尾部銃手
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B-24の回転式尾部銃塔に搭乗する尾部銃手

尾部銃手(びぶじゅうしゅ、英語: Tail gunner)、または後部銃手(こうぶじゅうしゅ、英語: Rear gunner)は、機体後方からの攻撃に対し旋回機関銃旋回機関砲をもって防御を行う銃手の役目を担う軍用機の乗員。

尾部銃手は後方視界を妨げない機体背面の銃架や機体尾部の銃塔(尾部銃塔、英語: Tail Gun Turret)を操作する。通常、尾部銃手という用語は後部銃手席にいる乗員のことを指すが、機種によっては尾部に搭乗区画がなく、別の位置から銃塔を遠隔操作する場合もある。

イギリス空軍では尾部銃手のことを「ドン尻チャーリー(英語: Tail-end Charlies)」と俗称していた[注釈 1]が、その一方でライバルたるドイツ空軍でも「ヘックシュヴァイン(ドイツ語: Heckschwein:ドン尻の豚)」と、似たようなスラングで呼んでいた。
尾部銃手の役割

戦闘機が空中の航空機へ銃撃を仕掛ける場合、対向(ヘッドオン)や側方からでは、標的との相対速度が大きすぎて瞬時に射線外へ飛び去ってしまい、有効打を加えることが困難である。そのため敵機後方から追いすがり、相対速度を小さくして攻撃機会を得るのが襲撃の基本戦術となる。これが戦闘機同士なら相手の後方を取り合うドッグファイトになるが、機動性で劣る爆撃機などは容易に戦闘機に後方を取られてしまうため、尾部銃手が扱う後方への防御機銃が反撃の主軸を担った。

尾部銃手は後方寄りから襲撃をうかがう敵戦闘機の索敵の役割も大きく、特に夜間空襲時には重要であった。これらの爆撃機は密集編隊(英語版)を組まず個々に飛行したため、攻撃してくる夜間戦闘機に対する最初の対応としてバレルロールのような大胆な回避行動をとらねばならず、防御用の発砲は二の次であった。一方、戦闘機側も対空弾幕が厚く配置された方向からのアプローチは避け、一旦敵後方で下降して得た速度で再上昇をかけるズーム機動により死角となりやすい腹側から攻めるという手段も使った。TBFアベンジャーなど、これに対応して下部後方に向けた第2の銃座を設けた機種もある。

尾部銃塔には銃手席から後方への射界を持つ銃塔を操作する固定式と、180度旋回可能な動力式銃塔の内部に尾部銃手が乗り込む回転式があった。例えばB-17B-29といった第二次世界大戦中のアメリカ陸軍航空軍(USAAF)の重爆撃機は縦横方向へ約90度の射界を持つ固定式尾部銃塔を装備し、典型的な武装は、2丁のAN/M2重機関銃であった。一方、イギリス空軍アブロ ランカスターハンドレページ ハリファックスといった重爆撃機は回転式尾部銃塔を採用し、4丁のM1919機関銃を使用した。

単発レシプロ機のJu 87急降下爆撃機SBD ドーントレス艦上爆撃機といった小型機の場合は防御に割ける積載リソースに限りがあり、専用の銃塔ではなく操縦士席後方に設けた機銃1門を後方防御に充てていた。通常、これを操作する後部銃手は通信士航法士を兼任していた。

SBD ドーントレス(陸軍型A-24)の後部銃手席

尾部銃塔で戦闘機を撃墜することは困難であった。射撃の目的は戦闘機への牽制であり、装備する機銃も軽量で取り回しの速さや門数・装弾数を優先し、同時期の戦闘機より威力の劣る7.7 mmや12.7 mmといった小口径銃でよしとした機種も少なくない。第二次大戦後はレーダー連動の射撃管制装置を導入するなど性能向上が図られたものの、爆撃機に対する脅威が銃撃から空対空ミサイル地対空ミサイルに移行すると、尾部銃塔の射撃ではもはや命中も期待できず[注釈 2]、ミサイル相手では牽制効果も持ちえないことから、効力を喪失した防御機銃は縮減に向かった。
尾部銃手による最後の撃墜B-52D(同型機)の尾部銃塔

ベトナム戦争でB-52Dの尾部銃塔がMiG-21戦闘機を二度撃墜した事例が、尾部銃手の操作によって敵機を撃墜した最後の記録とされている[1]

1972年12月18日、ラインバッカーII作戦(英語版)に投入されたアメリカ空軍戦略航空軍団のB-52が北ベトナムに対して空爆を実施していた。


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