惑星物質試料受け入れ設備
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JAXA相模原キャンパス内の総合研究棟。棟内に惑星物質試料受け入れ設備がある。

惑星物質試料受け入れ設備(わくせいぶっしつしりょううけいれせつび)は[† 1]独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)相模原キャンパス内にある一設備である。宇宙探査機によってもたらされた地球外からの物質を探査機の回収カプセルから採取し、採取した物質のカタログを作成し、初期分析を行った後に、詳細研究を行う各研究機関に配布を行い、一部の試料については保管を行うことを目的としている。
目次

1 概要

2 施設全体としての機能

3 4つのクリーンルームとその機能

4 クリーンチャンバー

5 設備の運用について

6 脚注

6.1 注釈

6.2 出典


7 参考文献

8 外部リンク

概要

NASAアポロ計画や旧ソ連ルナ計画によって、月の試料を地球上に持ち帰ることに成功したことによって、地球以外の天体から物質試料を採取して地球に持ち帰る、いわゆるサンプルリターンが開始された[1]

地球外からの物質を分析するためには、隕石宇宙塵といった地球に落下する物質を調査、研究する方法もあるが、隕石や宇宙塵の分析には、どの天体からやってきたのかという起源天体を知ることが難しく、また起源天体内が判明した場合でも該当する天体のどの場所からやってきたのかという物質の出どころを知ることは極めて難しく、また地球落下時や落下後に地球上の物質による汚染や変質等を受ける度合いが大きくなるという弱点を抱えている[1]

宇宙探査機によるサンプルリターンは、技術的な困難や高コストという問題はあるが、試料が受ける地球物質による汚染を最小限に抑えることが可能であり、また探査機によって試料を採取する天体、そして天体内の場所も特定が可能であり、今後技術の進歩によって天体内の科学的に意義が大きい場所を狙ってサンプルリターンを行うことも期待される[1]

アポロ計画の後、アメリカでは1999年2月に打ち上げられ、2006年1月にヴィルト第2彗星などの試料を地球へ持ち帰ることに成功したスターダスト2001年8月に打ち上げられ、2004年9月に地球へ帰還して、太陽風に含まれる粒子のサンプルリターンを行ったジェネシスという計画が遂行された。アメリカにはジョンソン宇宙センター内にサンプルリターンによって入手された試料を扱うキュレーション施設が存在する[1][2]

日本でも2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機はやぶさによって、小惑星イトカワから採取された物質のサンプルリターンが実現されることが期待され、探査機によって地球外からもたらされる物質を適切に採取、管理、保管することを目的として、2008年3月、宇宙航空研究開発機構相模原キャンパス内に惑星間物質受け入れ設備(キュレーション設備)が完成した[3]

惑星間物質受け入れ設備は4階建ての総合研究棟内にある。地下機械室と2階の研究室以外の主要な設備は1階にあり、1階部分全体の大きさは24メートル×21.6メートルである。主要設備内は惑星試料情報処理室、クリーンルーム運用室、加工・洗浄室、更衣室、試料準備室、電子顕微鏡室、惑星試料処理室の7室に分けられている[1][4][5]
施設全体としての機能

サンプルリターンによって入手された試料を採集した後、物質のカタログを作成し、初期分析を行い各研究機関に分配し、一部試料については保管を行うという惑星物質試料受け入れ設備の目的を達成するために、設備全体が特殊な環境に整備されている[1][3]

まずサンプルリターンによって得られる物質を取り扱う場合、汚染の防止について細心の注意を図る必要が生じる。汚染には大きく分けてサンプルリターンによって得られた地球外の物質によって地球環境に悪影響を与える可能性と、地球上の物質によってサンプルリターンによって得られた物質が汚染される可能性がある。今後、火星など生命の存在する可能性が指摘されている天体や、D型小惑星など現在どのような物質で構成されているのかデーターが揃っていない天体からのサンプルリターンでは、人類にとって有害な生命体による悪影響の可能性等を排除する対応が必要になると考えられるが、惑星物質試料受け入れ設備では地球外からの物質等の汚染よりも、サンプルリターンによって得られた試料を地球上の物質による汚染から極力守る多くの工夫がほどこされている[1][6]

また宇宙探査機によって入手される地球外物質の量はごく少量にとどまる場合もあり、試料の紛失防止についても配慮がなされている[1]
4つのクリーンルームとその機能

全7室で構成されている惑星物質試料受け入れ設備の中で、加工・洗浄室、試料準備室、電子顕微鏡室、惑星試料処理室の4室はクリーンルームとなっている。特に試料を直接取り扱う惑星試料処理室には高い清浄度が要求され、部屋内の気圧は惑星試料処理室、電子顕微鏡室、試料準備室、加工・洗浄室、更衣室の順に低くなっており、気流の流れが惑星試料処理室に向かわない工夫がなされている[1]

またクリーンルーム内で働く人間が汚染源となるため、一度に入室する人数に制限を設け、整髪料や化粧品を使用したままの入室を禁じ、更には更衣室から加工・洗浄室に入る部分と、加工・洗浄室から更に清浄度が高い試料準備室の入る部分の2ヵ所にエアシャワーが設けられ、クリーンルーム用衣類も加工・洗浄室とそれ以外の清浄度が高い部屋とでは別のものが使用されている。またクリーンルームでは定期的に超純水で床面の清掃が行われる[1][3]

加工・洗浄室は1立方フィート内の0.5マイクロメートル以上の粒子数が10000個とされている。室内には工作機械が備えられている工作機械ブースがある。工作機械の使用によってダストが発生するためクリーンルーム内に工作機械を備え付けるのは異例なことであるが、宇宙探査機のカプセルを分解・解体するのにどうしても工作機械が必要とされた。機械の作動によって発生するダストからの汚染を防ぐため、工作機械ブースに入った空気はクリーンルーム内に戻さない構造となっている。また工作機械ブース以外にカプセルの洗浄などが行われるCO2洗浄ブース、そして試験容器などの洗浄が行われる有機溶剤処理小部屋が設けられている。これらの部屋から排出される空気も屋外へ排出され、クリーンルーム内を汚染しないようになっている[1][3]

試料準備室、電子顕微鏡室は1立方フィート内の0.5マイクロメートル以上の粒子数が1000個とされている。資料準備室内には酸・アルカリ処理小部屋があり、加工・洗浄室内の有機溶剤処理小部屋とともに試験容器の洗浄を行っている。使用される酸やアルカリは超高純度のものを使用して容器の徹底的な洗浄を行う。ここから排出される空気もやはり空気も屋外へ排出され、クリーンルーム内を汚染しないようにされている。電子顕微鏡室には採集された試料を観察し、元素分析を行うための走査型電子顕微鏡がある[1][3]

クリーンルーム内で最も奥にある惑星試料処理室は、1立方フィート内の0.5マイクロメートル以上の粒子数が100-1000個と最も清浄な空間となっている。


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