屋内退避
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屋内退避(おくないたいひ)とは、災害有事のために身の危険が差し迫っている状況において、人が自己防衛のため建築物の内部に緊急避難する行為である。特別な訓練や装備品を必要とするものではなく、個人でも自己の立場と責任において実践できる民間防衛である。
概要

現代はマルチハザード社会とされており、屋内退避が行われるべき事例は多岐にわたる。代表的な例としては、風水害や噴火といった自然災害がある。屋内退避の実施にあたっては、避難する建物の屋根や外壁が人を守る遮蔽物となることから、地理的な立地条件や建物の堅牢さに応じて生残性を得ることができる[1]

自然災害の他にも、放射性降下物からの防護のため、政府や行政機関が屋内退避を呼びかけることがある[2]。ただし、気密性の高いコンクリート建築物への屋内退避をしなければ、放射線を遮蔽することはできない。また、ガムテープ等による窓の目張りや換気扇の停止等、退避する建物の気密性を高める努力をしなければならない。国際原子力機関(IAEA)では、原子力事故の際に緊急避難できない住民は、差し当たり屋内退避を実施するしかないが、長時間にわたり気密性の高い建物に避難していると、外部被ばくに対する安全の反面に酸欠の虞が生ずるとしており、屋内退避から2日後を目処として、比較的安全な地域へと移動する手段を講じるよう指針を出している[3]。実際には、福島第一原子力発電所の事故では被災者が10日以上も屋内退避を実践したところ、域外からの物流が停止し、食料や生活必需品の不足による被害が生じた。事故当時、国から屋内退避を指示された福島県南相馬市では、当時の桜井勝延市長の判断により、動画投稿サイト「ユーチューブ」に英語の字幕をつけた動画を掲載した。桜井市長は「退避指示の影響なのか、医薬品も油も何も入ってこなくなった。ボランティアも物資輸送も自己責任で入らざるを得ない。市民は兵糧攻めの状態だ。住民に家にこもっていろというのは見殺しに等しい。国が命を守るというのは空文句だ。[4]」と発言して屋内退避の問題点を訴え、「国からの情報は全部、テレビ頼み。国や県は責任を持って判断し、しっかりと情報を発信してほしい。[5]」との主張を行った。

屋内退避は、テロリズムゲリラコマンドのような特殊な刑事事件や、他国の軍隊による弾道ミサイル攻撃や航空戦が突発的に発生した場合にも、突発対策として有効である。根拠は、ムンバイ同時多発テロ江陵浸透事件の事例で明らかになったように、武装した侵略主体が逃走を続け、市街戦等の戦闘を継続している状況では、非武装である市民が不要不急の外出をすることは自殺行為になるからである[6]
心覚え
基本姿勢

屋内退避の際の主な注意点としては、銃撃戦の流れ弾、爆発の破片効果、飛散物や放射線を防ぐため可能な限り堅牢な建物や地下街等への避難に努め、公共放送を通じて情報収集をすること[7]。日本を離れて国外に居る場合は、外務省がインターネットや在外公館において掲出している情報を平素からタイムリーに取得して、安全な生活を送ることに努める。けがの応急処置防災に関することや、万一の際に家族が離れ離れになって行動する場合の方針(サバイバル)は、平素に家庭と職場において予め了知し、決定済みとしておくことが重要である。
デマに惑わされない

屋内退避中の情報収集は、事態の性格上、公共放送を活用することが望ましいが、避難中も、サイバーテロ電磁パルス等のインフラ事故がない限り、インターネットで新聞社や公共機関から配信されるニュースによる情報収集が可能である。ただし、インターネットの活用に際しては、ソーシャル・ネットワーキング・サービスで流布される出所不明の情報を、決してうのみにしてはならない。インターネットには、サイバー攻撃として意図的にデマが流布される危険性もある[8]
防護

屋内退避を要する状況下では、周囲の状況を注意深く見守り、火の元の管理と戸締りによる防犯を確実に実施すること。集客施設やインフラ系の事業者は、挙動不審者および不審物について特段の注意を要する。自身が屋内退避を実施している建物等が火災を起こした場合は、出火した火が延焼しないよう、自ら進んで行動し水や消火器による初期消火に努めること。初期消火の機会は、出火した炎が屋根や天井に燃え広がるまでの数分間しかない。また、壊れた建物や車に閉じ込められた人を自主的に救出する際に、重量物を持ち上げる必要がある場合は、バール等の工具を活用して救助するが、たいていの車が標準装備しているジャッキ(パンタグラフジャッキ等)も重宝する。

爆風・風水害により窓ガラスが割れて飛散することで発生する被害を抑制するため、窓ガラスのそばを離れるか、雨戸を占めて窓のない部屋に移動すること[7]、次に、ゆとりがあればガムテープやカーテン等を窓に貼り付けたり、家具や重量物を窓の前に積み上げることで窓を封印し、飛散物防御と気密性確保の措置をとることである。割れたガラスで負傷した場合、けがの程度は重大でも生命には別状無いのが一般的だが、それでも美容上、重大な後遺障害を受けるおそれがある[9]
衛生

屋内退避はいつまで続くかわからず、事態の様相によっては、電気、ガス、上下水道といったライフラインが途絶することも想定される。手元にある備蓄品や飲食物は、可能な限り清潔を保ち、大切にしなければならない。有事の際には、防護用の装備資機材その他の生活必需品への需要が急に高まり、新たに入手することは難しくなる。マルチハザード社会となった今日、本来であれば、家庭や企業では平素から防災非常袋等の備蓄品を用意しておくべきところだが、手元に何の用意もない状況下でも、落ち着いて屋内退避することで体力を温存し、気力の増進を図る[1]。もし、ライフラインが途絶した場合は、屋内退避中に出るゴミや汚物を保管する携帯トイレのような容器を準備し、これを使用する際には容器に合成洗剤や消毒液を混ぜるか、必ず蓋をして密閉することで、害虫や病原菌を寄せ付けないよう配慮する[10]。ガスがなければカセットコンロ等を活用して煮沸消毒を行い、衛生管理に努めること。

放射性物質及び生物化学兵器による攻撃を受けた地域では、防疫のため衛生管理に特別の配慮が必要であり、密閉保存もしくは加熱調理された飲食物を摂取すべきである[11]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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