強迫性障害の原因
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強迫性障害の原因(きょうはくせいしょうがいのげんいん)では、強迫性障害(obsessive-compulsive disorder、OCD)の症状の発現に関与する生物学的危険因子の同定に関して述べる。有力な仮説では神経解剖学、神経化学、神経免疫学、神経遺伝学及び神経行動学の分野での発見と共に眼窩前頭皮質大脳基底核及び/または大脳辺縁系の関与が提唱されている。
神経解剖学

OCDの評価に関してかなりの議論があった。ただ、21世紀初頭における研究では構造的及び機能的なニューロイメージングに重点を置いている。これらの技術革新によりOCDの神経解剖学的危険因子のさらなる理解がなされた。これらの研究では以下の4つの基本的なカテゴリーに分かれている[1]
安静時のOCD患者の脳活動を対称群と比較する安静時研究

症状の誘発前後の脳活動を比較する症状誘発研究

薬物療法による治療前後の脳活動を比較する治療研究

OCD患者の課題遂行時における脳活動を対称群と比較する認知活性化研究

この研究で得られたデータでは、眼窩前頭皮質(OFC)と前帯状皮質(ACC)及び尾状核頂部の3箇所の脳領域が、OCDに関与していることを示唆している[1]

また、一部研究ではOCD患者においてこれらの領域では、

(a) 健常の対称群と比較して安静時に過度に活動的である。

(b) 症状の誘発で更に活発になる。

(c) SSRI薬物治療や認知療法による治療の成功後は活動亢進を示さなくなる。

以上、3点も指摘されている[2]。この理解はこれらの神経解剖学的領域における異常がOCDを引き起こす可能性があるというエビデンスとして頻繁に引用されている。

眼窩前頭皮質と前帯状皮質は、皮質-大脳基底核-視床-皮質ループ(CBGTCループ)を経由して大脳基底核と複雑につながっている[3]。現在の理論では、OCDは大脳基底核を通る「直接」経路と「間接」経路間の不均衡の結果である可能性を示唆している。直接経路は皮質から線条体へと走り、その後は淡蒼球内節(GPi)、黒質網様部(SNr)、視床を通り最後に皮質へと戻るとされている。間接経路は皮質から線条体へと走り、その後淡蒼球外節(GPe)、視床下核(STN)、GPi、SNr、視床を通って最後に皮質へと戻るとされている[4]。直接経路の正味の効果は興奮性であり関節経路は抑制性である。したがって、眼窩前頭皮質と前帯状皮質とそれをつなぐニューロンのCBGTCループの中で、直接経路で行われる相対的に過度な活動が、強迫観念が囚われる正のフィードバックのループをもたらす可能性があるとの仮説が提唱されている[4]。構造的・機能的ニューロイメージング研究がこの仮説に強い根拠を与えているものの、OCD患者があらゆることに対する全般性の強迫行動ではなく、特定の強迫を持つようになる原因はわかっていない。研究者達は汚染など、特定の刺激に対する反応バイアスが存在すると示唆しているものの、根本的原因は不明のままである[5]
神経化学

神経化学機能がOCDの症状を媒介する役割があることについては、普遍的な事実だと見られている。その中でも、近年の精神薬理学の研究では、セロトニン(5-HT)神経伝達物質系が特に重要な役割を担っていることが判明している[6]。健常対照群との比較において、OCDの治療には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の長期投与が、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬よりも効果的であることがわかっている[6]。例としてRapoport et al. は、セロトニン再取り込みの阻害作用が比較的強い抗うつ薬として知られるクロミプラミンは、デシプラミン(英語版)よりも、一部の反復行動を減少させるのに有効であることを示した[7]。また、他の研究では、5-HT拮抗薬の投与はしばしばOCDの症状を悪化させることが示されている[8]

これが真実の場合、ミルタザピン (5-HT2A受容体拮抗薬)と、この受容体に対しても拮抗作用を有する非定型抗精神病薬がSSRIの効果を弱めることが予期されるものの、これらの薬物の臨床試験では反対の結果が示された。ミルタザピンはそれ自体は効果的ではないが、パロキセチンの効果を早めることが示されており[9]、一部研究では非定型抗精神病薬は難治性OCD患者のSSRIの効果を増強することが示されている(Bloch et al., 2006)[10]

これらの発見は明確な原因を提供してはいないが、精神状態は薬理学的に解剖可能であるとの考えの土台を形成した。SSRIでの強迫観念と強迫行為の制御効果はOCDの根底に神経化学的病因があることを示唆している。

ドーパミン作動系はドーパミン作用薬の働き、小児自己免疫性溶連菌関連性精神神経障害(PANDAS)が関係している可能性があるとの事実[11]、そして様々なニューロイメージング研究[12]によりOCDに関係している。OCDは抗精神病薬で治療する可能だが、精神刺激薬もまたOCD症状を軽減することにおいて一定の見込みがあることを示している[13] 。これらは調整する必要があるが、両方ともドーパミン作動系に関係している。また、OCD患者は、ADHDの併存率も高率であり[14]、これは精神刺激薬で治療されドーパミン作動系の一過性シグナルの増加と持続性シグナルの減少が原因の可能性がある。小児自己免疫性溶連菌関連性精神神経障害は、ドーパミンが神経伝達物質として大きな役割を担っている、大脳基底核にも影響を与えていると見られている。
神経免疫学

ヘンリエッタ・レオナルドとスーザン・スウェドは彼らの論文「Paediatric autoimmune neuropsychiatric disorders associated with streptococcal infection (PANDAS)」で神経免疫学的危険因子ついてのエビデンスを提供した[15]。研究者達はレンサ球菌に感染後に起こる場合のある自己免疫反応が、小児期のOCD発症の潜在的環境要因である可能性を示唆している。


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