憲法裁判所
[Wikipedia|▼Menu]
ドイツの連邦憲法裁判所

憲法裁判所(けんぽうさいばんしょ)は、憲法裁判を行うために設置される裁判所である[1]
概要

憲法裁判所とは、憲法裁判を行うために設置される裁判所である。憲法裁判とは憲法解釈に関する見解の相違と疑義を裁判手続で解決する手続のことをいい、憲法保障(憲法を侵害や違反から守り、憲法秩序の存続と安定を保つこと。)の一類型である[1]

憲法裁判所またはそれに類似した機関を持つ国としては、ドイツフランスイタリアオーストリア韓国スペインタイチェコハンガリーベルギーポーランドポルトガルルーマニアロシア中華民国(台湾)などがある。各国の憲法裁判所は、その統治機構や歴史的沿革などにより、様々な権限が付与されている。
違憲審査制詳細は「違憲審査制」を参照

ある行為が憲法に適合するかしないか審査し、決定する権限を違憲審査権という[注 1]。この違憲審査権のうち、立法府(特に議会)の制定した法律に対して違憲審査を行う権限が特に重視され、立法に対して他の機関による違憲審査を認める制度を違憲審査制という[注 2]

この違憲審査制には、特別の政治機関に違憲審査権を認める制度と、何らかの裁判機関にこれを認める制度の二つがある。そして、通常は違憲審査制といえば後者の「何らかの裁判機関に違憲審査権を認める制度」を指すことが多い。「何らかの裁判機関に違憲審査権を認める制度」も大別すると二つの類型があり、一つはアメリカ型・付随的違憲審査制で、もう一つはドイツ型・憲法裁判制である。
日本において
日本の内閣法制局

日本の内閣法制局は、行政権を担う内閣の下に置かれ、独立した第三者的機関ではないものの、「憲法裁判所的機関」とも言われることがある。これは、内閣法制局が、国会における立法の多数を占める内閣提出法案(閣法)の事前審査を行っており、抽象的違憲審査を行う機関がない日本においてこれに代わる機能を持っているためである。
日本における憲法裁判所設置の可能性

前述の通り日本には憲法裁判所は存在しないが、仮に日本にも憲法裁判所を設ける場合、 日本国憲法第76条第2項では特別裁判所の設置を禁じており、なおかつ日本国憲法第81条では、違憲審査の最終的権限を最高裁判所に与えているため、最高裁判所から独立した憲法裁判所を設けるためには、上記2条項の憲法改正が必要である。ドイツ型のように最高裁判所から独立した憲法裁判所を設ける案のほか、最高裁判所の内部に違憲審査を専門に行う「憲法部」を新たに設ける案などもある。
アメリカ型・付随的違憲審査制

アメリカ合衆国において採られている違憲審査制は、付随的違憲審査制と呼ばれる。付随的違憲審査制とは、通常の裁判所が、具体的な訴訟事件を前提として、その手続の中で、原則としてその訴訟の解決に必要な限りにおいて違憲審査権を行使する制度である。アメリカ型・付随的違憲審査制においては、通常の裁判所が違憲審査を行うため、憲法裁判所は設置されない。日本の裁判所もこの制度を採用している(主に最高裁判所が担うが、そのほかの下級裁判所も判断を下す)。「アメリカ合衆国の司法制度」も参照

このようなアメリカ型・付随的違憲審査制を採用しているアメリカや日本の最高裁判所においては、裁判官の定員は少ない。具体的には、アメリカでは9名、日本では15名である。連邦国家であるアメリカの場合は各州ごとに州最高裁判所を頂点とする三審制の司法制度が存在しており、ほとんどの事件は各州の裁判所で処理されるのが原則で、ワシントンD.C.合衆国最高裁判所に持ち込まれる事件は全体のごく一部である。アメリカ合衆国憲法の中には、この違憲審査制が定められた条文や裁判所に違憲審査権を認めた条文はない。また、制定法でも定められておらず、判例法によって成立した制度及び権限である。初めて裁判所に違憲審査権があると判断した判例は、1803年に出されたマーベリー対マディソン事件の判決(首席裁判官ジョン・マーシャルの名をとって「マーシャル判決」と呼ばれる)である。
ドイツ型・憲法裁判制オーストリアの憲法裁判所

