『尺には尺を』(しゃくにはしゃくを、Measure for Measure)は、ウィリアム・シェイクスピア作の戯曲。1603年か1604年に書かれたと信じられている。最初の出版は1623年の「ファースト・フォリオ」で、記録に残っているもので最古の上演は1604年である。『尺には尺を』で扱っているものは、慈悲、正義、真実の問題、プライドと屈辱の関係である。「罪によって出世する者があれば、善によって転落する者もある」(第2幕第1場)。
この芝居はもともと喜劇に分類されていたが、現在ではシェイクスピアの「問題劇」のひとつに分類されることもある。一応は喜劇として分類されることも多いが、設定や全体の調子は一般的な喜劇のそれと異なり、期待を裏切るようなところがあると評されている[1]。 ウィーンの公爵ヴィンセンシオは外交でウィーンを離れることにしたと言い、その代理を厳格なアンジェロに任せる。公爵の統治下ではウィーンは法に緩かったが、アンジェロは性道徳について厳しく取り締まることにする。 若い貴族クローディオは婚前交渉で恋人のジュリエットを妊娠させる。ジュリエットとは結婚するつもりだったが、アンジェロから死刑を宣告される。クローディオの友人ルーシオは修道院にいるクローディオの妹イザベラを訪ね、アンジェロに会って死刑の取り消しを懇願するように頼む。 イザベラはアンジェロに面会し、慈悲を求める。アンジェロはイザベラに恋をし、自分と寝るならばクローディオを助けてもよいと持ちかける。イザベラは拒否する。そして刑務所に行き、クローディオに潔く死ぬよう言う。クローディオは助かりたいので、イザベラにアンジェロと寝るように頼むが、イザベラは拒否する。 公爵は実はウィーンを出発しておらず、修道士に変装してアンジェロの動向を監視していた。イザベラから話を聞いて、公爵はアンジェロに罠をしかけることにする。ヴァレンタイン・キャメロン・プリンセプ(Valentine Cameron Prinsep)画『マリアナ』(1888年) その罠は「ベッド・トリック(Bed trick
登場人物フランシス・ウィリアム・トファム画『イザベラ』(1888年)
ヴィンセンシオ(VICENTIO)[2] - ウィーンの公爵。
アンジェロ(ANGELO) - 公爵が留守中の領主代理。
エスカラス(ESCALUS) - 老貴族。アンジェロとともに代理を務める。
クローディオ(CLAUDIO) - 若い紳士。
ルーシオ(LUCIO) - 風変わりな男。
紳士らしき2人(Two other like Gentlemen)
ヴァリアス(VARRIUS) -紳士。公爵の従者。
典獄(PROVOST)
トマス(THOMAS) - 修道士。
ピーター(PETER) - 修道士。
判事(A JUSTICE)
エルボー(ELBOW) - つまらない警吏。
フロス(FROTH) - ばかな紳士。
ポンピー(POMPEY) - オーヴァーダン夫人の使用人。
アブホーソン(ABHORSON) - 死刑執行人。
バーナーダイン(BARNARDINE) - ずぼらな囚人。
イザベラ(ISABELLA) - クローディオの妹。
マリアナ(MARIANA) - アンジェロの婚約者。
ジュリエット(JULIET) - クローディオの恋人。
フランシスカ(FRANCISCA) - 尼僧。
オーヴァーダン夫人(MISTRESS OVERDONE) - 売春宿の女将。
貴族たち、紳士たち、守衛たち、役人たち、従者たち
あらすじ
計画はうまく行ったが、アンジェロはイザベラの約束を破り、クローディオを処刑しようとする。公爵は病死した囚人の首をクローディオの首のように見せかけ、アンジェロに届けさせる。
公爵は変装を解き、ウィーンに「帰還」する。そこでイザベラとマリアナに真実を訴えさせるが、アンジェロは容疑を否定する。公爵は再び修道士に化け、改めて公爵であることを明かし、アンジェロも罪を認める。アンジェロをマリアナと結婚させた後、公爵はアンジェロに処刑を宣告する。「尺には尺を」というわけである。しかし、クローディオが生きて現れ、アンジェロは罪を許される。
最後に公爵はイザベラに結婚を申し込む。しかし、イザベラは何も答えない。このイザベラの反応は、一般的には無言の承諾と考えられているが、解釈が分かれるところである。
サブプロットにおいてはクローディオの友人ルーシオが活躍する。修道士が公爵とは知らずに公爵の悪口を言いまくる。その罪により、最後に公爵から売春婦ケート・キープダウン(Kate Keepdown)との結婚を命じられる。 この芝居にはふたつの主要な種本があると考えられている。チンティオ(ジョヴァンニ・バッティスタ・ジラルディ)の『ヘカトミーティ』(Hecatommithi、1565年初版)に入っている「エピティアの話」が原作のひとつである[3]。
材源