尺には尺を
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「ファースト・フォリオ」(1623年)から『尺には尺を』の表紙の複写.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}関連ポータルのリンク

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『尺には尺を』(しゃくにはしゃくを、Measure for Measure)は、ウィリアム・シェイクスピア作の戯曲1603年1604年に書かれたと信じられている。最初の出版は1623年の「ファースト・フォリオ」で、記録に残っているもので最古の上演は1604年である。『尺には尺を』で扱っているものは、慈悲、正義、真実の問題、プライドと屈辱の関係である。「罪によって出世する者があれば、善によって転落する者もある」(第2幕第1場)。

この芝居はもともと喜劇に分類されていたが、現在ではシェイクスピアの「問題劇」のひとつに分類されることもある。一応は喜劇として分類されることも多いが、設定や全体の調子は一般的な喜劇のそれと異なり、期待を裏切るようなところがあると評されている[1]
登場人物フランシス・ウィリアム・トファム画『イザベラ』(1888年)

ヴィンセンシオ(VICENTIO)[2] - ウィーンの公爵。

アンジェロ(ANGELO) - 公爵が留守中の領主代理。

エスカラス(ESCALUS) - 老貴族。アンジェロとともに代理を務める。

クローディオ(CLAUDIO) - 若い紳士。

ルーシオ(LUCIO) - 風変わりな男。

紳士らしき2人(Two other like Gentlemen)

ヴァリアス(VARRIUS) -紳士。公爵の従者。

典獄(PROVOST)

トマス(THOMAS) - 修道士。

ピーター(PETER) - 修道士。

判事(A JUSTICE)

エルボー(ELBOW) - つまらない警吏。

フロス(FROTH) - ばかな紳士。

ポンピー(POMPEY) - オーヴァーダン夫人の使用人。

アブホーソン(ABHORSON) - 死刑執行人。

バーナーダイン(BARNARDINE) - ずぼらな囚人。

イザベラ(ISABELLA) - クローディオの妹。

マリアナ(MARIANA) - アンジェロの婚約者。

ジュリエット(JULIET) - クローディオの恋人。

フランシスカ(FRANCISCA) - 尼僧。

オーヴァーダン夫人(MISTRESS OVERDONE) - 売春宿の女将。

貴族たち、紳士たち、守衛たち、役人たち、従者たち

あらすじ

ウィーンの公爵ヴィンセンシオは外交でウィーンを離れることにしたと言い、その代理を厳格なアンジェロに任せる。公爵の統治下ではウィーンは法に緩かったが、アンジェロは性道徳について厳しく取り締まることにする。

若い貴族クローディオは婚前交渉で恋人のジュリエットを妊娠させる。ジュリエットとは結婚するつもりだったが、アンジェロから死刑を宣告される。クローディオの友人ルーシオは修道院にいるクローディオの妹イザベラを訪ね、アンジェロに会って死刑の取り消しを懇願するように頼む。

イザベラはアンジェロに面会し、慈悲を求める。アンジェロはイザベラに恋をし、自分と寝るならばクローディオを助けてもよいと持ちかける。イザベラは拒否する。そして刑務所に行き、クローディオに潔く死ぬよう言う。クローディオは助かりたいので、イザベラにアンジェロと寝るように頼むが、イザベラは拒否する。

公爵は実はウィーンを出発しておらず、修道士に変装してアンジェロの動向を監視していた。イザベラから話を聞いて、公爵はアンジェロに罠をしかけることにする。ヴァレンタイン・キャメロン・プリンセプ(Valentine Cameron Prinsep)画『マリアナ』(1888年)

その罠は「ベッド・トリック(Bed trick)」である。アンジェロにはかつてマリアナという婚約者がいた。マリアナの持参金が海の藻屑と消えた時、アンジェロは婚約を一方的に破棄したが、マリアナはまだアンジェロを愛していた。そこでイザベラがアンジェロの誘いに乗り、マリアナとベッドで入れ替わらせた。

計画はうまく行ったが、アンジェロはイザベラの約束を破り、クローディオを処刑しようとする。公爵は病死した囚人の首をクローディオの首のように見せかけ、アンジェロに届けさせる。

公爵は変装を解き、ウィーンに「帰還」する。そこでイザベラとマリアナに真実を訴えさせるが、アンジェロは容疑を否定する。公爵は再び修道士に化け、改めて公爵であることを明かし、アンジェロも罪を認める。アンジェロをマリアナと結婚させた後、公爵はアンジェロに処刑を宣告する。「尺には尺を」というわけである。しかし、クローディオが生きて現れ、アンジェロは罪を許される。

