後天性免疫不全症候群
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後天性免疫不全症候群

エイズに関する社会運動のシンボル・レッドリボン
概要
診療科感染症内科学
分類および外部参照情報
ICD-10B24
ICD-9-CM042
DiseasesDB5938
MedlinePlus000594
eMedicineemerg/253
Patient UK後天性免疫不全症候群
MeSHD000163
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世界の疾病負荷(WHO, 2019年)[1]順位疾病DALYs (万)DALYs(%)DALYs
(10万人当たり)
1新生児疾患20,182.18.02,618
2虚血性心疾患18,084.77.12,346
3脳卒中13,942.95.51,809
4下気道感染症10,565.24.21,371
5下痢性疾患7,931.13.11,029
6交通事故7,911.63.11,026
7COPD7,398.12.9960
8糖尿病7,041.12.8913
9結核6,602.42.6857
10先天異常5,179.72.0672
11背中と首の痛み4,653.21.8604
12うつ病性障害4,635.91.8601
13肝硬変4,279.81.7555
14気管、気管支、肺がん4,137.81.6537
15腎臓病4,057.11.6526
16HIV / AIDS4,014.71.6521
17その他の難聴3,947.71.6512
18墜死3,821.61.5496
19マラリア3,339.81.3433
20裸眼の屈折異常3,198.11.3415

後天性免疫不全症候群(こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん、英語: Acquired immune deficiency syndrome, AIDS(エイズ))は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫細胞に感染し、免疫細胞を破壊して後天的に免疫不全を起こす疾患[2]。照屋勝治はエイズを慢性ウイルス血症による「全身性炎症性疾患」としている[3]性感染症の一つ。HIVに感染しただけでAIDSを発症するのではなく、HIVに感染した人が、免疫能の低下により23の合併症のいずれかを発症した状態のことをいう[4]

感染から2 - 4週で、無症候(症状がない)や、インフルエンザの様な症状などを起こしてから、5年から10年の症状のない潜伏期間に入る。後に風邪によく似た症状や、全身の脂漏性皮膚炎を呈し、その後、多くの感染症にかかるようになる。感染経路は、コンドームを用いない性行為のほか、注射器の打ち回しといった血液感染や、母子感染が主である。感染しているかの検査には血液検査が用いられる。

治療には抗HIV薬を用いたHAART療法が用いられる。1981年のアメリカ合衆国における初確認から1990年代半ばまでは治療法がなかったが、その後は服薬で体内のHIVを減らすことができるようになった[5]。2021年時点、服薬は副作用があるうえ発症を抑えるため生涯続ける必要があるが、HIVを体内から完全になくすワクチンが研究途上であるほか、幹細胞移植などによる完治例が少数ながらある[5]。一方で治療により、感染者の平均余命は非感染者とほぼ同水準まで延長されているとする研究も報告されている。
臨床像

照屋勝治によると、エイズは単なる細胞免疫不全疾患ではなく、慢性ウイルス血症による「全身性炎症性疾患」としている。免疫力低下に伴い日和見感染を生じるほか、HIVへの感染自体が血管内皮障害の原因となり、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)や心血管疾患(心筋梗塞など)のリスクを上昇させるとされる[3]
急性感染期

HIVの初期感染像はアメリカ疾病予防管理センター(CDC)分類では以下がある。いずれも感染後2 - 4週で起こるといわれ、多くの場合、数日 - 10週間程度で症状は軽くなり、長期の無症候性感染期に入るため、感染には気付きにくい。

急性感染(Acute seroconversion) - 伝染性単核球症様あるいはインフルエンザ様症状

無症候性感染

持続性全身性リンパ節腫脹(PGL)

その他の疾患合併

上記以外にも、突然の全身性の斑状丘疹状の発疹(maculopapular rash)や、ウイルス量が急激に増加し重症化する例では、多発性神経炎、無菌性髄膜炎脳炎症状などの急性症状を示す場合もある。しかしながら、これらの症状はHIV感染症特有のものではなく、他の感染症や疾病においても起こりうる症状であることから、症状だけで判断することは困難である。

感染後、数週間から1か月程度で抗体が産生され、ウイルス濃度は激減する。一般のHIV感染検査はこの産生される抗体の有無を検査するため、感染後数週間、人によっては1か月程度経過してからでないと十分な抗体が測定されないため、検査結果が陰性となる場合がある(ウインドウ期間)。詳細は「#診断」を参照
無症候期

多くの人は急性感染期を過ぎて症状が軽快し、おおむね5年から10年は無症状であるが、体内でHIVが盛んに増殖を繰り返す。また、免疫担当細胞であるCD4陽性T細胞がそれに見合うだけ作られ、ウイルスがCD4陽性T細胞に感染し破壊するプロセスが繰り返されるため、見かけ上の血中ウイルス濃度が低く抑えられているという動的な平衡状態にある。無症候期を通じてCD4陽性T細胞数は徐々に減少していってしまう。無症候期にある感染者は無症候性キャリア(AC)とも呼ばれる。

またこの期間に、自己免疫性疾患に似た症状を呈することが多いことも報告されている。ほかにも帯状疱疹を繰り返し発症する場合も多い。
発病期

血液中のCD4陽性T細胞がある程度まで減少していくと、身体的に免疫力低下症状を呈するようになる。

多くの場合、最初は全身倦怠感、体重の急激な減少、慢性的な下痢、極度の過労、帯状疱疹、過呼吸めまい、発疹、口内炎、発熱、喉炎症、など、風邪によく似た症状のエイズ関連症状を呈する。また、顔面から全身にかけての脂漏性皮膚炎などもこの時期に見られる。大抵これらの症状によって医療機関を訪れ、検査結果からHIV感染が判明してくる。

その後、免疫担当細胞であるCD4陽性T細胞の減少と同時に、普通の人間生活ではかからないような多くの日和見感染を生じ、ニューモシスチス肺炎カポジ肉腫悪性リンパ腫皮膚がんなどの悪性腫瘍サイトメガロウイルスによる身体の異常など、生命に危険が及ぶ症状を呈してくる。また、HIV感染細胞が中枢神経系組織へ浸潤し、脳の神経細胞が冒されるとHIV脳症と呼ばれ、精神障害認知症記憶喪失を引き起こすこともある。

通常、感染したと認められてから長期間経過したあとに、以下の23の疾患(AIDS指標疾患という)のいずれかを発症した場合にAIDS発症と判断される。.mw-parser-output .bquote cite{font-style:normal}

A.真菌症1.カンジダ症食道気管気管支)2.クリプトコッカス症(肺以外)3.コクシジオイデス症(1)全身に播種したもの(2)肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの4.ヒストプラズマ症(1)全身に播種したもの(2)肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの5.ニューモシスティス肺炎(P. jiroveci)

B.原虫症6.トキソプラズマ脳症(生後1か月以後)7.クリプトスポリジウム症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)8.イソスポラ症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)

C.細菌感染症9.化膿性細菌感染症(13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの)(1)敗血症(2)肺炎(3)髄膜炎(4)骨関節炎(5)中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍10.サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)11.活動性結核(肺結核又は肺外結核)(※)12.非結核性抗酸菌症(1)全身に播種したもの(2)肺、皮膚、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの


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