広義積分
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解析学において、広義積分(こうぎせきぶん、: improper integral)とは何らかの定積分の積分区間を動かしたときの極限である。極限値は有限確定値に収束することもあるが発散することもある。積分区間の端点(片方または両方)は何らかの実数か正または負の無限大に近づく。(多変数関数に対する広義重積分の場合には積分領域を取り尽くす、適当な有界可測集合列に関する極限をとる[1]。)
定式化

厳密に言えば広義積分とは積分の一種ではなく、以下のような形の式の総称である。まず lim b → c ∫ a b f ( x ) d x {\displaystyle \lim _{b\to c}\int _{a}^{b}f(x)\,dx}

ここで c は正または負の無限大であるか、x → c − 0 につれて | f (x)| が無限大となるような定数である。または lim b → a ∫ b c f ( x ) d x {\displaystyle \lim _{b\to a}\int _{b}^{c}f(x)\,dx}

ここで a は正または負の無限大であるか、x → a + 0 につれて | f (x)| が無限大となるような定数である。あるいは以下のような形もある。 lim s → a ∫ s b f ( x ) d x + lim t → c ∫ b t f ( x ) d x {\displaystyle \lim _{s\to a}\int _{s}^{b}f(x)\,dx+\lim _{t\to c}\int _{b}^{t}f(x)\,dx}

a および c は正または負の無限大であるか、x が積分区間の内側から近づくにつれて | f (x)| が無限大となるような定数である。この値は(存在する限り)b の取り方によらない。

こうして、この分野における基本的な問がどんなものか分かる:

極限は(
解析学的な意味で)存在するか?

存在するとして、その値を計算できるか?

2つ目の問には微積分計算のテクニックも使えるが、場合により周回積分フーリエ変換等の高度な技法が必要なこともある。
記法

普通の積分と良く似た記法を使うことが多い。しかし同じ広義積分に対する記法には以下のような種類がある: ∫ a ∞ f ( x ) d x := lim t → ∞ ∫ a t f ( x ) d x {\displaystyle \int _{a}^{\infty }f(x)\,dx\,:=\lim _{t\to \infty }\int _{a}^{t}f(x)\,dx\,} ∫ − ∞ b f ( x ) d x := lim t → − ∞ ∫ t b f ( x ) d x {\displaystyle \int _{-\infty }^{b}f(x)\,dx\,:=\lim _{t\to -\infty }\int _{t}^{b}f(x)\,dx\,} ∫ − ∞ ∞ f ( x ) d x := lim t → − ∞ ∫ t a f ( x ) d x + lim t → ∞ ∫ a t f ( x ) d x {\displaystyle \int _{-\infty }^{\infty }f(x)\,dx\,:=\lim _{t\to -\infty }\int _{t}^{a}f(x)\,dx\,+\lim _{t\to \infty }\int _{a}^{t}f(x)\,dx\,} ∫ a b f ( x ) d x := lim t → b − ∫ a t f ( x ) d x {\displaystyle \int _{a}^{b}f(x)\,dx\,:=\lim _{t\to b^{-}}\int _{a}^{t}f(x)\,dx} 、ここで lim x → b − 。 f ( x ) 。 = ∞ {\displaystyle \lim _{x\to b^{-}}|f(x)|=\infty } ∫ a b f ( x ) d x := lim t → a + ∫ t b f ( x ) d x {\displaystyle \int _{a}^{b}f(x)\,dx\,:=\lim _{t\to a^{+}}\int _{t}^{b}f(x)\,dx} 、ここで lim x → a + 。 f ( x ) 。 = ∞ {\displaystyle \lim _{x\to a^{+}}|f(x)|=\infty } ∫ a b f ( x ) d x := lim t → c − ∫ a t f ( x ) d x + lim t → c + ∫ t b f ( x ) d x {\displaystyle \int _{a}^{b}f(x)\,dx\,:=\lim _{t\to c^{-}}\int _{a}^{t}f(x)\,dx\,+\lim _{t\to c^{+}}\int _{t}^{b}f(x)\,dx} 、ここで lim x → c 。 f ( x ) 。 = ∞ {\displaystyle \lim _{x\to c}|f(x)|=\infty }
定義に関する注意被積分関数が発散している広義積分無限の領域上に渡る広義積分

場合によっては、次の積分 ∫ a c f ( x ) d x {\displaystyle \int _{a}^{c}f(x)\,dx\,}

は、次の極限の存在を抜きにして定義できる: lim b → c − ∫ a b f ( x ) d x {\displaystyle \lim _{b\to c^{-}}\int _{a}^{b}f(x)\,dx\,} .

しかしこの極限なしでは値の計算が困難である。例えば関数 f を a から c で積分する際、(1)関数 f が c で正または負の無限大に発散するとき、または(2) c = ∞のときに、そのような状況がしばしば生ずる。

また場合によっては、f(x) dx の正部分と負部分それぞれの a から c までの積分が共に無限大となり、単なる「f の a から c までの積分」が定義すらできなくても、上記の極限だけは存在することがある。それは(通常の積分に帰着できないという意味で)「真の」広義積分と呼べるだろう。
意味の解釈に関する注意

積分の理論には複数のものが存在する。微積分計算の立場からは、(特に指定がなければ)積分記号の意味として普通はリーマン積分の理論が仮定される。しかし広義積分を扱う際には、基礎となっている積分理論の区別が必要となることがある。

この積分 ∫ 0 ∞ d x 1 + x 2 {\displaystyle \int _{0}^{\infty }{\frac {dx}{1+x^{2}}}}

は、次のように解釈できる: lim b → ∞ ∫ 0 b d x 1 + x 2 = lim b → ∞ arctan ⁡ b = π 2 {\displaystyle \lim _{b\to \infty }\int _{0}^{b}{\frac {dx}{1+x^{2}}}=\lim _{b\to \infty }\arctan {b}={\frac {\pi }{2}}}

しかし一般にはそう解釈する必然性はない。例えば集合 (0,∞) 上でのルベーグ積分としても解釈できる。とは言うものの、「有限区間上での定積分の極限」という解釈は便利である(便利なのは値の計算だけかもしれないが)。


対照的に、次に示すsinc関数の積分は、 ∫ 0 ∞ sin ⁡ x x d x {\displaystyle \int _{0}^{\infty }{\frac {\sin x}{x}}\,dx}

ルベーグ積分としては解釈できない。なぜなら ∫ 0 ∞ 。 sin ⁡ x x 。 d x = ∞ {\displaystyle \int _{0}^{\infty }\left|{\frac {\sin x}{x}}\right|\,dx=\infty }

だからである。ゆえに上記の積分は「真の」広義積分であり、値は次式で与えられる: ∫ 0 ∞ sin ⁡ x x d x = lim b → ∞ ∫ 0 b sin ⁡ x x d x = π 2 {\displaystyle \int _{0}^{\infty }{\frac {\sin x}{x}}\,dx=\lim _{b\rightarrow \infty }\int _{0}^{b}{\frac {\sin x}{x}}\,dx={\frac {\pi }{2}}} .


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