オピストコンタ
Opisthokonta
オピストコンタに属する生物[注釈 1]
分類
オピストコンタ(Opisthokonta、後方鞭毛生物、こうほうべんもうせいぶつ)は、アモルフェアに属する真核生物の一群である。動物(後生動物)と真菌に加えて数グループの原生生物を含む。
本群が単系統群であることは、遺伝学および微細構造の双方の研究から強く支持されている。共有形質は、動物の精子やツボカビの胞子のような鞭毛を持った細胞が、後ろ側にある1本の鞭毛で進むことであり、本群の学名はそれに基づき、ギリシャ語の opistho-(後方)+ kontos(鞭毛)に由来する。対照的に、これ以外の真核生物では鞭毛を持った細胞は1本ないし複数の前方の鞭毛で進む。
系統学的定義(襟鞭毛虫)の3種を全て含み、かつキイロタマホコリカビとシロイヌナズナを含まない、最小のクレードと定義されている[2][3]。
分類と系統後方鞭毛を持つ精子(右下は卵子)
オピストコンタはアメーボゾアと近縁である。両者は鞭毛の数が1本であることからユニコンタと呼ばれてきたが、鞭毛を複数もつグループを含むことが確実となったため[4]、アモルフェアという名称へ変更された[5]。
オピストコンタのうち動物と菌類を除いたいくつかの原生生物は襟鞭毛動物 Choanozoa[注釈 3] またはメソミセトゾア Mesomycetozoa とまとめられることもあったが[8]、その単系統性が否定されるにつれて用いられることは少なくなっている[9][5]。
国際原生生物学会(ISOP)の2019年の分類体系ではオピストコンタを次のように分類している[10]。
アモルフェア Amorphea
系統的位置が不明
アプソモナス類 Apusomonadida
ブレビアータ類 Breviatea
アメーボゾア Amoebozoa
オピストコンタ Opisthokonta
ホロゾア Holozoa
系統的位置が不明
コラロキトリウム Corallochytrium
Syssomonas
イクチオスポレア Ichthyosporea
フィラステレア Filasterea
襟鞭毛虫 Choanoflagellata
後生動物 Metazoa
Nucletmycea (ホロマイコータ Holomycota)
系統的位置が不明
Sanchytriaceae
ロトスファエリダ目 Rotosphaerida (Cristidiscoidida, Nucleariidae)ヌクレアリア、Fonticula などを含む
菌類 Fungi [注釈 4](ロゼラ、微胞子虫、Aphelida も含む。 卵菌・サカゲカビ・粘菌などは含まない。)
これらの系統関係は以下の通りである[11][12][13][14][15][16]。.mw-parser-output table.clade{border-spacing:0;margin:0;font-size:100%;line-height:100%;border-collapse:separate;width:auto}.mw-parser-output table.clade table.clade{width:100%}.mw-parser-output table.clade td.clade-label{width:0.7em;padding:0 0.15em;vertical-align:bottom;text-align:center;border-left:1px solid;border-bottom:1px solid;white-space:nowrap}.mw-parser-output table.clade td.clade-fixed-width{overflow:hidden;text-overflow:ellipsis}.mw-parser-output table.clade td.clade-fixed-width:hover{overflow:visible}.mw-parser-output table.clade td.clade-label.first{border-left:none;border-right:none}.mw-parser-output table.clade td.clade-label.reverse{border-left:none;border-right:1px solid}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel{padding:0 0.15em;vertical-align:top;text-align:center;border-left:1px solid;white-space:nowrap}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel:hover{overflow:visible}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel.last{border-left:none;border-right:none}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel.reverse{border-left:none;border-right:1px solid}.mw-parser-output table.clade td.clade-bar{vertical-align:middle;text-align:left;padding:0 0.5em;position:relative}.mw-parser-output table.clade td.clade-bar.reverse{text-align:right;position:relative}.mw-parser-output table.clade td.clade-leaf{border:0;padding:0;text-align:left}.mw-parser-output table.clade td.clade-leafR{border:0;padding:0;text-align:right}.mw-parser-output table.clade td.clade-leaf.reverse{text-align:right}.mw-parser-output table.clade:hover span.linkA{background-color:yellow}.mw-parser-output table.clade:hover span.linkB{background-color:green}
アメーボゾア
Obazoa
ブレビアータ類 Breviatea
Apusomonadida
オピストコンタ
Cristidiscoidea
Fonticulida
"Basal Clone Group 2" (BCG2)
"Basal Clone Group 1" (BCG1/NCL1)
"Namako-37"
微胞子虫
Opisthosporidia
Aphelida
イクチオスポレア Ichthyosporea Teretosporea
Pluriformea
Syssomonas
フィロゾア
後生動物 19世紀後半、ヘンリー・ジェームズ=クラーク
歴史
しかし電子顕微鏡によって細胞の微細構造観察がなされると、ツボカビ類、襟鞭毛虫類、後生動物の精子の間には、鞭毛運動の様式だけでなくミトコンドリアのクリステにも共通した特徴が認識されるようになる。そこでキャヴァリエ=スミスは1987年に、真菌と動物の間にはさらに、キチン質の外骨格を持つ、貯蔵多糖がグリコーゲンである、葉緑体を持たない、ミトコンドリアの遺伝暗号表で UGA がトリプトファンをコードする、という共通点が見られることを挙げ、動物、襟鞭毛虫、真菌には以上の特徴を持った共通祖先が存在することを主張し、それに由来するクレードをオピストコンタと呼んだ[1][注釈 2]。この系統関係はまもなくSSUリボソームRNAを用いた分子系統解析によって裏付けられた[23]。
キャヴァリエ=スミスらは、オピストコンタとおそらくアメーボゾアは、真核生物が進化してすぐに anterokonts ないしバイコンタ (Bikonta) と呼ばれるそれ以外の真核生物と分岐したものだと論じていた[24]。しかし現在では、ユニコンタの方に近縁なバイコンタの群が多数見つかっており、バイコンタの単系統性は否定されている[25]。
脚注
注釈^ 時計回りに左上から、Abeoforma whisleri(イクチオスポレア); Amanita muscaria(菌類); Desmarella moniliformis(襟鞭毛虫); Macaca radiata(動物); Nuclearia thermophila(ヌクレアリア類); Ministeria vibrans(フィラステレア)
^ a b キャヴァリエ=スミスはOpisthokontaという語を系統関係を示した図の説明文中で一度使っただけであり、学名として用いる意図は示されていない。
^ Choanozoa(コアノゾア)という名前は現在、動物と襟鞭毛虫からなるクレードを指すことがある[6][7]。
^ a b この「菌類」には微胞子虫やロゼラなどが含まれるが、この用法が一般的という訳ではない。
^ 微胞子虫・ロゼラなどを含まないこのグループを Fungi と呼ぶこともある[17][14]。
^ フィッシャーはある種のペディノ藻 (Chlorochytridion)の鞭毛がツボカビ類と類似していることから、Opistokontae綱という分類群が成立する可能性を指摘した上で、さらに襟鞭毛虫も含められるのではないかと議論している[19]。この時点では後生動物は含まれていない。なおペディノ藻は1本鞭毛ではあるが系統的にはオピストコンタではない。
^ ガムスは分類群ではなく細胞の総称としてオピストコント (独: Opistokont, (pl.) -en)と呼んでいる[20]。なお彼は後生動物のみではなく胞子虫も加えているが[20]、その根拠とされたCoccidioides immitisは発見当初こそ胞子虫と見なされていたがまもなく真菌(子嚢菌)であることが判明している[21]。