弾性衝突
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黒体放射(図示しない)が系から漏れない限り、熱攪拌中の原子は本質的に弾性衝突を起こす。平均して2つの原子は衝突前と同じ運動エネルギーで互いにはね返る。5つの原子が赤く着色され、その運動経路が見やすくなっている。

物理学において、弾性衝突(だんせいしょうとつ、英語: elastic collision)は、衝突の前後で2つの物体の総運動エネルギーが同じになる衝突である。理想的で完全な弾性衝突では、、雑音、位置エネルギーなどの他の形態への運動エネルギーの正味の変換はない。

小さな物体の衝突中には、運動エネルギーは最初に粒子間の反発力又は引力に関連する位置エネルギーに変換され(粒子がこの力に逆らって移動する場合、つまり、力と相対速度の間の角度が鈍角である場合)、その後この位置エネルギーは運動エネルギーに変換される(粒子がこの力で移動する場合、つまり、力と相対速度の間の角度が鋭角である場合)。

ラザフォード後方散乱など原子の衝突は弾性的である。

弾性衝突の有用な特殊な場合は、2つの物体の質量が等しい場合である。この場合、2つの物体は単純に運動量を交換する。

原子とは異なり、気体または液体の分子が完全な弾性衝突をすることはめったにない。これは、衝突ごとに分子の並進運動と内部自由度の間で運動エネルギーが交換されるためである。任意の時点で、衝突の半分は、程度の差はあるが、非弾性衝突(2つの物体が衝突前よりも衝突後の並進運動の運動エネルギーが少ない)であり、半分は「超弾性」(衝突後により多くのエネルギーを有する)と表現できる。標本全体で平均すると、プランクの法則がエネルギーが黒体光子により運ばれるのを禁じている限り、分子衝突は本質的に弾性的であると見なすことができる。

巨視的な物体の場合、完全弾性衝突は完全に実現されることのない理想であるが、ビリヤードボールなどの物体の相互作用により近似される。

エネルギーを考慮する場合、衝突の前後に考えられる回転エネルギー(英語版)も影響を与える可能性がある。

1次元ニュートン力学Walter Lewinが1次元の弾性衝突について説明するところ

弾性衝突において、運動量と運動エネルギーの両方が保存される[1]。粒子1と2の質量がm1とm2、衝突前の速度をu1とu2、衝突後の速度をv1とv2とする。衝突前後の総運動量の保存は次の式で表される[1]。 m 1 u 1 + m 2 u 2   =   m 1 v 1 + m 2 v 2 . {\displaystyle m_{1}u_{1}+m_{2}u_{2}\ =\ m_{1}v_{1}+m_{2}v_{2}.}

同様に、総運動エネルギーの保存は次の式で表される[1]。 1 2 m 1 u 1 2 + 1 2 m 2 u 2 2   =   1 2 m 1 v 1 2 + 1 2 m 2 v 2 2 . {\displaystyle {\tfrac {1}{2}}m_{1}u_{1}^{2}+{\tfrac {1}{2}}m_{2}u_{2}^{2}\ =\ {\tfrac {1}{2}}m_{1}v_{1}^{2}+{\tfrac {1}{2}}m_{2}v_{2}^{2}.}

u 1 , u 2 {\displaystyle u_{1},u_{2}} が既知の場合、これらの式を直接解くことで v 1 , v 2 {\displaystyle v_{1},v_{2}} を算出することができる[2]。 v 1 = m 1 − m 2 m 1 + m 2 u 1 + 2 m 2 m 1 + m 2 u 2 v 2 = 2 m 1 m 1 + m 2 u 1 + m 2 − m 1 m 1 + m 2 u 2 {\displaystyle {\begin{array}{ccc}v_{1}&=&{\dfrac {m_{1}-m_{2}}{m_{1}+m_{2}}}u_{1}+{\dfrac {2m_{2}}{m_{1}+m_{2}}}u_{2}\\[.5em]v_{2}&=&{\dfrac {2m_{1}}{m_{1}+m_{2}}}u_{1}+{\dfrac {m_{2}-m_{1}}{m_{1}+m_{2}}}u_{2}\end{array}}}

両方の質量が同じ場合、以下に示す自明な解を得る。 v 1 = u 2 {\displaystyle v_{1}=u_{2}} v 2 = u 1 . {\displaystyle v_{2}=u_{1}.}

これは単に物体同士の初速の交換に対応する[2]

解はすべての速度に定数を追加しても不変である(ガリレオ不変性(英語版))。これは並進速度が一定の座標系を使用するようなものである。実際、方程式を導出するためには既知の速度の1つがゼロになるように座標系を変更し、新しい座標系で未知の速度を決定し、元の座標系に変換する。
例ボール1: 質量 = 3 kg, 速度 = 4 m/sボール2: 質量 = 5 kg, 速度 = ?6 m/s

衝突後ボール1: 速度 = ?8.5 m/sボール2: 速度 = 1.5 m/s

他のシチュエーション質量が等しくない物体同士の弾性衝突。

次のイラストは質量が等しい( m 1 = m 2 {\displaystyle m_{1}=m_{2}} )場合である。質量が等しい物体同士の弾性衝突。移動する基準系を持つ系における弾性衝突。

m 1 {\displaystyle m_{1}} が m 2 {\displaystyle m_{2}} よりもずっと大きい限定的な場合(卓球のラケットがピンポン玉にあたる、SUVがゴミ箱にぶつかるなど)では、重い質量の速度はほとんど変化しないが軽い質量ははね返り速度が反転し、速度は重い質量の速度の約2倍となる[3]

u 1 {\displaystyle u_{1}} が大きい場合、質量がおよそ同じであれば v 1 {\displaystyle v_{1}} の値は小さくなる。はるかに軽い粒子にぶつかっても速度はあまり変化しないが、はるかに重い粒子にぶつかると速い粒子が高速ではね返る。これが中性子減速材(高速中性子を減速させ、それにより連鎖反応を維持できる熱中性子に変化させる媒体)が中性子を容易に吸収しない軽い原子核を持つ元素でいっぱいにされている理由である。
式の導出

上記の v 1 , v 2 {\displaystyle v_{1},v_{2}} の式を導くために、運動エネルギーと運動量の式を以下のように整理する。 m 1 ( v 1 2 − u 1 2 ) = m 2 ( u 2 2 − v 2 2 ) {\displaystyle m_{1}(v_{1}^{2}-u_{1}^{2})=m_{2}(u_{2}^{2}-v_{2}^{2})} m 1 ( v 1 − u 1 ) = m 2 ( u 2 − v 2 ) {\displaystyle m_{1}(v_{1}-u_{1})=m_{2}(u_{2}-v_{2})}


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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