年金記録問題
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年金記録問題(ねんきんきろくもんだい)とは、日本において1人1番号という行政統一番号制度(国民識別番号)が無く、年金記録においても各行政ごとに一人の個人に複数の異なる番号を用いていた繁雑さ、社保庁職員労組である自治労国費評議会(地方公務員労組である自治労の下部組織)が手帳の統一、相談コーナーの設置、記録のオンラインなど各種合理化に反対し[1]社保庁に対する各種抵抗を自賛し、1979年以降からオンライン化を呑む対価として自分たちに有利な多数の覚書[2]まで締結させていたこと[3][1][4]オンラインデータ(社会保険庁職員がコンピュータで入力した年金記録)に誤りや不備が多いこと等が明らかになった問題である[1][3][4][5]。「消えた年金」問題とも呼称される[6][7]
概要年金手帳。1997年以降からのブルー手帳には基礎年金番号が記載される

1997年(平成9年)1月の基礎年金番号導入時、社会保険庁は、基礎年金番号通知書と共に、「現在加入している制度以外に公的年金に加入したことがあるかどうか(複数の年金番号を持っているかどうか)」を回答する郵便ハガキを住民台帳に記載されている当時の国民に郵送し、折り返し申し出た人と氏名性別生年月日の3項目による名寄せを行うことにより、合計約1818万件を対象に、1998年(平成10年)度から2006年(平成18年)度にかけて順次照会を行い、年金手帳の基礎年金番号への統合を進めてきた。

2007年(平成19年)2月に社会保険庁は平成19年(2007年)度の事業計画案の中で、特別強化体制により、基礎年金番号への過去記録の統合・整理等を進めるとした。しかし、2006年(平成18年)6月時点において、コンピュータに記録(年金番号)があるものの、基礎年金番号に統合・整理されていない記録が約5000万件(厚生年金番号4000万件、国民年金番号1000万件)あることが判明し、社会保険庁が年金記録をきちんと管理していないことが指摘された。

社会保険庁は、約5000万件の統合されていない過去記録(年金番号)は、まだ年金を受給していない人の年金番号であり、年金を受給する段階では基礎年金番号に統合されること、また、死亡したり、受給資格を満たさなかったり、年数が足りなかった等で受給要件に達しなかった人の年金番号も残っているとし、問題はないとする見解を示した。[8]しかし約5000万件の過去記録の中には、現在、年金を受給中の人の基礎年金番号に統合されていない記録(年金番号)が含まれており、本来受け取れる年金額より少ない金額が支給されている(年金支給漏れ)のではないかという疑惑が持たれた。

また、過去の紙台帳からコンピュータへの記録の転載が不正確なことも判明した。例えば、生年月日不明な場合に適当に埋めたり、氏名の漢字の読みを自動変換任せにするなどである[9]

さらに、納めたはずと主張する国民年金保険料の納付記録が、社会保険庁のデータ(年金記録)や自治体の台帳に記録および記載されておらず、保険料の領収書を残していなかったことで客観的な納付証明ができず納付と認められないケースや、給料から天引きされていたはずの厚生年金保険料の納付記録(被保険者記録)が、社会保険庁のデータにないことが判明したケースがあった。これが、いわゆる「消えた年金記録」である。加えて、社会保険事務所が、厚生年金の標準報酬等の記録をさかのぼって訂正した不適正な事務処理「消された年金記録」も判明した。

2007年(平成19年)6月に日本政府は、社会保険庁や市町村に年金記録がなく、本人にも領収書等の証拠がない場合(消えた年金記録)には、全都道府県にある総務省行政評価局の相談窓口に設置する「年金記録確認第三者委員会」(弁護士社会保険労務士等で構成)が、年金を支給するかどうかの総合的な判断を示すとした。

また、総務省に「年金記録問題検証委員会」を設置し、外部有識者に今回問題化した年金記録の管理・事務処理について、経緯、原因、責任等の調査や検証等を行わせたが、10月に出した報告書では、社会保険庁における多くの問題に対して、組織的に十分な改善対策が長期にわたって執られてこなかったことが今回の年金問題につながったとし、業務の総括責任者である歴代の社会保険庁長官を始めとする幹部職員の責任は最も重いとされた。

政府の年金記録問題への取組は、2007年(平成19年)7月の政府・与党取りまとめ及び2009年(平成21年)3月「今後の道筋」等に基づき進められた。
政界への影響

自公政権への影響も大きく、2007年7月の第21回参議院議員通常選挙以降敗北を重ね、2009年(平成21年)の政権交代へ至った一因となった。

第1次安倍内閣の2007年(平成19年)2月16日という国会で、以前から不祥事が続いていた社保庁を解体する社会保険庁改革関連法案[10]の審議中であったことも、国会やマスコミにおいて大きく取り上げられるとともに、数ある行政官庁の中で特出して悪い社会保険庁の体質や年金記録管理が国民から批判された[11][12][4]

第21回参議院議員通常選挙で自民と民主の与野党の逆転を招いた原因の一つと言われている。自民党側は、本来は民主党と関わりが深い労組主導の下での社保庁職員らの怠慢と不作為の結果であるのに、それを自民党政府批判に用いておりナンセンスであると反論した[4][5]

第45回衆議院議員総選挙政権交代後の2009年12月、当時の鳩山由紀夫首相は、日本年金機構の初代理事長に内定した紀陸孝ら役員と面会し、年金記録問題に重点的に取り組むよう求め、「記録問題を何とかしてほしいという国民の期待が、政権交代の原動力になった」と述べた[13]。同年秋頃から厚生年金基金においても類似の記録問題が明らかとなった。

年金機構への再編の際に、一度でも処分歴のある社保庁職員[14]は再雇用しない方針となっていた。そのため、社保庁最大の労働組合「全国社会保険職員労働組合(旧:自治労国費評議会)」、上部労組である自治労は支持政党である民主党政権へ訴訟しようとしていたが、社保庁職員への批判的な国民世論、民主党政権を支える立ち場で2010年参院選で組織内候補も出すことを考慮し、「ヤミ専従」で処分を受けた約20人は自治労が再就職先探しを担当すること、「その他の処分歴」は非常勤職員採用とすることで訴訟を回避した[15][16]

政権交代以降は左派政党でも国家運営経験から、従来の国民識別番号反対論から推進派へ転換した[注釈 1][17][18][19]。自公への再政権交代後には与野党合意で各個人ごとに1つの国民識別番号を与える社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)が導入された[12]
経緯

前史として、社会保険庁はグリーンピア問題(2004年)、社会保険庁汚職問題(2004年)、国民年金不正免除問題(2006年)といったスキャンダルが多く、国民から強い関心を向けられていた。

2007年(平成19年)

02月16日 納付者を特定できない国民年金厚生年金の納付記録が、2006年(平成18年)6月現在、5095万1103件(60歳以上が約2850万件、60歳未満が約2215万件、生年月日を特定できないものが約30万件)あることが同月14日に衆議院厚生労働委員長に提出された。「予備的調査」[20]の報告書[21][22]で明らかになり[23]、翌日には新聞報道で、5000万件の数字は国民も知るところとなった[24]


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