強制性交等罪
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「強姦罪」と「強制性交等罪」はこの項目へ転送されています。行為の全般や日本以外の犯罪類型については「強姦」をご覧ください。
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この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。

不同意性交等罪

法律・条文刑法177条
保護法益性的自由
主体人間
客体人間
実行行為不同意性交等
主観故意
結果結果犯、侵害犯
実行の着手性的不同意の状態で、人間に対して性交等に及んだ時点
既遂時期性器肛門又は口腔への一部挿入時点
法定刑5年以上の有期懲役。有期懲役刑の上限は20年、加重により30年[1]
未遂・予備未遂罪(180条)
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不同意性交等罪(ふどういせいこうとうざい)は、16歳以上の者に対し、後述の8つの要件によって同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて性交等を行うこと、または16歳未満の者に対し性交等を行うことを内容とする犯罪類型。

かつての強制性交等罪と準強制性交等罪を一本化した罪名であり、2023年7月13日に改正刑法が施行された[2][3]。以前の強制・準強制性交等罪では、「暴行脅迫」を用いることや「心神喪失抗拒不能(抵抗ができない状態)」に乗じる/させることが成立要件になっていたが、「被害者の強い抵抗があったかどうかが重視され、司法判断にばらつきがある」「『暴行や脅迫』がなくても恐怖で体が固まったり、相手との関係性で抵抗できないなどの実態がある」として、見直しが求められていた[4][5][6]。不同意性交等罪では、条文に「有効な同意」ができない8つの典型的な場面を挙げ[7]、また婚姻の有無を問わないことを明示し、性交同意年齢を13歳から16歳へと引き上げた。
概要
不同意性交等罪

16歳以上の者に対し暴行・脅迫をはじめ有効な同意のできない8つの要件のいずれかの状況のもと性交等を行うこと、または16歳未満の者に対し同意の有無を問わず性交等を行うことを内容とする犯罪類型である。主体・客体ともに性別不問である。

法定刑は5年以上(20年以下、加重により30年以下)の懲役。
性交等の定義

「性交等」には、性交、肛門性交、口腔性交のほか体の一部や物をまたは肛門に挿入する行為が該当する[8][9][10]。性交、肛門性交、口腔性交の定義については強制性交等罪を参照。
8つの要件

8つの要件には以下の状況が該当する。
要件として示された具体的な8つの行為や状況
[11]
「暴行や脅迫をする(暴行や脅迫を受ける)」

「精神的、身体的な障害を生じさせる(心身の障害がある)」

アルコール薬物を摂取させる(アルコールや薬物の影響がある)」。
相手がアルコールの影響がある場合は要件に該当するが、その上で「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難なほど酔っている」ことが必要である[12][13]。つまり、同意しない意志を形成・表明・全うすることが出来る状態にある人と、同意を取った上で行う性交は罪にならない[14]。場合によっては、酩酊の程度が考慮されるなど、個別の事案ごとに証拠に基づいて判断されることになる[12]

「眠っているなど、意識がはっきりしていない状態にさせる(意識が不明瞭な状態にある。同意を示すためには、性行為が持つ意味とリスクを十分に理解していることが前提となるため、寝ている人は同意を示すことができない[15])」

「拒絶するいとまを与えない(被害者が急に襲われる場合などを想定)」

「恐怖・驚がくさせる(恐怖・驚がくしている。ショックで体が硬直し、いわゆるフリーズ(凍りつき)状態になった場合などを想定)」

虐待による心理的反応を生じさせる(被害者が長年にわたって性的虐待を受けることで、拒絶する意思すら生じない場合などを想定)」

「経済的・社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮させる(不利益を憂慮している。教師から生徒、上司から部下、スポーツの指導者から選手に対する行為などで、断ったら不利益を受ける可能性がある場合)[16]

以上「1 - 8の行為や状況」または、「わいせつな行為ではないと勘違いさせたり、人違いをさせる/していること」により「性的行為に同意しない意思を形成(同意しないことを発想もできない)、表明(同意しないことを言えない)、全うすることが困難(同意しないと言っているのに無視して押し切られる)な状態にさせたり、そうした状態に乗じたりして、性的行為をした」場合に処罰される[2][17][18]。今まで通り、立証責任は検察官にあるため、8類型にプラスして同意がなかった/全う出来なかったことを証明するビデオや元々の関係性、性交後の行動など事実を捜査して、総合的に評価が行われる[14]


監護者性交等罪

18歳未満の者に対して、その者を現に監護する者(監護者)であることによる影響力があることに乗じて性交等をした場合には、監護者性交等罪(第179条第2項)に当たる。性交等の定義と法定刑は不同意性交等罪と同一である。
監護者

本条項の主体は、(18歳未満の者を)「現に監護する者」であり、真正身分犯である。「現に監護する者」の範囲に関しては、次の衆議院法務委員会での政府参考人の答弁(抄)によれば、以下の場合が想定されている。

2017年(平成29年)6月7日衆議院法務委員会での林眞琴政府参考人の答弁[19]

…監護するというのは、民法八百二十条に親権の効力と定められているところと同様に監督し、保護することをいいまして、十八歳未満の者を現に監護する者とは、十八歳未満の者を現に監督し、保護している者をいいます。

本罪の現に監護する者に当たるか否かは個別の事案における具体的な事実関係によって判断されることとなりますが、民法における監護の概念に照らしまして、現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点でありますとか生活上の指導監督などの精神的な観点、このようなものから依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められるということが必要であると考えております。

(中略)例えばスポーツのコーチでありますとかあるいは教師など、こういった者についてはやはり通常は、生徒等との間に生活全般にわたる依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められないことから、現に監護する者に当たらない場合が多いと考えております。
影響力