最後に公爵はイザベラに結婚を申し込む。しかし、イザベラは何も答えない。このイザベラの反応は、一般的には無言の承諾と考えられているが、解釈が分かれるところである。

サブプロットにおいてはクローディオの友人ルーシオが活躍する。修道士が公爵とは知らずに公爵の悪口を言いまくる。その罪により、最後に公爵から売春婦ケート・キープダウン(Kate Keepdown)との結婚を命じられる。
材源

この芝居にはふたつの主要な種本があると考えられている。チンティオ(ジョヴァンニ・バッティスタ・ジラルディ)の『ヘカトミーティ』(Hecatommithi、1565年初版)に入っている「エピティアの話」が原作のひとつである[3]。シェイクスピアは『オセロー』でもこれを種本として使用しており、『ヘカトミーティ』には親しんでいたと考えられる。チンティオは同じ物語に基づいて少々変更を加えた戯曲版も刊行しており、これをシェクスピアが参照できたかどうかは定かではない。この原作の物語は容赦ない悲劇であり、イザベラにあたる人物はアンジェロにあたる人物と性交渉を強要された結果、兄まで殺されてしまう。

もうひとつの材源はジョージ・ウェットストン(George Whetstone)の1578年の2部構成の非常に長いクローゼット・ドラマ『Promos and Cassandra(プロモスとカサンドラ)』である。ウェットストンはチンティオからストーリーを採っているが、喜劇的な要素とベッドトリックを加えている[3]:20。

題名は、劇中の台詞にも出てくるが(第5幕第1場)、新約聖書の『マタイによる福音書』7-2への言及と思われる。「あなたが人を裁く同じ方法であなたは裁かれ、あなたが使う尺(measure)であなたは計られる(be measured)だろう」。
創作年代とテキスト

『尺には尺を』は、1603年か1604年に書かれたと思われている。最初の出版は1623年の「ファースト・フォリオ」だった。

ゲイリー・テイラー(Gary Taylor)とジョン・ジョウエットは共著書Shakespeare Reshaped, 1606-1623の中で、現存している『尺には尺を』のテキストはオリジナルではなく、シェイクスピアの死後、トマス・ミドルトンが改訂したもので、オリジナルはイタリアが舞台だったのをミドルトンがウィーンに変更した、と主張している[4]。しかしながらデイヴィッド・ビーヴィントン(David Bevington)など、これに異議をとなえる学者もいる[5]

公爵の冒頭の台詞(ほとんどの版では8-9行目にあたる)のごちゃごちゃとした文章は、おそらくは印刷屋の間違いで一行ほど失われたためではないかと広く考えられている。ファースト・フォリオ以外に本文がないため、この失われた箇所を回復できる可能性はない[5]
上演史ウィリアム・ホルマン・ハント画『クローディオとイザベラ』(1850年)

記録に残っている『尺には尺を』の最古の上演は1604年12月26日の「聖ステファノの日の夜」である。

王政復古期、『尺には尺を』は新しい観客の嗜好に合ったシェイクスピア劇のひとつだった。ウィリアム・ダヴェナント(William Davenant)が『尺には尺を』を翻案した『The Law Against Lovers(恋人に厳しき掟)』には、『空騒ぎ』のベネディックとベアトリスのエピソードが挿入されていた。サミュエル・ピープス1662年2月18日にこの劇を見て、日記に「良い劇、それに良い演技」と書いている。ピープスはとくにベアトリスの姉妹ヴィオラ(ダヴェナントの創作)を演じる若い女優の歌と踊りに感銘を受けたのだった。ダヴェナントは現状イザベラの純潔を試すだけのアンジェロを復権させ、三つの結婚で劇を締めくくった。王政復古期の脚色の初期のものの中でも、この劇はあまり成功しなかったようである。

チャールズ・ギルドン(Charles Gildon)が1699年にリンカンズ・イン・フィールド(Lincoln's Inn Fields)で上演した『Beauty the Best Advocate(美貌こそ最良の弁士)』では下品で滑稽な登場人物たちが取り除かれ、アンジェロとマリアナ、クローディオとジュリエットはこっそり結婚していたという設定にして、シェイクスピアの劇の核であった「不義の性」をほぼ全部排除し、ヘンリー・パーセルオペラディドとエネアス(Dido and Aneas)』(1689年)のシーンを、アンジェロが劇を通して時折見ているものとして、劇と一体化させた。しかもギルドンはシェイクスピアの幽霊をエピローグに登場させ、いつも作品が改訂されることへの不満を言わせた。ダヴェナントの改訂版同様に、ギルドンの改訂版も一般に普及せず、リバイバルもされなかった。

1720年には、ジョン・リッチがシェイクスピアのオリジナルに近い版を上演した[6]

ヴィクトリア朝後期、『尺には尺を』のテーマが議論を呼んだと考えられている。実際、1870年代にアデレード・ニールソン(Adelaide Neilson)がイザベラを演じた時には抗議の声があがった[7]


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