この項目では、動物の構造について説明しています。彗星のコマ(大気)が伸びて長くなった部分(テール)については「尾 (彗星)」を、二十八宿の一つについては「尾宿」をご覧ください。
この項目では、動物の構造について記述しています。「尾」の語義については、ウィクショナリーの「尾
」の項目をご覧ください。尾(お)、別名尻尾(しっぽ)、尾っぽ(おっぽ)は、動物の後部(頭の反対側)である。英語ではtail。特にはっきりとしたしなやかな、体幹の後方部分のことをいう。生物学的なものと、一般的なものでは異なる場合が多々ある。
概説柴犬の尾
尾とは、動物一般において、体の後端付近が細長くなっているものを指す。基本的には脊椎動物のものをこう呼び、それ以外の動物ではそれに似て見えるものを類推的にこう呼ぶ。
脊椎動物のうち、四肢動物においては後肢の付け根に肛門が開き、いわゆる内臓はそれより前に収まる。従ってそれより後方は脊椎骨とそれを取り巻く筋肉からなり、それ以前の部分より遙かに単純である。形態的にもそれ以前の部分より細くなって区別できることが多いため、これを区別したものが尾部である。哺乳類と鳥類では仙骨及び尾骨及び周囲の筋肉と皮膚、場合により毛、羽毛または鱗に覆われている。尾は移動(魚類など)、バランス(ネコなど)、把握(サルなど)、社会的シグナル(イヌなど)に使われる。(ヒトやカエルなど)いくつかの動物は尾を完全に失っている。同種の他個体へ信号を送る際に尾は特に便利で、鹿は音に警戒すると他へそれを伝えるために尾を立てる。
この区分を魚類に当てはめると、魚類の肛門は尻びれの前にあるため、それより後ろの部分が尾部である。これは体全体に比べてかなり大きな部分を占め、一般の魚類でも体長の半分近く、ウナギなどでは7割ほどにもなる。しかし魚類ではこの部分は前の部分に比べてぐっと幅が狭くはなっておらず、連続した形を取るため、一般的にはこれを尾とは思われていない。世間一般では尾ひれをさして魚の尾と言うこともよくある。
それ以外の動物では、明確な尾がある例は多くない。節足動物は尾節という尾に該当する部位を持ち、特に鋏角類と甲殻類では顕著である。他にも尾と呼ばれる部位があり、昆虫類では腹部末端に突起物が出る例があり、それは産卵管や尾肢に由来するものなどであるが、これが往々にして尾と呼ばれる。 この尾の有無は、動物界における前口動物と後口動物の二大グループを区分する特徴である。前口動物は身体の後端に肛門が存在するが、後口動物の大半は肛門より後ろに身体の一部が突出する。これが脊椎動物における尾である[1]。後口動物のうち最初期に分化したウニなどは尾を持たないが、ナメクジウオなど頭索動物では背側の体節として脊索が形成され、その延長線上に遊泳器官として尾が発達している[2]。脊椎動物では、魚類にとっての尾は多量の筋肉を支持する部分であり、抵抗の多い水中における推進力の獲得に大きく役立った。 しかし、陸上生活を行う四肢動物ではこのことはあまり意味がない。運動は四肢の働きに大きく依存するようになったことから、前後肢の間は、そこに主要な内臓を囲い、肋骨、骨盤などの発達によってひとかたまりのしっかりした構造を発達させる。これは運動の重心ともなる。それより前の部分は口・感覚器・脳の集まった頭部を支え、それと胴部をつなぐ首として生命の維持に重要な部分となる。 それに対して、胴部より後ろの脊椎を抱える尾部は少なくとも生命に関わるような重要性を失った。むしろ長く重い尾は全身の運動性に対する負担となる。一部の動物では尾の退化が見られる(カエル・カメ・ヒトなど)。鳥類においては尾そのものはその進化のごく初期にごく短く退化し、そこに生える羽毛を尾の代わりに発達させた。また、ドーベルマンなどの犬種では幼い頃に尾を切り落としてしまうが、これもそのような尾の意味合いを示している。さらに、動物本体が自ら切り離す、いわゆる自切もトカゲなどで知られる。