当世具足
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朱漆塗矢筈札紺糸素懸威具足(伝豊臣秀次所用)、安土桃山時代、16 - 17世紀(サントリー美術館蔵)紀州徳川家伝来の金小札紺糸褸紅縅二枚胴具足蟷螂立物、江戸時代、17世紀中頃(ミネアポリス美術館蔵)。2009年当時、日本の甲冑としてはクリスティーズ史上最高額の5500万円で落札された[1]

当世具足(とうせいぐそく)とは、日本甲冑の分類名称の一つ。鉄砲伝来や戦闘の大規模化による武器戦術の進歩、南蛮貿易などによる西洋甲冑の影響などの要因により、室町時代後期の戦国時代から安土桃山時代に生じた甲冑の一形式。「当世」とは「現代」の意味で、当時、従来の鎧とは違う新しい様式の甲冑であったため、その様に呼ばれた。単に具足とも呼ばれる。
歴史と特徴肩脱二枚胴具足(伝加藤清正所用)、安土桃山 - 江戸時代・16 - 17世紀(東京国立博物館蔵)南蛮胴具足(伝明智光春所用)、安土桃山時代 - 江戸時代・16 - 17世紀(東京国立博物館蔵)中世復古調の御納戸糸威雲龍蒔絵山道頭桶側二枚胴具足、江戸時代・19世紀(東京富士美術館蔵)

平安時代以降は大鎧胴丸南北朝から室町時代前期にかけては、胴丸や腹巻といった伝統的な形式の甲冑が主流であったが、戦国時代に入ると、戦闘の大規模化による集団戦や、鉄砲伝来による鉄砲戦といった戦法の変化に伴って、製作が簡便で大量生産に適しながらも、高い防御性と装着時の機動性を具える甲冑が求められた。これらに応じて、当時の下克上の風潮を反映して誕生した甲冑が当世具足である[2]

従来の大鎧、胴丸、腹巻などが、革の小札(こざね)を色糸で綴った、華美ではあるが大量生産には向かない構造であったのに対して、当世具足では胴の部分の小札が大型化したり、横一列の各小札を一枚板に置き換えた板札(いたざね)構造に発展したり、全面的に一枚板になったりして構造が簡素になり大量生産が可能となった。またこれらの小札や板札が鉄で製作されることも多くなり防御性が向上した。これにより甲冑の柔軟性が失われため、蝶番構造を使って胴部分を開閉して着脱する方式に改められた[2]

こうして構造が簡素化されて製作が簡便になったことで、却って甲冑のデザインに注力することができるようになり、合戦の大規模化により敵味方識別の必要性や戦場での自己顕示目的もあって、甲冑のデザインの多様性が増すことになった。従来の甲冑では小札を綴る糸の色くらいでしか一目で区別できなかったが、当世具足では多種多様な形式やデザインが存在する。例えば兜に装着する前立は、大鎧などでは鍬型一種類しか存在しないが、当世具足においては、文字、家紋、左右非対称デザインなど多種多様なものが存在する。胴部分の鉄の表面に紙を貼って装飾を施して奇抜なデザインを実現したり、小札や色糸を胴に貼付けて、胴丸と当世具足を折衷したかのようなデザインに仕上げたものも存在する。一方で仙台藩伊達政宗の黒漆塗五枚胴具足のように、大将や武将クラスは同一形式の具足に統一してユニフォーム化し、立物や附物などで差別化する例もあった[3]

当世具足は胴丸を改良するかたちで発展し、桶側胴仏胴、最上胴等その形式は多く、顔を覆う面頬(めんぼお)、太腿を覆う佩楯(はいだて)等の付属する小具足も充実した。欧州の甲冑のプレートアーマーを輸入・改造した物もあり、それらは南蛮胴、南蛮兜と呼ばれる。これらは後に国産化がなされ、鉄砲の弾丸を反らせるため具足に曲線や傾斜を多用した工夫も施されている。にも様々な形式が生じ、実用性とともに当時の武士の気性を反映した華やかで奇抜な装飾性を持ったものも多い[2]

このように、当世具足では胴や兜は堅牢なものになったが、動きやすさを重視して腕や足の一部を覆う部分は鉄の小片を綴ったり鎖帷子形式の形態で従来の形式を踏襲しており、従来の胴丸等と同じく西洋のラメラーアーマーと同じ構造原理であった。

武将は一人で多数の甲冑を所有することもあり、例えば徳川家康所用品は久能山東照宮日光東照宮紀州東照宮徳川美術館徳川ミュージアム東京国立博物館などに数十品が確認されている[4][5][6]

江戸時代に入り1615年の大坂夏の陣江戸幕府豊臣氏を滅ぼし、元和偃武を迎えて世が太平を謳歌するようになると、戦で当世具足が使われることもなくなり、飾った時の豪華さを目的に本来必要のない部品が取り付けられたり、豪華に蒔絵が施されたりなど、当世具足に虚飾が加えられるようになった。江戸時代中期以降は中世復古調が流行り、大鎧・胴丸・腹巻を模範として甲冑が作られたが、当世具足の様式と混ざったりして必ずしも時代考証に則ったものではない甲冑も製作された。その後、明治維新による武士階級の消滅や軍備の近代化に伴い、1877年の西南戦争を最後に実用に供されることはなくなった[2]

仁王胴具足、安土桃山時代・16世紀(東京国立博物館蔵)

金小札紅糸威五枚胴具足、安土桃山 - 江戸時代・16-17世紀(東京国立博物館蔵)

色々糸威二枚胴具足(徳川家康近侍所用)、安土桃山 - 江戸時代・17世紀、東京国立博物館蔵)

黒糸威二枚胴具足(榊原康政所用)、江戸時代・17世紀(東京国立博物館蔵、重要文化財

白糸威胴丸具足(松平家乗所用)、江戸時代・1614年以前(東京国立博物館蔵)胴丸仕立ての当世具足

黒糸威胴丸具足(伝黒田高政所用)、江戸時代・17世紀、(東京国立博物館蔵)

馬面(ばめん)派作の当世具足、江戸時代・18世紀(メトロポリタン美術館蔵)

構造.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

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出典検索?: "当世具足" ? ニュース ・ 書籍 ・ スカラー ・ CiNii ・ J-STAGE ・ NDL ・ dlib.jp ・ ジャパンサーチ ・ TWL(2020年7月)
当世具足に特徴的な独創的なデザインの兜、胴部分の板札、顔と肩を守る面頬と当世袖が見て取れる。


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