効果を謳う機種も登場している[3]

補正を行っても手ぶれを完全に除去することはできず、性能の限界を超えた低速シャッターを用いると手ぶれが生じる。また、被写体の動き(特にスポーツ撮影時の激しい動きや長時間露光時の被写体の動き)による被写体ぶれを抑えることは原理上できない。

三脚を使う場合は、手ぶれ補正機能を無効にしないと、逆に装置側が誤作動し、ぶれたようになってしまうものもある[4]
動画撮影

動画撮影における手ぶれとは、手持ちしたカメラの不要な揺れをいう。視聴時には画面全体が揺れて不快な映像となるため[注釈 4]、これを除去することが手ぶれ補正機構の目的である。特に望遠撮影においては手ぶれが顕著に現れる。

静止画撮影と同じく、カメラの持ち方を工夫したり三脚を用いることで軽減できる。また、バネやジャイロを使って手ぶれを防ぐ「ステディカム」が、映画撮影やスポーツ中継などで使われている。ENGで使用されるビデオカメラは、大きさと重量から肩乗せ式である、その保持スタイルは不要な揺れを少なくすることにも寄与している。
双眼鏡

双眼鏡では、手振れにより体感的な解像度低下や疲れやすさの問題が出る。

技術的にはカメラの光学式の補正機構と同様であり、国内メーカーではキヤノンがスチルカメラの技術を応用した製品を出している。
メカニズム

手ぶれ補正には物理的に光軸を調整する光学式と、デジタルカメラ等においては受光素子から受け取った画像データに計算を行い補正を施し記録する電子式が存在する。
光学式

光学式はレンズやイメージセンサーを移動させることで手ぶれを打ち消す方式である[5]。メカニカル補正ともいう[6]

レンズ内に補正光学系を設けたものをレンズシフト方式、イメージセンサー移動させるものをセンサーシフト方式と呼ぶ[6]。レンズシフト方式はレンズ内手ぶれ補正機構、センサーシフト式はボディ内手ぶれ補正機構(: In-Body Image Stabilization, IBIS)などと呼ばれることも多い[7]

電子式手ぶれ補正よりも画質劣化が少ない点が利点である。いずれの方式もレンズやイメージセンサの駆動系を組み込む必要があるため、小型カメラには最適とは言いづらかったが、システムの小型化が進み、スマートフォンにおいても、Nokiaが2012年に発売したLumia 920に初めて搭載され、Appleが2015年に発売したiPhone 6 Plus等のように、光学式手ぶれ補正を内蔵した機種が登場している。
バリアングルプリズム方式

レンズと同じ屈折率の液体を2枚のレンズではさみ、蛇腹状に動かすことによって撮像体への投影を補正する方式で[8]、これはプリズム効果による色分解が出ないぎりぎりのやり方だった。1992年にキヤノンとソニーが共同開発し、家庭用ビデオカメラとしてはソニーが1992年にハンディカムCCD-TR900でこれを搭載した[9]。キヤノンは同年VLマウントビデオレンズ「T10G-RF」[10]を、1994年にビデオカメラ「ムービーボーイE1」を発売した[8]。そして1995年にはキヤノン製双眼鏡にも同機構が組み込まれた[9][10]
レンズシフト方式

写真レンズ内に振動ジャイロ機構を備えた補正レンズを組み込み、ブレを打ち消す方向に補正レンズを動かすことによって光軸を補正する方式である。これにより受光面(フィルムやイメージセンサー)に到達する光の動きを抑えることで手ぶれを軽減させる。キヤノンのIS (Image Stabilizer) 方式、ニコンのVR (Vibration Reduction) 方式(COOLPIX S700など一部の機種を除く)、ソニーのOSS(Optical Steady Shot)方式(サイバーショットおよびα Eマウント)、パナソニックのMEGA OIS方式、シグマのOS (Optical Stabilizer) 方式、タムロンのVC (Vibration Compensation) 方式などがこの方式を用いている。

利点として、フィルムカメラでも手ぶれ補正効果が得られる[5]、一眼レフの光学式ファインダーでも画像の揺れが補正され撮影しやすい[2]、レンズごとに補正機構を最適化できるので高い補正効果を期待できることがある[2]。一方、補正用レンズや駆動系を組み込むため、光学系の設計に制約が生じ、レンズが大きく重くなるほか、レンズ交換式ではレンズごとに補正機構を有するため総コストが高くなる、原理的に光軸を軸とした回転ぶれが補正できないという欠点がある。

パナソニックは1988年に民生機としては世界初となる光学式手ぶれ補正機構を搭載したS-VHSフルカセットビデオカメラ「PV-460」(北米向け品番 国内には翌1989年にNV-M900として発売)を世に送り出すも、レンズ鏡筒全体を動かすのでどうしても大型化してしまい、小型化のため電子式に転換せざるをえなかった(電子式で「ブレンビー NV-S1」をヒットさせた)。しかし、電子式のシステム上の限界や画質向上のため再度光学式の開発を行い、1999年によりコンパクト化した光学式手ぶれ補正機構を搭載したデジタルビデオカメラ「NV-DS9」を発売し、この技術がその後のパナソニック製デジタルカメラにも用いられた。

ニコンは1994年に光学式手ぶれ補正方式を採用した世界初の35 mmコンパクトカメラ「ニコンズーム700VRQD」を発売した[11][5]

一眼レフカメラ用レンズでは1995年に発売されたキヤノンのEF75-300mm F4-5.6 IS USMが最初になる[10][5]

コンパクトデジタルカメラでは、オリンパス2000年8月にCAMEDIA C-2100 UltraZoomでキヤノン製の手ぶれ補正機構を搭載した。


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