性染色体
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ヒトの染色体構成(核型, 2n=46)の模式図。右下にXYおよびXX染色体の図がある。それ以外の染色体は常染色体(2A)。

性染色体(せいせんしょくたい)とは、雌雄異体の生物で雌雄によって形態や数が異なる染色体もしくは形態的な差異が見られないが性決定に関与する染色体。性染色体以外ので共通な染色体は常染色体と呼ぶ。性染色体と常染色体との区別は、動物だけではなく、一部の植物にもある[* 1]

染色体構成を常染色体および性染色体を明らかにして示すときは、常染色体の1セットを記号Aで示し、2n=2A+XY, n=A+Yなどと表記する。
性染色体と性決定様式「性決定」も参照

性染色体として、X,Y,Z,Wと名づけられた4種類の染色体がある[* 2]。XとYは雌がX染色体を2本持つ性決定方式で雌ヘテロ型:XX型(雄ヘテロ型:XY型)で観察される性染色体に付けられた名称であり、ZとWは雄がZ染色体を2本持つ性決定方式(雌ヘテロ型:ZW型)で観察される性染色体の名称である。Y染色体あるいはW染色体が関与せず、片側の性の個体がX染色体あるいはZ染色体1本だけで決定される性決定様式もあり、このとき性染色体の片方が存在しないことを記号Oで示す(雄ヘテロ型:XO型、雌ヘテロ型:ZO型)。一般に性染色体はXとY(ZとW)が1本または2本あるのが普通であるが、生物によっては、正常な個体で同種類に分類される性染色体を複数持つもの(XnYn, ZnWn)も存在する[* 1][* 3]、この場合たとえばY染色体が2本あるのが普通の生物ならY1、Y2と表記する(ショウジョウバエの一種やスイバに見られる)。なお、形態の雌雄を決める点が「片方の性にだけある性染色体(人間ならY染色体)の有無」の生物(ヒト・イエバエなど)と「複数になる性染色体と常染色体の比率(雌がXXなら常染色体との比が雄の2倍である)」の生物(ショウジョウバエなど)が存在するが、後者の場合でももう一方の性染色体の意義はあり、ショウジョウバエ(通常雄はXY)の場合、Y染色体がないXO個体は外見が雄でも不稔となる[* 4]

ヒトを含む哺乳類では、雄ヘテロXY型が一般的である。この性決定様式では、正常な雌はXX個体であり、正常な雄はXY個体である。XY型は他にショウジョウバエを含む昆虫の一部や、植物ではスイバヒロハノマンテマでも観察される。もう一つの雄ヘテロ型XO型の生物としては、一部のネズミ[1]線虫C. elegansバッタなどがある。

雌ヘテロ型は、鳥類鱗翅目カイコのZW型が代表例である。この性決定様式では、正常な雌はZW個体であり、正常な雄はZZ個体である。ミノムシトカゲの一部などのZO型の生物では、雄は2本の、雌は1本のZ染色体を持つ。

被子植物の大部分やカタツムリなど雌雄同体生物もあり、ワニなどの爬虫類の一部では胚発生時の温度によって性が決定されるなど、性染色体が決定に関与しない生物種もある。

表.性染色体による性決定[* 5]性染色体構成動物植物
雄ヘテロ型XY型
雄:XY, 雌:XX大部分の哺乳類
ニジマス
双翅目鞘翅目の一部
ホップ
アサ
マツヨイセンノウ
XO型
雄:XO, 雌:XX一部のネズミ
C. elegans(XXは雌雄同体)
直翅目蜻蛉目など

変形型
(XnYn, XnO)カモノハシ(XnYn)
カワハギ(XnY)
カマキリ(XnY)スイバ(XYn)
カラハナソウ(XnYn)
ホップ(XnYn)
雌ヘテロ型ZW型
雄:ZZ, 雌:ZW鳥類, ヘビ
ウナギ, アナゴ, カダヤシ
鱗翅目
タカイチゴ
イチゴの一種)
ZO型
雄:ZZ, 雌:ZO毛翅目, ミノムシ(なし)
(性染色体が判別しにくいもの)ツチガエルの一部(XY,ZWの遷移型)キウイフルーツ
ヤマイモ
ピスタチオ