「影響力があることに乗じて」については、前記と同じの答弁(抄)によれば、以下の場合が想定されている。

2017年(平成29年)6月7日衆議院法務委員会での林眞琴政府参考人の答弁[19]

乗じてとの用語でございますが、...現に監護する者であることによる影響力が一般的に存在し、当該行為時においても、その影響力を及ぼしている状態で性的行為を行うということを意味します。...性的行為を行う特定の場面におきまして、監護者からこの影響力を利用する具体的な行為がない場合でありましても、このような一般的かつ継続的な影響力を及ぼしている状態であれば、被監護者にとっては監護者の存在を離れて自由な意思決定ができない状態であると言えます。

その上で、被監護者である十八歳未満の者を現に監護し、保護している立場にある者がこのような影響力を及ぼしている状態で当該十八歳未満の者に対して性的行為をすることは、それ自体が被監護者にとって当該影響力により被監護者が監護者の存在を離れて自由な意思決定ができない状態に乗じていることにほかならないと言えます。よって、乗じてと言えるためには、性的行為に及ぶ特定の場面において影響力を利用するための具体的な行為は必要なく、影響力を及ぼしている状態で行ったということで足りると考えております。
結果的過重犯詳細は「不同意性交等致死傷罪」を参照

人の死傷を伴う場合は、結果的加重犯として刑がより重くなる。不同意性交等罪若しくは監護者性交等罪又はこれらの罪の未遂罪を犯しよって人を死傷させた時は、無期又は6年以上の懲役となる。
過去の類型

ここでは、過去に規定されていた犯罪類型の法的観点からのそれぞれの罪の概要について述べる。改正の経緯については、後述の節を参照のこと。

強姦罪と強制性交等罪、不同意性交等罪の違い罪適用期間構成要件公訴時効親告罪有期懲役廃止新設
(a)
罪名:手段・状況(b)
性行為(c)
被害者(d)
性交同意年齢
強姦罪
(第177条)

準強姦罪
(第178条)1908年-
2017年強姦罪:「暴行・脅迫」を用いる

準強姦罪:「心神喪失・抗拒不能(抵抗ができない状態)」にする/乗じる[20][21]男性器の挿入が条件[22]
姦淫(男性器を女性器に挿入する)[20]被害者は女性、加害者は男性のみ[20]13歳
13歳未満は、
(a)の要件なし、
相手が同意していても処罰の対象10年親告罪
(被害者が告訴しなければ、検察は事件を起訴できない)[20]2-15年(1908-2004年)

3-20年(2005-2017年)
強制性交等罪(第177条)

準強制性交等罪(第178条第2項)
2017年-
2023年強制性交等罪:「暴行・脅迫」を用いる

準強制性交等罪:「心神喪失・抗拒不能(抵抗ができない状態)」にする/乗じる[20][14]男性器の挿入が条件[22]
性交、肛門性交または口腔性交(男性器を女性器や肛門、口腔内に挿入する/させる)[20][23]性別を問わない(女性以外も被害者に、男性以外も加害者に)[20]13歳
(〃)10年非親告罪
(事件の認定をもって、検察は事件を起訴できる)[20]5-20年法定刑の引き上げに伴い「集団強姦罪」「集団強姦致死傷罪」を廃止[20]「監護者性交等罪」「監護者わいせつ罪」
18歳未満の子どもを監護(生活全般を支える)する親や児童養護施設職員など、その影響力に乗じて性交・わいせつ行為をした者を処罰できる[20]
不同意性交等罪(第177条)2023年-不同意性交等罪:「8つの行為や状況」または「わいせつな行為ではないと勘違いさせたり、人違いさせる/していること」により「被害者が同意しない意思を表すことが難しい状態にする/乗じる[20]性交、肛門性交または口腔性交に加えて、体の一部(指など)や物を、膣や肛門に挿入する行為も「性交」扱いに[9]性別を問わない[2]16歳
13未満は、(a)の要件なし;
13-15歳は、5歳以上年上の加害者は(a)の要件なし、
相手が同意していても処罰の対象[2]15年非親告罪5-20年〔強制性交等罪と準強制性交等を統合〕[2]「性的面会要求罪」「性的姿態撮影罪[2]

2017年までの類型
強姦罪

暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫、または、13歳未満の女子を姦淫することを内容とする犯罪である。法定刑は3年以上20年以下(2004年改正以前は2年以上15年以下)の懲役。

姦淫とは、男性生殖器を女性生殖器に挿入すること、つまり性交であり、現在の性交等よりも範囲が限られていた。

強姦罪は真正身分犯(構成的身分犯)である(最判昭和40年3月30日刑集19巻2号125頁)ので、原則として加害者は男性であり、女性は強姦罪の加害者になりえない(女性は単独で直接正犯となりえない)。一方、刑法65条1項により、女性が加害男性と共謀した場合には強姦罪の共犯となりうる(最高裁判所昭和40年3月30日判決[24])。

強姦罪の客体(被害者)は女性に限定されていた。この点に関して、刑法177条の規定が憲法14条1項の法の下の平等に反しないか争われた裁判では、最高裁判例は違憲ではないとしている(最高裁判所昭和28年6月24日判決[25])。

強姦に着手し、これを遂げない間に相手を殺害した直後、引き続き姦淫を遂げたときは、相手が既に死亡していても、強姦については既遂罪が成立する(大阪高等裁判所昭和42年5月29日判決[26])。

強姦罪の暴行・脅迫については「相手方の反抗を著しく困難にする程度のものであれば足りる」として、強盗罪の場合のような、相手方の反抗を不能にする程度までの暴行・脅迫でなくともよいとする(最高裁判所昭和24年5月10日判決[27])。


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