この項目では、民事執行法による強制執行について説明しています。行政法の分野における強制執行については「行政上の強制執行」をご覧ください。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。
強制執行(きょうせいしっこう)とは、債務名義にあらわされた私法上の請求権の実現に向けて国が権力(強制力)を発動し、真実の債権者に満足を得させることを目的とした法律上の制度であり、日本においては民事執行法(以下単に「法」とする)を中心とする諸法令により規律される。 強制執行は、執行力のある債務名義の正本に基づいて実施する(25条
民事執行法は、以下で条数のみ記載する。
目次
1 強制執行総論
1.1 種類
1.2 債務名義
1.3 執行文
1.4 執行機関
1.5 強制執行に対する不服申立て
2 強制執行各論
2.1 金銭執行
2.1.1 不動産執行
2.1.1.1 強制競売
2.2 強制競売開始手続
2.2.1 強制競売の申立て
2.2.2 開始決定・差押え
2.2.3 売却許可決定
2.2.4 引渡命令
2.3 強制管理
2.4 船舶執行
2.5 動産執行
2.6 債権執行
2.6.1 その他の財産権に対する強制執行
2.7 非金銭執行
3 不動産・動産の引渡し・明渡しの実施手続
3.1 不動産引渡し・明け渡し強制執行
3.2 動産の引渡しの強制執行
3.3 作為・不作為請求権の強制執行
4 関連項目
強制執行総論
種類
金銭執行 - 直接強制の方法によって行われる。
不動産執行
船舶執行
動産執行
債権・その他の財産権に対する執行
非金銭執行
直接強制
代替執行
間接強制
債務名義
債務名義(さいむめいぎ)とは、22条
各号に掲げられた文書をいい、私法上の給付請求権の存在及び内容を公証するとともに、その給付請求権に強制執行の手続により実現を図ることができる効力(執行力)を付与する文書である。もし執行機関自身が各事件ごとにその請求権の存否・内容を調査することとすると、執行の迅速は著しく害される。そこで、法は、強制執行に際し他の機関によって作成された債務名義を必要とし、また債務名義のみに基づいて強制執行を行うことができるものとしたのである。
債務名義には、以下の種類がある(22条各号)。 執行文(しっこうぶん)とは、債務名義の執行力の存在、執行当事者適格、条件付請求権についての条件成就について、裁判所書記官・公証人が審査し、債務名義の正本の末尾に付記する公証文言である(法26条
確定判決(同条1号)
仮執行の宣言を付した判決(同条2号)
抗告によらなければ不服を申し立てることが出来ない裁判(同条3号)
仮執行の宣言を付した支払督促(同条4号)
訴訟費用の負担等の額を定める裁判所書記官の処分(同条4号の2)
金銭の支払等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述(執行受諾文言)が記載されているもの(執行証書、同条5号)
確定した執行判決のある外国裁判所の判決(同条6号)
確定した執行決定のある仲裁判断(同条6号の2)
確定判決と同一の効果を有するもの(同条7号)
執行文
この法技術は、裁判機関と執行機関とを分離した制度の下で、執行機関が実質的調査を要せず、簡易に執行に着手するためのものである。
執行文には、以下の3つの種類がある。
単純執行文:債務名義の執行力を単純に公証するもの。
条件成就執行文(法27条1項):停止条件の成就・不確定期限の到来を確認するもの。
承継執行文(同条2項):債務名義に表示された者でない者を債権者または債務者とする執行を許す。
なお、法で規定する以外に、転換執行文という類型を認めるべきであるとの見解が中野貞一郎により提唱されているが、実務上は採用されていない。 執行機関(しっこうきかん)とは、執行手続を担当する国家機関をいう。日本の民事執行法は、執行機関として、執行裁判所(法3条)と執行官(裁判所法62条)を設けている。 執行機関は、裁判機関とは独立した司法機関である。私法上の給付請求権について判断し債務名義を出す裁判機関と、債務名義に基づき執行手続を行う執行機関とが分離されているのは、執行手続において迅速かつ効率的に権利の実現を行うためである。
執行機関