性別の割り当て(せいべつのわりあて)は、出生時に行われる新生児の出生証明書などに記入される性別の決定のことを指す[1]。性別の決定(せいべつのけってい)、性別の判定(せいべつのはんてい)などとも呼ばれる。 性別の割り当ては、ほとんどの場合、親類、助産師、看護師、医師などによる新生児の外性器の視認で、性別二元論に基づき決定される[2]。出生前検査にて性別が割り当てられることもある。 多くの場合、外性器や内性器などの新生児の様々な身体的特徴(表現型)から示唆される性別は一致していると考えられ、それに基づいた性別が出生時に割り当てられる。また、外性器などの容易に確認できる身体的な特徴が性染色体の核型(XXもしくはXY)と典型的な一致を示す場合が多いことから、新生児の性別の割り当ては、単純な確認作業だと認識される。しかし、外性器などが非典型的な特徴を持つ場合や、出生時には典型的に見える特徴があっても、後に非典型的な性分化を行う場合もあり、親類や医師の判断で新生児にとって最善と思われる性別が割り当てられる。外性器の特徴などが非典型的である場合、生殖腺や染色体など、身体的、遺伝的特徴などを複合的に加味した上で養育上の性別が割り当てられ、戸籍表記されることが多い[3]。 日本においては、出生後14日以内(国外で出生した場合は3ヶ月以内)に出生届を子の出生地・本籍地又は届出人の所在地の市役所、区役所又は町村役場に提出しなければならず[注 1]、添付の出生証明書に男・女のいずれかの性別の記載が医師や助産師の判断のもと行われる(後述)[4]。 身体的な性の特徴
概要
体の性の様々な発達
何をもって典型的な身体特徴とするかによって定義が変動するものの、このように身体の性の発達が非典型的とされる人は、狭義では0.018%、広義では1.7%ほど存在するとされる[7][9][10]。外性器の形状や大きさがいわゆる典型的な女性か男性のものと一致しない新生児は0.02%から0.05%いると報告されている[11]。このような性分化に起因する非典型的な身体的状態は、包括的にDSDs(体の性の様々な発達)、性分化疾患やインターセックスなどと称されるが、実際には約60種類以上に及ぶ個別の状態のことを指す。DSDsに相当する状態であっても、性別二元論に基づく割り当てに必ずしも問題が生じるわけではなく、多くの場合は明確なガイドラインを用いて男性か女性に割り当てられる。また、身体的な特徴が典型的とされる人(DSDsでない人)の間でも実際には性分化は多様である。また、出生時やその後の性の発達が非典型的である(DSDsを持っている)ことと、性別違和を感じること(後述)に直接的な関係は存在しない[12][13]。
出生時に典型的な身体的特徴を持つとされ、明確に性別が割り当てられた人でも、思春期や成年後に原発性無月経や染色体検査により、割り当てられた性別ではない染色体(女性がXY染色体や男性がXX染色体)を保持していることが判明する場合もある[6]。染色体検査を受けることは一般的でなく、個人的な事象であるため、公的に知られる事象は女性のみを対象として行われるスポーツにおける性別確認で発覚する件であることが多い。1964年東京オリンピックの金メダリストでもあるポーランドの陸上選手エワ・クロブコフスカが、1967年に不適切な検査の結果を根拠に出場停止処分を受けたことが知られている。1990年にクロブコフスカは遺伝的モザイクであり、出場停止には相当しないということが判明した。
生物学者の中には、人間の身体的な性別(sex)は男性と女性の明確な二元的であるという考え(=性別二元制)がそもそも生物学的に誤りで、実際には全ての人の性別はスペクトルの上に存在するという主張も存在する[6][14]。ネイチャー誌に記載された記事では、典型的に男性と認識される特徴と典型的に女性と認識される特徴の間には、連続的な特徴が存在していると示された[6]。 性分化疾患を有する新生児を持った親に対しては、疾患に対する十分な理解が得られるような情報の提供と心理的ケアが必要とされる。新生児が非典型的な性の特徴を持つ場合や、事故などで新生児の外性器が損傷している場合、男女二元論を用いた性別の割り当てが困難な場合もあるが、多くの国では男女のいずれかに法において決定しなければならない。日本小児内分泌学会
性別の判断が困難な場合の対応
社会的性の決定と登録
ドイツでは2018年から、新生児の性別を「他」を意味する「divers」として登録できる法律が制定された[15]。他にも、ニュージーランド[注 2]やオーストリアなどで、出生届において未確定や第三の性を選択することができる[18][4]:31-34。出生時に男女以外の選択肢として登録されたインターセックス児童は、ジェンダー・アイデンティティが発達した際に男性、女性、もしくはその他の性を選択することとなる。これは不確かな特徴をもとに、出生時に性別が割り当てられ、将来の性同一性との不一致が生じることを防ぐ目的もある[19]。
公的書類などにおける男女二分法について、医療社会学者の家永登は「男女の性別は事案ごとに相対的に決定すれば足りるものであり、全生活関係について全面的かつ一律にその人を『男』か『女』かに区別することが必要な場面は、実はそれほど多くない」とした[4]:31-34。 性特徴が非典型的な新生児に対し、割り当てられた性別の典型的な特徴に沿うような医療的介入が歴史的に行われており、重大な人権侵害として認識されている[20][21][22][23]。緊急性や医療的必要性のない場合でも、医師と両親、場合によっては医師のみの判断で新生児の外性器の形成や内性器の摘出、性ホルモンを用いたホルモン療法を行われる場合がある[20][21][22][23][24]。
新生児に対する医療的措置に関する問題