ドイツにおいて採られている違憲審査制は、憲法裁判制と呼ばれる。憲法裁判制では、通常の裁判所と区別した特別の憲法裁判所を設け、具体的な訴訟事件を離れて抽象的に法令その他の国家行為の違憲審査を行う権限をこれに与えているところに特色がある(抽象的違憲審査制)。ドイツでは伝統的に、大臣の責任追及や憲法機関相互の争議などについて、特別な裁判所を設けてその裁判手続に基づいて解決するという制度があった。近代以降も、この特別な裁判所の制度は、機関相互の争議裁定や連邦制度の維持を目的として設置された。さらに、第二次世界大戦後、アメリカの違憲審査制の影響を受けて、ドイツ基本法(旧西ドイツの憲法典)で採用されたのが、連邦憲法裁判制度(連邦憲法裁判所)である。

連邦憲法裁判所は、行政など他の権力はもとより通常の裁判所からも分離され、独立している裁判所である。その制度趣旨は、客観的な憲法秩序の保障[注 3]とされたため、その権限は、伝統的な憲法裁判の系統に属する憲法機関相互の争訟の裁定、連邦制度に関わる権限争議の裁定などのほか、法律に対する抽象的違憲審査の権限や、個別的基本権侵害に関わる具体的違憲審査の権限など、多面的で強大なものとされた。そして、このような強大な権限を有する裁判所であるため、それを構成する裁判官は、連邦議会連邦参議院によって、党派比例的な選出方法に基づいて選任され、政治的に偏らないように配慮されていると言われる。

このようなドイツ型の憲法裁判制度を持つ国には、フランス、イタリア、オーストリアなどがある。ドイツ型の憲法裁判制度を持つ国々においては、憲法裁判所に所属する少数の裁判官が憲法裁判を専門に扱う一方、通常の最高裁判所は全国から送られてくる上告事件を棄却せず全て審理するため、アメリカや日本の最高裁判所より多数の裁判官を抱えているのが特徴である。たとえば、ドイツの最高裁判所である連邦通常裁判所には125名の裁判官が所属しているほか、事件の種類に応じて連邦行政裁判所、連邦労働裁判所、連邦社会裁判所、連邦財政裁判所の各裁判所がそれぞれの事件の最上級審を管轄している。また、フランスの最高裁判所である破毀院には112名の裁判官が所属しているほか、行政事件を専門に扱う最上級審の裁判所として国務院が存在する。このほか、イタリアの最高裁判所には250名の裁判官が所属している。ちなみにオーストリアは人口800万人余の小国であるが、それでも最高裁判所には58名の裁判官が所属している[注 4]
その他の違憲審査
フランスの憲法評議会

1958年に制定されたフランス共和国憲法(第五共和国憲法)には、違憲審査を行う機関として憲法評議会 (あるいは憲法院) を置くことが定められた。他国の憲法裁判所の多くが、その裁判官の資格として、通常の裁判所の裁判官の経験や法曹資格を定めるのに対して、憲法評議会の委員(9名)には、特に任命資格などが定められず、その構成も大統領国民議会議長元老院議長からそれぞれ3名ずつ任命すると定めるなど、政治的機関としての色彩が強いため、「狭義の違憲審査制」(何らかの裁判機関が違憲審査を行う制度であること)の例から除外されてきた。しかし、1980年代以降、憲法評議会は憲法裁判所的な性質の機関へと発展し、人権問題に関する判断の蓄積も備えてきた。
韓国

韓国はドイツ型と考えられる。韓国では1987年改正の現行憲法によって、通常の最上級裁判所である大法院とは別に憲法裁判所が設置された。憲法裁判所の裁判官は、大法官となる資格を有する者(その具体的内容は下記の表を参照)の中から、大統領・国会・大法院が3名ずつを指名する。憲法裁判所の権限は、ドイツ型の制度を敷いている諸国と同様、憲法解釈のほか大統領の弾劾、政党の解散、機関争訟(行政機関相互間、たとえば国と自治体との間で発生した対立の処理)といった重要な職責を与えられている。
中国

中華人民共和国最高人民法院は、下級裁判所において憲法判断が争点となった場合に、当該下級裁判所からの照会に応じて憲法判断を回答するという体制を敷いている。憲法判断と重要案件の終審とを同じ裁判所が担当するというアメリカ型の側面がある一方で、訴訟当事者に上訴の負担をかけずに憲法問題の最終解決を行えるというドイツ型の機動性も併せ持った、やや変則的な制度である。なお、中国の司法制度は原則として二審制であり、基層人民法院(簡裁に相当)・中級人民法院(地裁に相当)でスタートした案件の事実審が最高人民法院に持ち込まれることがない(例外:死刑の宣告)ということも、この変則的な体制の理由と考えられる。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:35 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef