心筋症
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心筋症
cardiomyopathy

肥厚と拡張が見られる心臓の左室の断面。さらに心内膜下の線維症が認められ、心臓内部の白色度が増している。
概要
診療科循環器学
分類および外部参照情報
ICD-10I25.5, I42, I43
ICD-9-CM425
DiseasesDB2137
MedlinePlus001105
Patient UK心筋症
cardiomyopathy
MeSHD009202
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心筋症(しんきんしょう、: cardiomyopathy)は、心機能障害を伴う心筋疾患をいう。心筋症は拡張型、肥大型、拘束型、不整脈原性右室心筋症に分類されるが、これらに分類できない分類不能型も存在する。
歴史

心筋症は数多くの名前で呼ばれてきたが、最初の解剖症例の報告は1891年のクレールによるものとされる[1]。その後、世界保健機関 (WHO) と国際心臓連合 (ISFC) の合同委員会は1980年心筋症を「原因不明の心筋疾患」と定義し拡張型 (DCM, dilated cardiomyopathy)・肥大型 (HCM, hypertrophic cardiomyopathy)・拘束型 (RCM, restrictive cardiomyopathy) に分類し、心筋疾患でも原因または全身疾患との関連が明らかなものと厳密に区別した[2](なお、この分類でも分類しきれないものあるので分類不能心筋症という項目もある)。しかし、従来不明とされた心筋症の原因や成因を示唆する報告が相次いだため、先の合同委員会は心筋症を「心機能障害を伴う心筋疾患」と広く定義し直し従来の3分類に加え、催不整脈性右室心筋症、特定心筋症の範疇を設けた[3]
拡張型心筋症 (DCM)

心室とともにしばしば心房の内腔容積増加を伴う心拡大 (cardiac enlargement) と収縮機能障害を特徴とする心筋の病気であり、不整脈による突然死と心不全をもたらす。初期には心拡大によってポンプ機能自体は正常範囲に保たれており、βブロッカーアンギオテンシン変換酵素阻害薬あるいはアンギオテンシンII受容体ブロッカー利尿薬などの薬の組み合わせにより進行を遅らせることが可能である。しかし、代償が破綻し末期重症心不全になると有効な治療薬はなく心臓移植を必要とする。女性より男性のほうが重篤な傾向がみられる。

日本では、特発性拡張型心筋症(とくはつせいかくちょうがたしんきんしょう、Idiopathic DCM)として特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されている。
症状と所見

初期段階では自覚症状があまりなく、易疲労感・倦怠感や動作時に軽い動悸が起こる程度であるため、発見が遅れてしまうケースがある。病状が進行すると浮腫・湿性咳嗽頸静脈怒張などの身体症状を伴う重篤な鬱血性心不全や治療抵抗性の不整脈を起こす。診断されてからの5年生存率は54%、10年生存率は36%とされていたが、最近では治療の進歩により5年生存率は76%と向上している[4]。しかし突然死もまれではない。激しい運動は心臓に大きな負担を強いることとなり、急な心臓発作を起こす可能性があるため避けるべきとされている。

心電図ではP波の持続時間延長が認められる。
原因と発症メカニズム

拡張型心筋症は、以前からウイルス、アルコール、毒物、免疫障害など非遺伝的攻撃によってもたらされることが知られていた。原因不明なものは“特発性”拡張型心筋症と呼ばれていたが、サルコメア蛋白質、細胞骨格蛋白質、筋形質膜および核膜蛋白質の遺伝子の突然変異が拡張型心筋症の大きな原因であることが最新の研究で明らかにされている[5]。2013年の時点で、本症症例のおよそ3割が遺伝子突然変異が原因であると推定されている。遺伝子突然変異が拡張型心筋症を引き起こすメカニズムを明らかにするため、サルコメア蛋白質であるミオシンアクチントロポニントロポミオシンに関して、組換え変異蛋白質分子や遺伝子改変動物モデルを用いた研究が活発に行われている。ミオシン変異はサルコメアの収縮機構そのものを傷害し(i.e.,アクチン-ミオシン相互作用の低下をもたらす)、アクチントロポニントロポミオシン変異は心筋収縮のカルシウムによる調節機構を傷害する(i.e.,ミオフィラメントカルシウム感受性の低下をもたらす)ことが明らかにされている[6]。一方、細胞骨格蛋白質と細胞膜貫通蛋白質の突然変異はサルコメアが発生する力の隣接心筋細胞への伝達を傷害し、核膜蛋白質の突然変異は心筋細胞に加わる力による遺伝子発現機構の傷害によって拡張型心筋症をもたらすのでないかと推測されている[7]。遺伝性拡張型心筋症の研究からはっきりした重要なことは、心筋細胞には単にその収縮機能が内因的に低下するだけで心拡大によって代償するメカニズムがはじめからプログラムされているということである。皮肉なことに、その代償メカニズムが働くことによって致死的不整脈による突然死のリスクが高まり、その破綻によって末期心不全がもたらされるものと推測される。現在治療薬として用いられるβブロッカーアンギオテンシン変換酵素阻害薬アンギオテンシンII受容体ブロッカーは、短期的には収縮機能を高めるが長期的には有害な“細胞内cAMPとカルシウムの増加を介する”代償反応を抑えることでその破綻を遅らせているように見える。細胞内cAMPとカルシウムの増加によらず収縮機能を改善することができる新規の強心薬であるカルシウム感受性増強薬やミオシン活性増強薬などは、このような長期的には有害な代償反応プログラムの発動を抑えてより高い有効性を示すことが期待される[8][9]
治療
心臓移植
詳細は「
心臓移植」を参照1967年に世界で初めてヒトからヒトへの心臓移植が行われ、現在では安定した成果を示している。そのため、本疾患の根本治療とされる。
内科的療法
近年、アンジオテンシン変換酵素阻害薬ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB、AII拮抗薬)、ベータ遮断薬などが適用され効果を挙げている。遠隔生存率も比較的高い。しかし、体質・症状の進行状態により上記の薬が期待した効果を挙げない場合もある。また、これらは根治療法ではなく進行を遅らせることしかできない。
補助人工心臓の使用
心臓移植までの症状維持を目的とする埋め込みと、心臓移植待機を目的とせず補助人工心臓を使い続けていく目的での埋め込みの2通りの治療が行われる。心臓移植までの症状維持としての補助人工心臓は2004年に医療保険の適用となった。移植目的でなく補助人工心臓を使い続ける選択は、主に高齢のため手術に耐えうる体力がない患者に対してとられることが多い。補助人工心臓を使い続ける目的での世界初の手術は、1995年10月にイギリスで高齢のため移植手術が行うことが困難とされた患者に施された。
左室形成術
詳細は「左室形成術」を参照左室形成術は、虚血性心筋症や拡張型心筋症などによる高度左室機能不全を伴う慢性心不全に対する手術であり、左室容積を縮小させることにより心機能、生命予後の改善を図ることを目的とする。補助人工心臓や心臓移植の前段階、あるいはその非適応症例に対して適応が考慮される治療法である[10]
遺伝子治療
現在は動物実験の段階である。ヒトへの治療が行われた症例は報告されていない。特発性拡張型心筋症の先天的原因を治癒しようという試みである。積極的治療法(心臓移植)を行うことが難しい患者への応用が期待されている。
心筋シート
患者自身の筋肉を5 - 10g程度摘出し、それを培養してシート状にして患部(左心室)に貼り付ける治療法。その心筋シートを用いて弱った心臓のポンプ機能を回復しようという試みである。動物実験ではポンプ機能が回復されることが確認されている。欧米ではすでに実施され、重篤な不整脈などの副作用が報告されている。日本国内では2007年5月、大阪大学の澤芳樹教授によって骨格筋由来の筋芽細胞シートを開発、2015年9月に世界初の心不全治療用再生医療製品「ハートシート」の製造販売承認(条件期限付き)取得、2016年に販売を始めている[11]。次にiPS細胞由来のヒト心筋シートが開発され、動物実験が実施された[11]。重症心不全患者の心臓に移植する初の臨床研究(First in Human試験)は2019年秋に予定されていたが、延期となり[12]、2020年1月に虚血性心筋症の患者に対して実施された。
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