なお、昆虫の尾角や尾糸(下記参照)も刺激を受けると切れることがよくある。 従って、尾はそれ以外の役割を担うようになった。例えば全身の運動の補助、意思表示のための仕組み、獲物を捕獲することなどである。 哺乳類は、祖先の初期単弓類の進化の途上において、四肢の配置が身体の側面(側方型)から直下(直立型)へと移行した。運動は四肢を中心に行われるようになり、尾の寄与は少なくなった。それにともない、後半身を支える腰帯とその周囲の筋肉も変化している。中殿筋が発達し、身体の推進と体重の支持を同時に担う様になったかわりに、尾を付着部とし脚を後方へと引く後引筋
脊椎動物の尾
哺乳類
形態イヌの骨格
水中生活に入ったものでは、ひれ状になった例もある。
腹背に扁平になった例として、ビーバー、クジラなど。
左右に扁平になった例としてはマスクラットなど。
特に水中へと完全に適応したクジラ類やジュゴン目では腰帯が消失し、遊泳する際の推進力を尾が担う。こうした運動様式は祖先の魚類と同じであるが、魚類が尾を左右に打ち振るのに対し、クジラやジュゴンは哺乳類の地上での走行様式を反映した上下運動となる[4]またこれにともない筋肉に付着部を与える神経棘、血管棘も大きく発達している[5]。
大型の陸棲動物では尻尾は比較的小さくなっており、実用的な意味が少ない。有蹄類などの尾は大抵体に比べて遙かに小さい。 四肢の運動に対する尾の重要度は低下したが、様々な役割を演じさせる独特の尾を持つ例も多々ある。運動に寄与する例では、 樹上生活をするものでは、尾はバランスを取ったり、体を支えたりといった役割を担う例が多い。
役割
カンガルーの尾は重く長く、跳躍時には上半身の反動を抑えるバランサーとしての役割を果たし、また休息時には体を支える。闘争時には尾のみで体重を支え、四肢を使用し相手に攻撃を加える事もある[6][3]。
チーターなどの場合、直接の寄与ではないが、比較的太くて長い尾を走る際に振り回してバランスを取る。
リスの尾には、樹上でバランスを取る役割があり、さらに雨除けの役割もある[7]。また、毛が多く太い尾であり跳躍時に空気を抱える役割もある。
尾の先端が巻き付けられるようになっており、これで枝を掴めるものもある。クモザル、キノボリヤマアラシ
シマウマなどの尾の先端には毛が房のようについており、これを振り回すことで虫を追い払う役割がある[7]。
水中生活をするアメリカビーバーなどの尾には舵(かじ)の役割がある[7]。
さらに、感情を表し、個体間の情報伝達のために尻尾が使われる例も多い。
犬は、相手に好意や甘える時にしきりに尻尾を振る(怒りや恐怖、その他の表現は、イヌを参照)。
猫は、草むらで獲物を目がけての匍匐(ほふく)運動をしながらでも、立てた尻尾をフリフリと左右に振る(表の迷彩色と裏の色が違うことが多い)ことで「私の獲物である。手出しをするな」というメッセージを後方にいる(と思われる)仲間に送っているという説がある(シートン動物記)。
ワオキツネザルは尾を高く掲げることで仲間同士の目印にしている[7]。
アメリカビーバーは水面を尾でたたくことで仲間に敵の接近を知らせている[7]。
ヒトの場合ヒトを含む類人猿のシッポの骨格図
ヒトの胚は全体の1/6ほどの尾をもっていて、胎児へ成長するにつれて体に吸収される。外見上は全く尾がないのだが、骨格としてはそれに当たる部分は存在し、尾骨(尾?骨)と呼ばれる。
ヒトにおける尾の極端な退化は、直立姿勢を取り、草原で生活することからその利用がなくなったためとする説も存在するが、実際には類人猿はすべて外見上は尾を失っており[8]、樹上性のオランウータンやテナガザルにおいても同様である。
稀に、脊椎なしの血管と筋肉と神経だけの尾を持つ子供が生まれる。これをHUMAN TAILといい、概ねの意味として、腫瘍性病変を除く腰部から肛門縁に見られる突起物と定義されている[9]。