言語学において、弁別的素性(べんべつてきそせい)は音韻論的構造のもっとも基本的な単位である。弁別素性、示差的特徴ともいう。 それ自身が表す分節音 どのような弁別的素性を用いるべきかについてはいまだ議論が続いているが、以下に一例をあげる。 主要音類素性(しゅようおんるいそせい、main class feature)は主要な音のクラスを表す。 喉頭素性(こうとうそせい、laryngeal feature)は声門の状態を表す。 調音様式素性 (manner feature) は調音様式を表す。 調音位置素性 (place feature) は調音位置を表す一価の素性である。それぞれ、付属する二値的素性によってさらに細かく区別される。
概要
素性の一覧
主要音類素性
子音性 [±consonantal]
[+cons]の音には声道の中心線のどこかに少なくとも摩擦を生じる程度に狭い狭窄がある。[?cons]の音にはそのような狭窄がない。例えば破裂音、破擦音、摩擦音、鼻音、流音などは[+cons]であり、母音、わたり音、声門音は[?cons]である。
共鳴性 [±sonorant]
[+son]の音を共鳴音(きょうめいおん)、[?son]の音を阻害音(そがいおん、obstruent)という。共鳴音は声道の狭窄の前後の気圧が同程度で、聞こえが大きい。阻害音は狭窄と声門の間の気圧の方が高くなり、聞こえが小さい。例えば母音、わたり音、流音、鼻音などが[+son]である。
接近性 [±approximant]
[+approx]の音には声道に摩擦を生じない空気の通り道があるが、[?approx]の音にはそれがない。母音、わたり音、流音は[+approx]である。
音節性 [±syllabic]
[+syll]の音は音節の核となるが、[?syll]の音はならない。母音とわたり音の区別を表現するのにChomsky & Halle (1968) で用いられた。
喉頭素性
有声性 [±voice]
[+voice]の音は、声帯が振動する程度に接近しているが、[?voice]の音はそうでない。母音やその他の共鳴音、有声阻害音は[+voice]、無声阻害音は[?voice]である。
拡張声門性 [±spread glottis]
[+spread]の音は声門で摩擦が生じる状態になっているが、[?spread]の音はそうでない。有気音や[h]などは[+spread]である。[±sg]とも。
狭窄声門性 [±constricted glottis]
[+constr]の音は声帯が緊張し、声門は閉じている。[?constr]の音はそうではない。声門破裂音、放出音、入破音などは[+constr]である。[±cg]とも。
調音様式素性
継続性 [±continuant]
[+cont]の音は、声道に閉鎖がなく空気が継続して流れるが、[?cont]は閉鎖がある。破裂音、破擦音、鼻音などは[?cont]であり、摩擦音や母音は[+cont]である。側面音は、中心部には閉鎖があるが、側面部は開いているので、言語によってどちらの値を持つかが異なる。
鼻音性 [±nasal]
[+nas]の音は口蓋帆が下がり、空気が鼻腔に流れる。[?nas]の音は口蓋帆が上がっているので空気は鼻腔に流れない。鼻音と鼻母音が[+nas]である。
粗擦性 [±strident]
阻害音の摩擦の区別を表す。[+strident]の音は比較的うるさい摩擦を伴い、[?strident]の音はそのような摩擦を伴わない。[f, s, ?, χ]などは[+strident]、[?, c, x]などは[?strident]である。また、破裂音[?strident]と摩擦音[+strident]の区別にも用いられる。
側音性 [±lateral]
[+lat]の音は、声道の中心線に舌による閉鎖があるが、少なくとも一方の側面は開放されていて、空気が流れるようになっている。[?lat]の音はそうではない。側面音は[+lat]である。
遅延的開放性 [±delayed release]
破裂音と破擦音の区別を表すために用いられることがある。[+dr]は閉鎖の開放が遅く、摩擦が生じる破擦音である。[?dr]はそうでない。破裂音は[?dr]である。
調音位置素性
唇音性 .mw-parser-output span.smallcaps{font-variant:small-caps}.mw-parser-output span.smallcaps-smaller{font-size:85%}[labial]
[labial]の音は調音に唇が関わる。
円唇性 [±round]
[+round]の音は唇の丸めを伴う。円唇母音や唇音化した子音などは[+round]である。
舌頂性 [coronal]
[cor]の音では舌先を持ち上げて調音が行なわれる。
前方性 [±anterior]
[+ant]の音は歯茎の境目よりも前で調音され、[?ant]の音は後ろで調音される。歯音、歯茎音は[+ant]、後部歯茎音、そり舌音は[?ant]である。
広域性 [±distributed]
[+distr]の音は声道の狭窄が比較的広範囲にわたって存在するが、[?distr]の音はそうではない。舌端音は[+distr]、舌尖音は[?distr]である。歯音は舌が歯茎にも接近するので[+distr]である。そり舌音は[?distr]である。
舌背性 [dorsal]
調音に舌背が関わる。[c]、軟口蓋音、口蓋垂音、母音などは[dorsal]である。
高段性 [±high]
[+high]の音は舌背が口蓋に近い位置にあり、[?high]はそうではない。狭母音や軟口蓋音は[+high]、広母音や口蓋垂音などは[?high]である。
低段性 [±low]
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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