恒星
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恒星

恒星(こうせい、: fixed stars、: asteres aplanis)とは、自らを発し、その質量がもたらす重力による収縮に反する圧力を内部に持ち支えるガス体の天体の総称である[1]。古典的な定義では、夜空に輝く星のうち、その見かけの相対位置の変化の少ないもののことを指す[2]地球から一番近い恒星は、太陽系唯一の恒星である太陽である[3]

惑星が地球を含む太陽系内の小天体であるのに対し、恒星はそれぞれが太陽に匹敵する大きさや光度をもっているが、非常に遠方にあるために小さく暗く見えている[2]
語源

「恒星(: asteres aplanis)」という言葉は、英語「fixed star」の漢訳であり、地球から肉眼で見た際に太陽または太陽系惑星に見られるような動きを見せず、天球に恒常的に固定された星々という意味で名づけられた[4]。これに対し、天球上を移動していく星のことを「さまよう星」という意味で「惑星」と名づけられたといわれる[5]漢字圏(中・越・朝・日)で「恒星」という漢語術語は共通するが、「惑星」という術語は現在では日本のみが使用する。中・越・朝は「行星」といい、「さまよう星」という意味ももつが、同時に五行思想に基づく五惑星(水星・金星・火星・木星・土星)を暗示する。恒星・惑星・行星という漢語は、いずれも、明末清初に西欧天文書がマテオ・リッチとその協力者たちによって漢訳される際に、参照された古代中国の宇宙論から採用されたと考えられるが、初出は不明である。上海博物館蔵戦国楚竹書に「恒先」と仮称される文献があり、その宇宙論が「恒」と「惑」(或)および「恒」と「行」によって構成されていることが浅野裕一『古代中国の宇宙論』(2006, 94-96頁)に紹介されている。しかし、明清時期にはこの書は失われた状態であって、マテオ・リッチとその協力者たちにより参照されたのは似た内容を持つ別の文献だったと考えられる。
固有運動

語源にもあるように、太陽以外の恒星は地球から数光年以上の離れた場所にある[4]ため、恒星の見かけ上の相対的な位置はほとんど変化しない[6]

ただし、恒星は天球上で完全に静止しているわけではなく、わずかに固有運動を持つ[4]。明るい恒星では年間0.1秒角以下の固有運動を持つが、太陽に近い星はより速く動き、これらは高速度星と呼ばれる。その中でもバーナード星(HIP87937)は10.36秒角/年の速度で移動し、100年間で満月半径にほぼ相当する17.2分角を移動する[6]。そのため、特に注意を払っていなければ数十年から数百年程度の時間では肉眼で変化を確認することは難しい。
命名と分類

相対的に動かない(前述のように現在ではこの表現は厳密には正しくなく、ごくわずかな固有運動が発見されている)という恒星の性質から、古代の人々は恒星の配置に星座を見出してきた[4]

古代ギリシアヒッパルコスが作成し、これを元にプトレマイオスが『アルマゲスト』に記載した星表には、1022個の星が存在した。この星表はイスラム世界にも伝えられ普及したため、恒星の固有名に関してはギリシャ神話に由来する名称のほか、アラビア語由来のものも多くなっている[7]

現代では、それほど明るくない恒星に関しては、おもにヨハン・バイエルの「バイエル星表」に記載された記号で呼ばれる。これは「バイエル記号」と呼ばれる。星座ごとに明るい順にα星、β星とギリシャ語の記号を付けるもので、足りなくなるとローマ字(ラテン文字)のアルファベットの小文字が、それでも足りないとローマ字の大文字が使われた。バイエルの死後、星座の境界が変更されたため、たとえば「α星が無い星座」なども存在する。また、必ずしも明るい順に付けられているわけでもない。具体的には、ギリシャ語のアルファベットと星座名を合わせ、「こと座 α星」などと呼ぶ。国際的にはラテン語を使い、α Lyraeと書く。このとき星座名は属格に活用変化させる。IAUによる3文字の略符を使い、α Lyr と書いてもよい。NASAによる4文字の略符もあるが一般的ではない。バイエルは混乱を防ぐため、たとえば(ギリシャ文字のαとの混同を避けるため)ローマ文字のa星を作らなかった。また、最も星の多い星座でもQ星までしか付けなかったため、R以降の文字は変光星などの特殊な天体に付けられる。

これより更に暗い星は、ジョン・フラムスティードの星表に記されたフラムスティード番号で呼ばれる。恒星を西から順に1番星、2番星と数字の符号を付けるものである。ただし、フラムスティード番号は、南天の星座には付けられていないなどの弱点がある。フラムスティード番号で、上記のこと座α星を表すと、こと座3番星(3 Lyrae、または 3 Lyr)となる。この番号は、フラムスティードの望遠鏡で見たところ、こと座で西端から3番目にあった星ということになる。

よく、バイエルが命名しなかった暗い星に順番に番号が振られたといわれることがあるが、誤りである。たとえば、オリオン座α星(ベテルギウス)は、フラムスティード番号ではオリオン座58番星となる。多くの恒星が両者によって命名がされている。ただし、現在はバイエル符号がおもに使われ、フラムスティード番号は主にバイエル名の付いていない星に使われる。これよりも更に暗い星は、更にそののちに決定された星表(HDなど)で付けられた番号や記号で呼ばれる。

Wikipediaでは、英語版にはバイエル記号を用いた「Table of stars with Bayer designations」という大きな一覧表があり、日本語版には「恒星の一覧」という簡素な記事がある。
見かけの明るさによる分類

見かけの等級別の
星の数見かけの
等級星の
個数
[8]
-12
07
112
267
3190
4710
52,000
65,600
716,000

恒星の見かけの明るさはさまざまである。太陽を除き、もっとも明るく見える恒星はシリウスおおいぬ座α星)、次いでカノープスりゅうこつ座α星)である。しかしこのような視認できる明るさは、恒星本来の明るさとは異なり、単位面積の光量は距離の2乗に逆比例して少なくなる[9]

この見かけの明るさは視等級や写真等級で表される。視等級mは、こと座α星が0(ゼロ)等級になる様に定数Cを定め、地球上の単位面積あたりに届く光の強度Iから、m = -2.5 log I + C

で表される[10]。2つの恒星の等級差は、m1 - m2 = -2.5 log ( I1/I2)

で表され、これをボグソンの式という[10]

見かけの等級は肉眼で見える明るさのものを6つに分割しており、数字が小さくなるほど明るくなる。この6分割法は紀元前150年頃に古代ギリシアのヒッパルコスによって始められたと伝えられており、その後観測機器や技術の向上により肉眼で見えない星が発見されるようになると7等星以上の区分が追加されるようになり、また1等星の中でも特に明るいものには0等級や、さらにはマイナスの等級もつけられるようになった[11]
観測
距離と明るさ

恒星までの距離測定には、一般的に年周視差が用いられる。これは地球が公転運動する中で、近距離の恒星が遠距離の恒星に対して見かけ上の位置に生じる差を観測するもので、1秒角の視差がある時、公転軌道の中心にある太陽からその対象までの距離をパーセク(pc)で表す。1pcは3.26光年、2.06×105AUそして3.08×1013kmである。現在判明している年周視差が最大、すなわち太陽の次に近い恒星はケンタウルス座α星であり、視差0.76秒角、距離1.32pcつまり2.72×105AUとなる[9]。この年周視差を用いる計算法は地動説確立後に間もなく意識され、18 - 19世紀ごろから観測が始まり、1837 - 38年ごろに手段として正しさが確認された[9]。この測定に最初に成功したのはフリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセルであり、はくちょう座61番星までの距離を約10.3光年と算出した[12]。その後さまざまな星の視差が測定され、1989年に欧州宇宙機関が打ち上げたヒッパルコス衛星は約11万8000個の恒星の位置および年周視差を測定し、その結果はヒッパルコス星表およびティコ星表として公表された[13]


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