山王一実神道
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比叡山

山王神道(さんのうしんとう)は、平安時代末期から鎌倉時代にかけて、天台宗の総本山である比叡山延暦寺で生まれた神道の流派である。狭義には、江戸時代天海より以前のものを山王神道という。山王一実神道とも言う。
概要

日枝山(比叡山)の山岳信仰、神道、天台宗が融合したのが山王神道である。山王権現(日吉大宮権現)は釈迦垂迹であるとされ、神仏分離では大山咋神とされた。また、「山」の字も「王」の字も、三本の線と、それを貫く一本の線からなっており、これを天台宗の思想である三諦即一思想と結びつけて説いた。

山王神道の教説をまとめた書としては、『山家要略記(さんけようりゃくき)』が知られる。同書は、比叡山の僧である義源が、顕真に仮託して[1]鎌倉時代の後期に編纂したものであり、比叡山の神道思想とそれに関わる大衆の活動を考えるうえで重要な史料とされる[2]。義源は、修行としての記録を重視した「記家(きけ)」と呼ばれる一派に属していたが、記家は、山王神道との関わりが深いとされてきた[2]

また、貞治5年(1366年)のころに成立したとされ、多種多様な神社の縁起を紹介している『神道雑々集(しんどうざつざつしゅう)』も、山王神道に関する記述が多い[3]。『神道雑々集』は、その以前、文和延文年間(1352年-1361年)に成立したとされる『神道集』の成立に刺激されて編纂されたとする指摘があり、『神道集』が山王神道に距離を置く檀那流の系統にある安居院流(あぐいりゅう)の者が編纂したのに対し、『神道雑々集』は山王神道に積極的とされた恵心流(記家)の者が編纂したとする説がある[3]

「山王神道」とは、広義には、比叡山における「山王」を中心とした神々への信仰を意味するが、狭義には、上述の『山家要略記』などの記家の文献にみられる神道思想を指すことが多く、山王神道の教説は記家が生み出したと説明されることさえある[2]

だが、山王神道を記家の神道説とすることには、異論もある[2]。記家は神道を重んじ、主な活動が山王神道の伝承であったことや、山王神道の発展に果たした役割が大きいことが指摘されているが、一方で、山王神道は必ずしも記家が独占していたわけではないともいわれる[2]

また、義源と戒家との関わりに着目し、戒家の教学形成に記家が与えた影響が大きいとして、戒家と山王神道との深い関係を唱える説もみられる[2]。なお、戒家とは、南都の戒律復興に刺激され、円戒の復興を目指した派である[2]。また、比叡山付近の大衆の活動が山王神道と深い関係があることも指摘されており、山王神道はそれら大衆の思想と活動の中に位置づけるべきだとの主張もみられる[2]

いずれにせよ、山王神道を語るうえで、記家の位置づけをどうみるかは、非常に大きな課題といえる[2]
歴史

最澄が入して天台教学を学んだ天台山国清寺では、霊王の王子晋が神格化された道教の地主山王元弼真君が鎮守神として祀られていた。唐から帰国した最澄は、天台山国清寺に倣って比叡山延暦寺地主神として日吉山王権現を祀った。音羽山の支峰である牛尾山は、古くは主穂(うしお)山と称し、家の主が神々に初穂を供える山として信仰され[4]、日枝山(比叡山)の山岳信仰の発祥となった。また、古事記には「大山咋神。亦の名を山末之大主神。此の神、近淡海国(近江国)の日枝山に座す。また葛野松尾に座す。」との記載があり、さらには三輪山神体とする大神神社から大己貴神和魂とされる大物主神が日枝山(比叡山)に勧請された。

山王神道の始まりは、貞応2年(1223年)成立の『耀天記』の「山王事」に記載がある本地垂迹説であるとされ、この段階では、山王神道の教理はまだ稚拙であったとされる[2]。なお、「山王事」の成立時期には諸説があるという[2]。その後、鎌倉時代の後期に入り、伊勢神道の刺激を受け、思想が発達し、組織化も進んでいく中で、義源が『山家要略記』を編纂し、教説を集成したとされる[2]

山王神道の教学形成において、『山家要略記』の編纂が大きな役割を果たしたとする見解は、ほぼ定説のようになっている[2]。だが、『山家要略記』以前に既に山王神道の教説はできあがっていたとする説も多い[2]

たとえば、戒家の文献にみられるように、義源の前に既に山王神道の教理はほぼ形成されており、記家の文献も豊富となっていたとする説もある[2]。また、慈円に密教思想がみられることから、山王神道の教理形成に慈円が大きな役割を果たしたとする指摘もある[2]。 このほか、中世に唱えられたとされる山王の受戒説の始まりが、正暦4年(993年)の比叡山分裂以前にみられるとする説もある[2]


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