従属栄養生物
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従属栄養生物(じゅうぞくえいようせいぶつ、英:Heterotroph)とは、生育に必要な有機炭素源を自分自身では生産できず、主に植物や動物に由来する有機化合物を摂取することで獲得する生物群のことである。

従属栄養生物という用語は、栄養の種類に基づく微生物の分類の一部として、1946年に微生物学分野において生まれた[1]。古代ギリシャ語の?τερο? (意味は'other')と τροφ? (意味は'nutrition')に由来する[2][3]。この用語は現在、食物連鎖を説明する際の生態学など、多くの分野で使用されている。

栄養的分類の下では、あらゆる生物は従属栄養生物と独立栄養生物(autotroph、auto =自己、troph =栄養)に分けられる。独立栄養生物は、太陽光からのエネルギー(光独立栄養生物)または無機化合物の酸化(無機独立栄養生物)を利用して、二酸化炭素などの無機物を有機炭素化合物に変換し、エネルギーを取り出して生命を維持する。一般的には、従属栄養生物(動物など)は独立栄養生物(植物など)や他の従属栄養生物を捕食する生物である。そのため、食物連鎖における消費者または分解者である[4][5]。従属栄養性の生物には、すべての動物真菌、一部の細菌原生生物[6]、および多くの寄生植物が含まれる。逆に、無機化合物中の炭素を取り込むことのできる生物は独立栄養生物(autotroph)と呼ばれ、これは食物連鎖における生産者になる。従属栄養生物は無機化合物から炭素を得ることができないため、無機化合物中の炭素を有機化合物に変換することができる独立栄養生物に、直接的・間接的に依存しているといえる。植物は一般には独立栄養生物であるが、寄生植物および腐生植物は完全または部分的に従属栄養に変化したものである。食虫植物は生育に必要な窒素を虫から得ているが、炭素は二酸化炭素から得ているので、独立栄養性といえる。

従属栄養生物は、そのエネルギー源に応じていくつかに分類できる。従属栄養生物が化学エネルギーを使用する場合、化学従属栄養生物と呼ばれ、人間キノコなどが含まれる。一方で、光エネルギーを使用する場合、光合成従属栄養生物と呼ばれ、例えば紅色非硫黄細菌、緑色非硫黄細菌などが挙げられる。

腐食生物は、デトリタスを消費することによって栄養素を得る従属栄養生物であり、植物や動物の部分、糞便などの分解をする[7]。腐生植物(リゾトロフ)は、腐生した有機物の処理に細胞外消化を使用する化学合成生物である。このプロセスは、ほとんどの場合、内部菌糸体およびその構成菌糸内のエンドサイトーシスを介した物質の能動輸送によって促進される[8]
分類

従属栄養生物は、有機栄養生物(organotrophs、オルガノトロフ)または無機栄養生物(lithotrophs、リソトロフ)に分類できる。有機栄養生物は、植物や動物からの炭水化物脂肪タンパク質などの電子源として還元炭素化合物を利用する。一方、無機栄養生物は、アンモニウム亜硝酸塩硫黄などの無機化合物を使用して電子を取得する。

従属栄養生物を他の分類方法としては、化学栄養生物(chemotrophs)と光合成生物(phototrophs)への分類がある。光合成生物は光を利用してエネルギーを取得し代謝プロセスを実行するが、化学栄養生物は環境からの化学物質の酸化によって得られたエネルギーを使用する[9]

紅色非硫黄細菌などの光有機従属栄養生物(Photoorganoheterotrophs)は、太陽光と有機物質の酸化を組み合わせて有機化合物を合成し生育する。二酸化炭素の固定はせず、カルビン回路も持っていない[10]。一方、Oceanithermus profundus のような化学無機従属栄養生物(Chemolithoheterotrophs)は、硫化水素硫黄元素チオ硫酸水素分子などの無機化合物の酸化からエネルギーを取得する[11]。混合栄養生物(Mixotrophs)または通性化学栄養生物(facultative chemolithotroph)は、二酸化炭素か有機炭素のいずれかを炭素源として使用する。すなわち、混合栄養生物は従属栄養と独立栄養の両方を利用できる[12][13]。両方を利用できるとはいえ、例えばC. vulgarisは従属栄養条件下で成長すると、独立栄養条件下と比較してバイオマスと脂質の生産性が高くなるなど、生育に差異が見られる場合がある[14]

炭素固定のためにエネルギーの一部を使用しなければならない独立栄養生物とは異なり、従属栄養生物は還元炭素化合物を消費することで、食物から得たエネルギーのすべてを成長と繁殖に投入することができる[15]。従属栄養生物と独立栄養生物はどちらも、窒素、リン、硫黄などの炭素以外の栄養素については、他の生物の代謝活動に依存することが多く、これらの栄養素を供給する食物が不足すると死んでしまう[16]。このことは、動物や菌類だけでなく、バクテリアにも当てはまる[15]
起源と多様化

生命の化学起源説は、初期生命は「生命スープ」の中で従属栄養的な生態を営んでいたことを示唆するものである[17]。この仮説のもとでは、初期の地球には非常に還元的な大気と電気エネルギー()といったエネルギー源の元で単純な有機化合物が形成され、初期生命の活動の中でさらに反応が進み複雑な化合物が形成されていったと考えられている[18][19]。この仮説はしかしながら、独立栄養生物を生命の起源とする別の仮説とは矛盾するものであり[20]、議論が続いている。

従属栄養生物から始まる化学的生命の起源の理論は、1924年にアレクサンドル・イワノビッチ・オパリンによって最初に提案され、最終的に「生命の起源(The Origin of Life)」を発表した[21]。1929年には、ジョン・バードン・サンダーソン・ハルデンによって初めて英語で独自に提案された[22]。これらの著者は、存在するガスとある時点までのイベントの進行には共通点が見られるが、オパリンは細胞の形成前に複雑な有機物が作られる可能性を唱えたのに対し、ハルデンは遺伝単位としての遺伝子の概念と化学合成独立栄養生物(オートトロフ)において光が果たす役割の重要性を唱えている[23]

1953年に、スタンレー・ミラーが初期の地球に存在すると考えられていたガスに関する実験を行い、この理論を支持する証拠をつかんだ。この実験では、初期大気の構成成分である水(H2O)、メタン(CH4)、アンモニア(NH3)および水素(H2) をフラスコに入れ、初期の地球に存在する稲妻に似た電気でそれらを刺激した[24]。この実験の結果、初期の地球の状態がアミノ酸の生成を導くことを発見した。後年のデータの再分析では、現在の生命では使用されていない種類のものを含め、40を超える異なるアミノ酸が生成されていたことが確認されている[25]。この実験は、合成プロバイオティクスという化学分野の始まりを告げるものであり、現在はユーリー・ミラーの実験として広く知られている[26]

初期の地球では、原始従属栄養生物によって使用された可能性のある有機分子が海洋に豊富に存在していたと考えられている[27]。エネルギーを得るこの方法は、有機炭素が無機炭素よりも少なくなるまでエネルギー的に有利であり、独立栄養になる方向に潜在的に有利な進化的圧力をかけた可能性がある[27][28]。独立栄養生物の進化によって、従属栄養生物も環境中の限られた栄養素に限らず、独立栄養生物を食料源として利用することが可能となった[29]


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