起原と変化

脊椎動物被子植物のように同一のタクソンに分類される生物種の全体を見ると、性染色体によらない性決定を行う生物種や雌雄同体生物種など性染色体を持たない生物種が混在する。このことは性決定あるいは性の発現において性染色体が必須ではないことを示している。動物においても植物においても、性染色体は常染色体から変化してできたものと考えられている[2][3]。常染色体上に性決定に関する遺伝子が存在するようになり、異なった遺伝子を持つ染色体が雌雄で異なる配分を受けるようになったことが性染色体の起原である[2]

有羊膜類
祖先型常染色体
(3.15億年前).mw-parser-output table.clade{border-spacing:0;margin:0;font-size:100%;line-height:100%;border-collapse:separate;width:auto}.mw-parser-output table.clade table.clade{width:100%}.mw-parser-output table.clade td.clade-label{width:0.7em;padding:0 0.15em;vertical-align:bottom;text-align:center;border-left:1px solid;border-bottom:1px solid;white-space:nowrap}.mw-parser-output table.clade td.clade-fixed-width{overflow:hidden;text-overflow:ellipsis}.mw-parser-output table.clade td.clade-fixed-width:hover{overflow:visible}.mw-parser-output table.clade td.clade-label.first{border-left:none;border-right:none}.mw-parser-output table.clade td.clade-label.reverse{border-left:none;border-right:1px solid}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel{padding:0 0.15em;vertical-align:top;text-align:center;border-left:1px solid;white-space:nowrap}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel:hover{overflow:visible}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel.last{border-left:none;border-right:none}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel.reverse{border-left:none;border-right:1px solid}.mw-parser-output table.clade td.clade-bar{vertical-align:middle;text-align:left;padding:0 0.5em;position:relative}.mw-parser-output table.clade td.clade-bar.reverse{text-align:right;position:relative}.mw-parser-output table.clade td.clade-leaf{border:0;padding:0;text-align:left}.mw-parser-output table.clade td.clade-leafR{border:0;padding:0;text-align:right}.mw-parser-output table.clade td.clade-leaf.reverse{text-align:right}.mw-parser-output table.clade:hover span.linkA{background-color:yellow}.mw-parser-output table.clade:hover span.linkB{background-color:green}

(1.66億年前)

獣亜綱
哺乳類
(XY)

単孔類
(XY)



(2.60億年前)

鳥類
(ZW)

ヘビ類
(ZW)






図. 有羊膜類における性染色体の進化
Vallender and Lahn(2006)[2] の ⇒Fig.1およびVeyrunes et al.(2008)[4]の ⇒Figure 4より作成

哺乳類鳥類の性染色体は、有羊膜類(哺乳類・鳥類・爬虫類およびその祖先を含むタクソン)の常染色体から約3億1千万年-3億2千年前に分化を始めたと考えられている(右図)[2][* 6]。哺乳類・鳥類・ヘビ亜目の性染色体の配列類似性は低く、それぞれ異なった常染色体から性染色体に分化してきたことを示している[5][6][* 7]

2008年に発表された単孔類カモノハシ性染色体についての研究によれば、カモノハシの性染色体は、有袋類獣亜綱哺乳類の性染色体との配列類似性が低く、鳥類のZW性染色体との配列類似性のほうが高い[4]。このことは獣亜綱と単孔類の性染色体は別起原であることを示し、その分岐時期は約1億6,600万年前ごろであると考えられている。

被子植物における性決定の研究対象であるヒロハノマンテマについても、近縁種には性染色体を持たない雌雄同株の植物種がある。ヒロハノマンテマは祖先型の雌雄同株植物から、雌性・両全性異株の植物を経て、雌雄異株に進化したと考えられており、この過程で常染色体から性染色体への分化がおきたものと考えられている[* 8]


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