微生物
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10,000倍に拡大した大腸菌(Escherichia coli)群体低温電子顕微鏡像。個々の細菌は長円型をしている。

微生物(びせいぶつ、: microorganism, or microbe)は、単細胞または細胞集団として存在する、または比較的複雑な多細胞からなる、微視的生物である[1]

微生物には、生命の3つのドメイン(領域)すべてに属するほとんどの単細胞生物が含まれるため、極めて多種多様である。3つのドメインのうち2つ、古細菌細菌には微生物しか含まれていない。第3のドメインである真核生物には、すべての多細胞生物と、微生物である多くの単細胞原生生物原生動物が含まれている。原生生物には、動物に関係するものや、緑色植物に関係するものもある。また、微小な多細胞生物、すなわち微小動物相(英語版)、一部の真菌類、一部の藻類も存在する。

微生物という言葉の意味は、その多様性に対する理解が深まるにつれ変化を重ねている。米国微生物学会は、「微生物は、人間の目に見えないほど小さい、顕微鏡サイズの生物または感染性粒子」とし、生物としての真核生物(植物や動物、一部の菌類)や原核生物(細菌や古細菌)だけでなく、非細胞生物(英語版)であるウイルスも含めている[2]。英国微生物学会(英語版)は、さらに遺伝物質を持たないタンパク質であるプリオンを微生物に加えている[3]

微生物の生息環境は実に多様で、南北極から赤道砂漠間欠泉岩石深海まで、あらゆる場所に生息している。非常な暑さ寒さ適応するものもあれば、高圧(英語版)に適応するもの、そしてディノコッカス・ラディオデュランスのように放射線環境に適応(英語版)する少数もある。微生物はまた、すべての多細胞生物の内部および表面に見られる微生物叢(そう)を構成している。34億5,000万年前のオーストラリアの岩石に、かつて微生物が存在していた証拠があり、これは地球上に生命が存在したことを示す最古の直接的証拠である[4][5]

微生物は、食品を発酵させたり、汚水を処理したり、燃料酵素やその他の生理活性物質を生産したりと、さまざまな形で人間の文化(英語版)や健康に重要な役割を果たしている。微生物はモデル生物として生物学に不可欠な道具であり、生物戦争やバイオテロリズム(英語版)にも使われてきた。微生物は肥沃な土壌に不可欠な構成要素でもある。人体では不可欠な腸内細菌叢を含め、微生物がヒト微生物叢(英語版)を構成している。多くの感染症の原因となる病原体は微生物であり、衛生手段の対象でもある。
語源

微生物(microorganism)という言葉は、19世紀、顕微鏡の助けを借りなくては見えない生命を指すために作られた[6]。micro-(ギリシャ語 μικρ??, mikros, 小さい から)と organism (ギリシャ語 ?ργανισμ??, organismos, 有機体 から)の合成語である。通常は1つの単語として表記されるが、特に古い文章ではハイフン区切り micro-organism で表記されることもある。略式の同義語である microbe は μικρ?? (mikros, 小さい)と β?ο? (bios, 生命)に由来する[7]
発見「生物学史」および「微生物学#歴史」も参照

目に見えない微生物が存在する可能性は、紀元前6世紀のインドのジャイナ教の経典(英語版)など、古くから信じられてきた。微生物の科学的研究は、1670年代のアントニ・ファン・レーウェンフックによる顕微鏡での観察から始まった。1850年代に、ルイ・パスツールは、微生物が食品を腐敗(英語版)させることを発見し、自然発生説を否定した。1880年代に、ロベルト・コッホは、微生物が結核コレラジフテリア炭疽症のような病気の原因であることを発見した。
古代の先駆者紀元前6世紀に、マハーヴィーラは、微小生物の存在を予言した。アントニ・ファン・レーウェンフックは、初めて顕微鏡で微生物を研究した科学者である。ラザロ・スパランツァーニは、煮汁を沸騰させると腐敗しなくなることを示した。

微細な生物が存在する可能性は、17世紀に発見されるまで何世紀にもわたって議論されてきた。紀元前6世紀に、現在のインドのジャイナ教徒は、ニゴダ(英語版)と呼ばれる小さな生物の存在を予言していた[8]。このニゴダは群れをなして生まれ、植物、動物そして人間の体などあらゆる場所に生息し、ほんの一瞬しか生きられないと言われていた[9]。ジャイナ教の第24代伝道者マハーヴィーラによると、人間は食べ、呼吸し、座り、動くとき、これらのニゴダを大規模に破壊するという[8]。現代のジャイナ教徒の多くは、マハーヴィーラの教えは現代科学が発見した微生物の存在を予見したものだと主張している[10]

まだ見ぬ生物によって病気が蔓延する可能性を示唆した最も古い考え方は、紀元前1世紀に古代ローマの学者マルクス・テレンティウス・ウァッロが著した『農業論(On Agriculture)』であり、彼は、目に見えない生物を微小動物(英語版)(animalcules)と呼び、沼地の近くに農場を置くことを戒めた[11]。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}… そして、目には見えないが、空気中に浮遊し、口や鼻から体内に侵入して重篤な病気を引き起こす、ある種の微細な生物が繁殖しているからである。[11]

アヴィセンナは『医学典範(The Canon of Medicine)』(1020年)の中で、結核やその他の病気が伝染する可能性を示唆した[12][13]
近世「顕微鏡による細菌の発見」も参照

アクシャムサディン(英語版)(トルコの科学者)は、アントニ・ファン・レーウェンフックが実験によって発見する2世紀ほど前に、著書『Maddat ul-Hayat(生命の素材)』の中で微生物について言及している。人間に病気が一つずつ現れるという考え方は間違っている。病気は人から人へ感染することで広がる。この感染は、目に見えないほど小さいが生きている種子を介して起こる。[14][15]

1546年、ジローラモ・フラカストロは、流行疾患(伝染病)は、直接あるいは間接的な接触によって、あるいは接触がなくても長距離にわたって感染を媒介する、伝染性の種子のような存在によって引き起こされると提唱した[16]

アントニ・ファン・レーウェンフックは微生物学の父の一人とされている。彼は1673年に、自ら設計した簡単な単眼顕微鏡を使用して微生物を発見し、科学的な実験を行った最初の人物である[17][18][19][20]。レーウェンフックと同時代のロバート・フックも、また、カビ子実体(しじつたい)という形で微生物の生命を顕微鏡観察(英語版)した。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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