幻想文学
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この項目では、文学のジャンルについて説明しています。雑誌については「幻想文学 (雑誌)」をご覧ください。

幻想文学(げんそうぶんがく、: litterature fantastique リテラチュール・ファンタスティック、: fantasy literature)は、

(最狭義)19世紀初頭のフランスにおいてロマン派の台頭とともに、イギリスのゴシック小説およびドイツの E.ホフマンの影響のもとに(フランスで)生れた、特定の文学ジャンルのこと[1]

最広義には 神秘空想の世界を描いた文学全般のこと。やや狭義には特に幽霊悪魔などの超自然の世界を描いた文学のこと[1]
象徴主義の画家ギュスターヴ・モロー「オイディプスとスフィンクス」
概説

ゴシック趣味にもとづく超自然的現象を装飾文体で語るゴシック・ロマンス(ゴシック小説)では、マシュー・グレゴリー・ルイスアン・ラドクリフなどが挙げられる。また、近代小説と分類される作家では、ゴーゴリドストエフスキーディケンズ、日本では夏目漱石森?外芥川龍之介川端康成谷崎潤一郎などが、超自然に材を取った作品を残している。この分野では、モダニズムの作家であるカフカナボコフベケットプルーストジョイスらの作品が幻想文学に位置づけられることもある。また、事象を現実世界への無意識の侵入をテーマ化するシュルレアリスムも含むことがある。
範囲の曖昧さ

ただし、定義の範囲を最も広げて、「神秘空想の世界を描いた文学全般」とすると、その範疇はかなり曖昧になる。

神話民話寓話叙事詩の一部にもその傾向はある、とも言える。[2]近代以前では、ローレンス・スターンの『トリストラム・シャンディ』も「幻想文学」とされることがあるので、近代小説成立以前にも多くの幻想文学作品が存在していた、とも言える。

現代に入ると、ポストモダニズムの先鞭となる、古来からある神話的・民話的モチーフを取り入れ、寓話風の作品を書く作家が現れた。代表的なものとして、カルヴィーノ「我らの祖先」三部作や澁澤龍彦タブッキ、ウィンターソンのアンジェラ・カーターなどが挙げられる。これらと並行した時期に、南米のマジックリアリズム作家、ガルシア=マルケスホルヘ・ルイス・ボルヘスマヌエル・プイグホセ・ドノーソらがいる。幻覚を扱った作品では、いくつか類別することができる。ジェラール・ド・ネルヴァル「オーレリア」[3]夢野久作ドグラ・マグラ」、色川武大『狂人日記』は、狂気や精神障害、錯乱による幻覚を扱った作品である。ウィリアム・S・バロウズなどは、ドラッグによる幻覚を扱った。ほかには、事象が幻覚であり、現実に起きていないことを認識した上でその幻覚を描く作品を、内田百日野啓三が残している。

神の啓示や霊的なもの、天使悪魔魔女魔術錬金術などにまつわる物語については、神秘文学、オカルト文学といった呼び方をすることもある。風刺のために架空の土地や世界を舞台にしたり、空想的な冒険を描く作品として、シラノ・ド・ベルジュラック『太陽の諸国諸帝国』やジョナサン・スウィフトガリバー旅行記』なども幻想文学として扱われる。サドマゾッホバタイユアンドレ・ピエール・ド・マンディアルグと言った性愛の幻想を描いた作家も、耽美、異端といった表現で幻想文学に入れられることもある。いちはやく幻想文学理論をまとめた[4]シャルル・ノディエ(Benjamin Roubaud画)

ツヴェタン・トドロフ(『幻想文学論序説』)は、M.R.ジェイムズ(Ghosts and Marvels)やオルガ・ライマン(Das Marchen bei E.T.A.Hoffmann)などを引いて、幻想とは現実と想像(超自然)の間で読者に「ためらい」を抱かせるもので、それは「恐怖」と「驚異」の中間にあるものとするが、H.P.ラヴクラフト(Supernatural Horror in Literature)は読者に誘発する感情の強さのために「恐怖」を重要視し、ピーター・ペンゾルト(The Supernatural in Fiction)やカイヨワ(『幻想のさなかに』)も「恐怖」や「奇異の感情」を幻想の要素としている。マルセル・シュネデール『フランス幻想文学史』は、「幻想とは内奥の空間を探求するもの」[5]とする。
文学用語(文学研究のための学問的用語)として 「(フランス語)fantastique」「(英語)fantasy」を使い始めた経緯

フランス語のfantastique、英語のfantasy、ドイツ語のPhantasieなどは、それぞれの歴史的経緯から意味はまったく同じではないが、元はギリシア語のphantastikeから、ラテン語のfantasticumを経て生まれたと推測されている。幻想文学的作品にFantastiqueの語を用いるようになったのは19世紀フランス・ロマン派の人々で、この分野の研究はフランスで進み、ツヴェタン・トドロフ『幻想文学論序説』(Introduction a La Litterature Fantastiaue, 1970年)が各国に翻訳、紹介されて、Fantasticの語が文芸用語として認知されるようになった[6]

日本では『哲学字彙』(1881年)でHallucinationの訳語として「幻想」が使われたが、その後心理学・哲学の領域では「幻覚」に定着。『訂増英華字典』(1883年)で、Fancy、Fantasm等の訳語として「幻想」が使われた[7]
幻想文学の系譜
源流

幻想文学の源流である神話や民話においては、アニミズムに基づく精霊妖精の物語が生み出された。ホメロスオデュッセイア』では地獄が語られ、ギリシア悲劇には幽霊が登場し、宗教書では霊や予言者や魔女の物語があり、また多くの狼男吸血鬼、変身などをテーマとする物語が作られてきた。またヨーロッパではアーサー王伝説も広く題材にとられ、『アレクサンドロス大王東征紀』を元にした「東方の驚異」に関する伝説(「アレクサンドロス大王からアリストテレスへの手紙」)や、プレスター・ジョン伝説がアジアへの幻想をかき立てた。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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