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戦術データ・リンク(せんじゅつデータ・リンク、英: Tactical Digital Information Link, TADIL)は、軍隊の作戦行動に用いられる情報を伝達、配信及び共有するためのデータ通信システムの総称である。 情報交換装置または、情報共有化機器とも訳される通信情報機器とその通信仕様(プロトコル)を総合して戦術データ・リンクと称する。音声情報、自己や目標の位置や状態の情報、可視光・赤外線・レーダー表示など画像情報、を一括して送受信できる[1]。使用資源にUHF帯からSHF帯の高周波の電波を使用するため、指向性をもたせることも容易で、デジタル技術で秘匿性と対妨害性も優れる。 戦術データ・リンクを用いることで情報の共有化が容易になり、使用する組織においては効率的な指揮管理能力が得られる。戦術データ・リンクの装備の有無、バージョンを探れば、その兵器の能力、任務、指揮官からの期待値等がおおむね推測可能であり、近代戦においては必須の装備といえる。 アメリカ合衆国の軍隊による軍事における革命では、中心的な役割を果たす技術となっている。20世紀末からは、さまざまな方面から得られた情報を戦術データ・リンクによって統合的に共有し、部隊の行動に関与する者が総合的な判断材料を得ることが計画されている。このため、従来型の指揮系統にある中間管理層を必要とせずに、効率的で迅速な情報収集と指揮命令の伝達を可能とすることを計画している。本技術の使用によって補給対象の優先順位が判断しやすくなる面でも有効とされる。 陸軍と空軍では、通信衛星または早期警戒管制機・早期警戒機によって各部隊の保有する情報の一元化が可能になったため、大部隊の機動的運用が可能になった。例えば、歩兵の一兵士が目前に敵大部隊を発見した際、その状況をこの技術に基づいた携帯型ターミナル装置に入力すれば、ネットワークに含まれる友軍部隊のすべてが敵の存在を知り、迅速な対応が可能となる。 時分割データ・リンク (TDDL: Time Division Data Link) は、西側諸国空軍の地上要撃管制システムで用いられていた地対空データ・リンクの通称。アメリカ空軍の半自動式防空管制組織 (SAGE)、航空自衛隊の自動警戒管制組織 (BADGE)、北大西洋条約機構のNATO自動警戒管制組織 (NADGE 日本版TDDLは、同様に時分割多重化技術を採用したリンク4 (TADIL-C) の技術が導入されていると伝えられ、極超短波 (UHF) が採用されている。新BADGEシステム (JADGE) は、より高速で相互運用性も向上したリンク 16に代替される計画である。 リンク4 (TADIL-C) は、NATOおよびアメリカ海軍で、航空機の要撃管制や着艦誘導に用いられるデータ・リンクである。リンク 4は、リンク 4Aとリンク 4Cの2種があり、いずれもUHF帯を使用して通信速度は5,000 bpsである。1950年代末から使用され、古く単純な技術を使用しており、伝送速度は遅く、電子攻撃に弱い弱点を持つが、運用は比較的容易で、データリンクの黎明期を支えた重要な規格である。リンク 4はSTANAG 5504として規格化されていた。 リンク 4Aは、艦船と航空機、あるいは航空機間の音声通信の代替用に設計されたもので、自動着艦や、航空機の要撃管制などに用いられ、最大で100機までを管制できる。時分割多重化されており、艦船から航空機への管制メッセージ(V-シリーズ; 14ミリ秒)、航空機から艦船への応答メッセージ(R-シリーズ; 18ミリ秒)、試験メッセージの3形式のメッセージを使用している。14+18ミリ秒がタイミングとなっており、14ミリ秒の管制メッセージは70のタイム・スロット(各々0.2ミリ秒)に分かれていて、そのうち56個でデータ伝送し、残り6.8ミリ秒のうち最大4.8ミリ秒は管制・応答時の伝送遅延を吸収するために用いられる。 一方、リンク 4Cは、リンク 4Aを補完して、戦闘機間で使用されるデータ・リンクである。F-14にのみ搭載され、ひとつのリンク 4Cネットワークには、最大で4機までが参加できるが、リンク 4Aとリンク 4Cを同時に使用することはできない。 リンク 4はかなり古い規格であり、将来的にはリンク 16 (TADIL-J) に代替される計画であったが、2009年現在にいたるまで運用され続けている。 これは、後述のリンク 11に多くの面で匹敵する、イギリスのデジタル・データ・リンクである。開発はフェランティ社によって行われた。フェランティ社の社内呼称はリンク X、NATO呼称がリンク 10である。輸出用の派生型としてリンク Yが開発されており、これは北大西洋条約機構外部においてはもっとも一般的な戦術データ・リンク規格となった。 リンク 10/Xの性能は、おおむねリンク 11と同等で、HF-SSB、VHF、UHF帯を使用する。ただし、要求される情報処理性能が4分の1である一方で、1つの目標あたりの情報も3分の1となっている。リンク 11との互換性はないため、イギリス海軍では、42型駆逐艦など大型艦ではリンク 11を同時に搭載するとともに、リンク 10搭載艦には、リンク 11受信専用の端末 (ROLE: Receive-Only Link-Eleven) を搭載している。 輸出用のリンク Yの通信速度は300 - 1200 bps、ネットワークに参加できるユニット数も通常は24程度である。現在販売されているのは改良型のMk.2で、通信速度は4.8 kbpsに増強されている。 1950年代後半より、アメリカ海軍は、艦隊防空をシステム化する試みとして、海軍戦術情報システム (NTDS) の開発を開始していた。これは、各艦に戦術情報処理装置を搭載し、それらを戦術データ・リンクによって連接して、艦隊全体で一体となって戦闘を行なうものであった。そのネットワークにおいて、艦隊内での情報共有に用いられるデータリンクとしては、コリンズ社の開発したAリンク(のちのリンク 11)が採用された。リンク 11は、NTDSに並行して海軍航空隊が整備していた空中戦術情報システム (ATDS: Airborne Tactical Data System) においても採用され、空軍でもTADIL Aとして採用されて、それぞれE-2 AEW、E-3 AWACSに搭載されている。 リンク 11はアメリカ海軍での名称、TADIL-Aはアメリカ空軍での名称で、本質的に同じものである。アメリカ空軍・海軍、NATO軍、日本の航空自衛隊と海上自衛隊などで使われる。これらは、西側諸国で使用されている代表的な戦術データ・リンクである。のちに改良型のリンク 11B (TADIL-B) が開発され、フランスは、Vega / TAVITACで使用するために、リンク 11をコピーしてリンク Wを開発した。 リンク 11 (TADIL A) は、1950年代後半に開発された比較的古いものであるため、やや複雑な接続方法を採用しており、ネットワークを構成する各ステーションのうち1つが通信ネット管制ステーション (NCS: Net Control Station) となって、他のステーション (NPS: Net Picket Station) の通信を管制する。ネットワークに所属するユニットは必要に応じて通信ネット管制艦 (NCS) の任を果たす必要があるため、その運用にはある程度の情報処理能力が要求される。 リンク 11は、STANAG 1241として規格化されており、リンク 11で送受信されるメッセージはM-シリーズと称され、自艦の座標を送信するM.1、空中目標の座標を送信するM.2、水上目標の座標を送信するM.3、ASW目標の座標を送信するM.4、ESM探知の座標を送信するM.5、ECM目標の座標を送信するM.6、戦域ミサイル防衛において使用されるM.7、情報源などについて伝達するM.9、航空管制用のM.10、航空機の状況を伝達するM.11B、対潜哨戒機の状況を伝達するM.11C、敵味方識別装置の情報を伝達するM.11D、諜報状況を伝達するM.11M、国籍情報を伝達するM.13、武器・交戦状況を伝達するM.14、指揮統制について伝達するM.15がある。 HFとUHFを併用し、伝送距離は艦艇間で25海里、艦艇と航空機間は150海里ほどである。端末機器数は20個程度であり、使用については護衛隊、護衛隊群程度の比較的小規模な範囲で運用される。伝送速度はHF/UHF帯使用で1,364bps、UHF帯使用で2,250bpsである。ECCM性を向上したSLEW仕様では1,800bpsである。ネットワークに参加できるユニット数も、通常は20程度、最大でも62である。 海上自衛隊ではしらね型護衛艦の「しらね」から装備が始まり、たちかぜ型護衛艦以降のミサイル護衛艦、あさぎり型護衛艦以降の汎用護衛艦、およびはやぶさ型ミサイル艇の全てに搭載されているほか、P-3C 哨戒機にも装備されている。
概要
主な戦術データ・リンク
TDDL
リンク4 (TADIL-C)
リンク 10
NTDS / ATDS系列「海軍戦術情報システム」も参照
リンク 11 (TADIL-A/B)詳細は「リンク 11」を参照
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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