戦略管理
[Wikipedia|▼Menu]

経営戦略論(けいえいせんりゃくろん、: strategic management)は、経営学の一領域に位置づけられる、企業経営戦略を研究する学問分野である。また、英語圏で使用されているSWOT分析
概要
研究の対象

経営戦略論は、企業が経営戦略を策定・遂行・評価するプロセスを研究する学問である。

戦略経営とは、企業が、関連する市場産業を評価・統御し、競合他社を査定し、全ての既存あるいは潜在的な競合他社に対処できるような目標と戦略を設定し、各々の戦略が遂行されているかどうか、変化した環境、新技術、新たな競合他社、新たな経済的・社会的・財政的・政治的状況に適用させるために戦略を置き換える必要が無いかどうかを一年ごとあるいは四半期ごとに再評価する、継続的なプロセスである。(Lamb, 1984:ix)[1]

このように、経営戦略を策定・遂行・評価するプロセス全体を、英語ではstrategic managementと呼ぶ。正確な和訳は戦略経営(戦略的経営)だが、授業や学問の名称としては和訳として経営戦略論が定着している。厳密な区別はそれほど重視されていないが[脚注 1]、プロセス全体を指す戦略経営とプロセスの過程で設定される経営戦略を区別する場合もある[2]
教育・学習

日本における経営戦略論の教育は、大学大学院経営学部商学部経営修士 (MBA) 課程、企業の研修などで行われている。理論的・学術的なフレームワークの他、ケース[要曖昧さ回避]を利用して理論的フレームワークを現実に適用するための授業も盛んに行われている。

授業内容は教育機関によって相当の開きがあるが、個々の製品・サービスが市場で優位を得るための製品戦略(マーケティング戦略)、複数の製品・サービスから成り立つ事業レベルでの競争優位を論じる事業戦略、複数事業間の資源配分や国際化・多角化などの問題を論じる全社戦略などが、中心的なテーマである。
学問的地位

企業内部の資源の重要性を指摘した経営学者ジェイ・B・バーニーは、経営戦略論は経営学において最も未熟な領域の1つであると評価している[3]。バーニーによれば、経営戦略論は学際的な性質をもつがゆえに、財務会計組織行動学マーケティングマネジメントなどの領域が厳格な理論を成立させるまで、発展するための足場を得られなかったからであるという。しかしながら、それらの領域が学問として成熟するにつれて経営戦略論も少しずつその地位を向上させており、特にマイケル・ポーターの Competitive Strategy(1980)[4] とリチャード・ルメルトの Strategy, Structure, and Economic Performance (1974)[5] は、経営戦略論の学術的地位の向上に大きく貢献した象徴的な論文であるとバーニーは評価している。
経営戦略論の歴史
経営戦略論の誕生

軍事学における戦略という概念が経営学に導入され、企業の経営戦略が本格的に論じられるようになったのは、1950-60年代に入ってからであった。経営戦略論の黎明期にあたるこの時期の代表的な研究者は、アルフレッド・チャンドラー、 フィリップ・セルズニック(英語: Philip Selznick) 、イゴール・アンゾフピーター・ドラッカーらである。

「組織は戦略に従う」の命題で有名なアルフレッド・チャンドラーは、将来を見据えた長期的な視座の重要性を強調した。すなわち、個々の職能や部署を個別的に考えていくのではなく、戦略という長期的視座の下で職能間・部署間を包括的に調整することが重要であると主張したのである[6]

セルズニックは、組織とそれをとりまく環境の適合性が重要であるというアイデアを打ち出した[7]。この考え方は後に、SWOT分析に機会と脅威という新たな洞察をもたらすこととなった。

アンゾフは、チャンドラーの研究を基礎に経営戦略を分類した。市場浸透戦略、製品開発戦略、市場開発戦略、水平統合・垂直統合、多角化などの戦略を用いることで、企業は将来の機会と挑戦の為に体系的に備えることができると考えた。1965年に著したCorporate Strategyの中で、彼は「企業の現在地」と「企業のあるべき姿」のギャップを理解し、そのギャップを縮減するように振る舞うべきであるというギャップ分析という、現在でも経営分析手法として用いられるフレームワークを開発した[8]

ドラッカーは経営に関する数多くの書籍を現在に残しているが、経営戦略論という領域においては特に二つの貢献が重要である。第一の貢献は、「明確な目標の無い組織は、舵の無い舟のようだ」と、目標の重要性を指摘し[9]目標管理理論を導出した点である。第二の貢献は、現在の我々が言う所の知的財産の重要性を早くから予見していた点である。彼は知識労働者 (knowledge worker) の増加を予測し、知識労働者管理の重要性を指摘した。なぜなら知識労働は非階層的であるため、何らかのタスクはそのタスクに最も精通する人間が臨時のリーダーとなって遂行されるようになるだろうとしている。

Ellen-Earle Chaffee(1985)は、1970年代の経営戦略論(戦略経営)を以下の様に整理した[10]

戦略経営は、「組織をビジネス環境へと適応させること」が主要なテーマである。

戦略経営は、流動的かつ複雑である。変化は、非構造的かつ非反復的な反応を組織が必要とするような、環境要因の新たな連結を産む。

戦略経営は、方向性を示すことで組織全体に影響を及ぼす。

戦略経営は、戦略形成(内容)と戦略遂行(遂行過程)から構成される。

戦略経営は、計画されるものと、そうでないものから構成される。

戦略経営には、企業全体の戦略や個々のビジネスの戦略など、階層がある。

戦略経営は、概念的思考プロセスと分析的思考プロセスから構成される。

成長戦略とポートフォリオ理論

1970年代の経営戦略論の多くは、規模・成長・ポートフォリオ理論を対象としていた。

1960年から19年間に渡って続けられたPIMS研究は、市場戦略が市場占有率に与える影響を探索する試みである。ゼネラル・エレクトリックで開始されたこの研究は、1970年代始めにハーバード大学へ、1970年代後半に戦略計画研究所 (Strategic Planning Institute) へと移管されながら続けられ、現在では収益性と戦略の関係について大量の情報を蓄積している。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:100 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef