戦闘指揮所
[Wikipedia|▼Menu]
博物館「ホーネット」で再現されているCIC。

戦闘指揮所(せんとうしきしょ、英語: Combat Information Center、CIC)とは、現代の軍艦における戦闘情報中枢のことである。レーダーソナー通信などや、自艦の状態に関する情報が集約される部署であり、指揮発令もここから行う。航空母艦においてCICに相当する部署は、CDC(Combat Direction Center)と呼ばれる。

その性質上多くの機密情報を扱うため、運用時間中は乗組員であっても立ち入りには制限が加えられる。
概要

CICには、戦術情報処理装置戦術データ・リンクをはじめとする各種のC4Iシステムが装備されている。これらはオペレータとともにマン・マシン・システムを形成して、戦闘中の情報処理を一括して担う。すなわち、CICは、艦のC4Iシステムとオペレータとを連接するためのマンマシンインタフェースとしての役割を持っており、その設計は、艦のシステム統合にあたって極めて重要である。

当初、CICは、単に、艦の戦闘に関する情報処理を一括して行なうための部屋というに過ぎず、その中での情報処理はほとんど完全な手動であった。その後、航空機性能向上とコンピュータの発達を背景に自動化が試みられ、1950年代初頭よりまずカナダで、ついでイギリスアメリカで開始された。初期は、レーダーなどの画面に表示された目標情報の入力を受けて、これを管理し、射撃指揮装置に移管するという、いわゆる武器管制装置に留まっていた。これらは、あくまでCICの装備品のひとつに過ぎなかった。

その後、より徹底的にCICとコンピュータの統合を推し進め、マン・マシン・システムとして目標の脅威レベルを判定する機能を付加した、いわゆるTEWA(Threat evaluation and weapons assignment)システムが開発された。アメリカにおいては、海軍戦術情報システム (NTDS)武器管制システム(WDS: Weapons Direction System)の複合システムとして発展したのち、ターター-D・システムで連接され、イージスシステムにおいて統合された。また、NTDS系列の機種は、フランス日本ドイツなどでも派生型が開発されたほか、イギリスやオランダでは独自に開発しているが、これらは当初よりTEWAシステムとして開発された。

海上自衛隊では、CICの区画をクリーンCと定めている。CICは軍艦において最も重要な部署の一つであり、ここが機能を失うとその艦の戦闘能力は無に等しくなるため、他の部分に比べ堅固な作りとなっている。

海上保安庁巡視船のうち、指揮統制機能を強化している船では、OIC(Operation Information Center)室と呼ばれる区画が設置されている。これはCICの海上保安庁版といえるものであり、会議室として災害対策本部を設置できるほか、GMDSS, JASREPインマルサット衛星通信装置や救難ヘリコプターとの画像伝送装置などの充実した通信装備が設置されている。ただし、巡視船においては、船の指揮機能の中枢は依然として船橋に置かれており、OIC室は、どちらかというと群司令部指揮所(TFCC)に近い機能を担っている。
沿革
草創期(1940年代 - 1950年代).mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}1940年代の空母(CVL-22)のCIC。1940年代の巡洋艦(CL-65)のCIC。

第二次世界大戦の前までは、軍艦における戦闘指揮は、艦長艦橋に位置し、そこから指揮を執っていた。これは、戦闘指揮に必要なものが無線通信を除き、肉眼で見えることだけで済んだためである。敵艦と自艦との位置関係の把握も視認範囲内が全てであった。

1930年代後半から1942年にかけて、のちにCICコンセプトにつながる様々な試みが行なわれた。イギリス空軍は、レーダー技術の発達にともない、これを活用するためにフィルター・ルーム・コンセプトを開発した。これは各レーダーサイトが得た目標情報を集中処理して、要撃機に対する管制に活用するものであり、地上要撃管制の原型であるとともに、洋上におけるCICコンセプトの原型でもあった。1940年バトル・オブ・ブリテンにおいて、このコンセプトは極めて大きな効果を上げた。バトル・オブ・ブリテンにおけるRAFはイギリス沿岸部に点在する22箇所のCH高高度レーダー監視所、29箇所のCHL高度レーダー補助監視所及び31箇所の内陸監視所をロンドン近郊アクスブリッジの中央防空指揮所で統括し、各防空管区からの情報を専用電話回線とテレグラムで集計。リアルタイムでドイツ軍攻撃隊の位置を把握して適当な戦闘機中隊に出動命令が下すという手法が取られた。戦闘機中隊は出撃後も逐次無線で誘導を受け、最短で迎撃ポイントに向かうことが可能だった。敵味方の部隊は盤上の駒として把握され、識別のためのIFFの搭載を含めてCICの基礎はここで確立されたと言える。このことから、大日本帝国海軍による真珠湾攻撃の直後から、アメリカ軍もフィルター・ルーム・コンセプトの導入に着手し、ウィリアム・テイラー海軍少佐とバーキスト陸軍中佐を中心とした委員会が、SCR-270レーダーをセンサーとした地上システムを構築した。[1]またこれに先駆けて、1941年8月には、アメリカ海軍の空母艦上に、フィルター・ルームと同様の防空戦闘指揮所が設置され、これが艦上におけるCICコンセプトの初適用となった。これは、急速に展開していく航空戦闘の様相に対応し、また、レーダー探知など、視認不能な敵情報を適切に把握するため、情報を統合的に集中処理するものであった。[2]

一方、海洋戦にCICコンセプトを適用する試みは、これらとは別個に着手された。1942年の第三次ソロモン海戦およびルンガ沖夜戦において、新型のSG対水上レーダー装備の駆逐艦「フレッチャー」の副長であったJ・ワイリー少佐は、艦橋に隣接した海図室で、レーダーを直接操作して艦長が必要とするレーダー情報を伝えるとともに、内線電話によって砲術長・水雷長と緊密に連絡を取り、艦長の戦闘指揮を極めて効率的に補佐した。これは事実上、アメリカ海軍史上で初めてCICコンセプトが創出された例であり、この功によってワイリー少佐はシルバースターを授与されるとともに、1943年より、駆逐艦にCICコンセプトを適用するためのプロジェクト・チームに参加することとなった。このチームは、C・ラニング中佐の主導下に、ワイリー少佐のほか、G・フィリップ少佐、R・ブックマン少佐が参加していた。このチームは2ヶ月で、駆逐艦にCICを導入するためのハンドブック( ⇒C.I.C. Handbook for Destroyers Pacific Fleet)を作成し、これはまもなく全海軍に配布されることとなった[3]

なお、このチームの最先任士官であったラニング中佐は、CICコンセプトの源流がサイエンス・フィクションにあることを認めており、その一例として、E・E・スミスレンズマン・シリーズに登場する巨大な指揮艦であるディレクトリクス号を挙げている。この宇宙船には、特殊な知覚能力を備えたレンズマンたちが戦闘空間を視覚化することで、司令官艦隊指揮を円滑化するための「タンク」とよばれる設備が備えられており、劇中では、これによる指揮統制戦の優位がたびたび強調されていた。[4]
自動化の導入(1950年代 - 1980年代)1960年代の空母(CVA-34)のCIC。情報集約には依然としてクリアボードを使用している。1980年代のフリゲート(FFG-46)のCIC。NTDSに準じて構築されている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:27 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef