小中一貫教育
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小中一貫教育(しょうちゅういっかんきょういく)とは、初等教育(一般の小学校で行われている教育)と前期中等教育(一般の中学校で行われている教育)の課程を調整し、一貫性を持たせた体系的な学校制度のことである。また、これを行っている学校を小中一貫校(しょうちゅういっかんこう)という。
概要

児童・生徒数の少ない過疎地などの学校では学級数も少なく、嘗てから小学校及び中学校で校舎、体育館、敷地等を共用する小中併設校(小中併置校)が存在し、行事なども小・中学校合同で実施したり、校長も兼任する場合もみられた。

近年では学校の規模にかかわらず、より積極的に初等教育と中等教育の連携を試みようとする小中連携や小中一貫教育が行われている地域もある。

小中一貫教育は明治時代以降から続く長年の教育制度や慣習(目的・目標の異なる初等教育と中等教育のあり方)の変更をも伴う。児童・生徒の数が多く多様な価値観をもつ都市部などでは、施設の形態、学級数、運営方法等の課題も多くなる。また、小中一貫教育に積極的ではない地域との整合性や、中高一貫教育など他の学校種との接続、連携といった課題もある(詳細は下記参照)。
日本の小中一貫教育

カリキュラムや学校運営については設置者によって柔軟に運用することができるため一概には記述できないものの、先行の小中一貫校の主な先行例を挙げると次の通りである。

小学校段階からの
定期考査(中間試験、期末試験。いわゆる定期的テストの実施)

授業時間の小中統一(20分休みや業間休みなし)

小学校段階からの教科担任制

児童会と生徒会の一体化(「児童生徒会」と呼ぶ場合もある)

学校行事の小中一体化(小学生と中学生が入学式卒業式運動会などを一緒に行う)

小学生と中学生の校則の統一化(小学生段階からランドセル登校が禁止、頭髪指導、小学生が中学生と統一感のある制服着用を義務化している小中一貫校もある(学校指定のブレザー半ズボンなど))

小中一貫の部活動(小学生段階から部活動の実施)

など、従来であれば中学校段階の教育の特徴とされてきた慣習的制度(定期考査、校則、部活動等)が小学校段階に早期化されている場合が多く、小学校を中学校化することによって小中学校間の境(いわゆる「中一ギャップ」)を解消しようというのが教育上の建前である。
施設の形態

施設の形態としては、小学校と中学校を同じ校舎にした「施設一体型」、校舎が隣接する「施設隣接型」、校舎が別の場所にある「施設分離型」、また、9年間の課程を一体化させた新たな学校種である「義務教育学校[1] がある。

現行の小学校と中学校を施設一体型で小中一貫校化した場合、学校の統廃合が伴う。そのため現行の小中学校の小中一貫校化については、「学校統廃合及びそれに伴う教育予算の削減」ではないか、との指摘もある[2]

また、複数の小学校および中学校を統廃合するのに伴い小学生?中学生に合わせた施設の新築、増改築を行う場合も多く、建設コストがかかる。都市部では、現行の小学校にあるような校庭の遊具施設を設置できない(しにくい)場合もある。さらに、従来よりも学区が広域化することで通学距離が長くなったり、従来の地域コミュニティーから遠方になる場合等のデメリットもある。
小中一貫教育の施設形態と特徴

施設一体型

同一の校舎内に小学校および中学校の全学年(9学年)があり、組織・運営ともに一体的に小中一貫教育を行う

学校施設は、新規に施設を建設し、または既存の施設を改築する必要がある

組織運営は、小中学校の教育職員が一体となって教育活動を実施

施設の統廃合を伴う場合が多い


施設隣接型

隣接する小学校及び中学校で、教育課程および教育目標に一貫性をもたせる

学校行事を小学校および中学校で合同実施

一体感のある教育活動を実施

施設の統廃合がない


施設分離型

離れた場所にある小学校及び中学校で、教育課程および教育目標に一貫性をもたせる

小中学校で互いに連携を図りながら教育活動を実施

施設の統廃合がない


義務教育学校

初等教育6年と中等教育3年の計9年間の課程を一体化させた学校種。2016年4月に制度化。

校長は1人。9学年の校務を1人の校長がつかさどる。

義務教育学校の標準学級数は1校あたり18?27学級(
学校教育法施行規則

施設の統廃合を伴う

義務教育学校の設置は学校関係者・保護者・地域住民の理解と協力を得ながら進める[3]

日本の小中一貫校」も参照
学年の区切り

「6・3制」のほかにも、「4・3・2制」、「5・4制」など、地域の実情に合わせて設置者が区切ることもできる。

義務教育学校では、小学校および中学校の学習指導要領を準用するため、現行の6年制の小学校と3年制の中学校に合わせて前期課程(小学校段階)と後期課程(中学校段階)になっている。前期課程を小学部、後期課程を中学部と称する場合もある。

6年制の小学校制度は1907年(明治40年)の小学校令改正による尋常小学校から100年以上の歴史があり、世代を超えて定着しており、また、国際的にも初等教育(小学校に属する教育)と中等教育(中学校・高等学校に属する教育)とは別にした教育制度が主流となっている[4] 。学年の区切りをいかにするべきかは議論も多く、6-3-3制、6-6制が主流の現行の教育制度の中において、公立の一部の学校が異なる学年区分を適用することには異論もある[5]
入学者選抜

公立の場合、施設の形態にかかわらず入学者選抜は行わない。これは公立の義務教育の中において「エリート校」化することを懸念する意見があるためである[6]。しかし、入学者選抜を行わない場合、柔軟なカリキュラム編成を生かした「早期カリキュラム」のような独自の一貫教育が可能なのか、疑問も指摘されている[注 1]。横並び意識の強い日本の教育風土においては様々な課題もある。
小中一貫教育の議論(メリット・デメリット等)

小中一貫校(義務教育学校)の制度に関しては、これまで、中央教育審議会国会、地方議会、教育委員会、教育学者、教育評論家等の間で様々な議論が行われている。初めての制度の導入に伴うメリット、デメリットがあり、制度そのものについて推進意見、慎重意見もある[7]
メリット

小学校と中学校の連携・接続による所謂「
中1ギャップ」の解消[注 2]

施設一体型の場合はコストダウンがはかれる(ただし、文部科学大臣は教育予算削減が制度の目的であることを否定的に答弁[2]

デメリット

人間関係が固定化しやすくなってしまう
[5]

行事活動等で小学生(特に5、6年生)のリーダーシップ性を育てる機会が減少する[8]

小学校の卒業式、中学校の入学式が無い場合、進級、進学の意識やけじめが付きにくく、中学校の入学への新鮮さが弱まる恐れがある。

9年間の途中で学習に挫折をする可能性(カリキュラムを早期化する場合)[9]

教職員教育免許は小学校の教員免許状および中学校の教員免許状を有する者でなければならないが[10]、両者の養成課程は独立している場合も多く、両方の免許を取得していない教員も少なくない。

小学校段階から教科担任制を導入すると、学級担任制のメリット[11] がなくなってしまう。

職員の会議が多くなり、職員の負担が増加する[12]

単元や授業の区切りごとに行ってきた小学校段階の試験が、定期考査での評価に移行することで小学生へのストレスが生じてしまう。

中高一貫教育(中等教育学校制度等)との整合性がない。一つの自治体や地域の中に小学校、中学校、中等教育学校(中高一貫校)、義務教育学校が併存することになる[5]。義務教育学校前期課程から中学校または中等教育学校への進学は原則として妨げはないものの、一貫教育の途中で転校や進学をすることは、9年間の小中一貫教育を目的として教育方針を打ち出している本来の小中一貫校の教育趣旨とは異なる。また、中高一貫校への進学率が高い地域などでは、一貫教育の途中で他校への進学や転校を無条件に認めていると小学部と中学部の間に質や数の差が生じ、小中一貫の本来の教育趣旨を自ら否定することにもなりかねず、現在主流の6-3-3制や6-6制の教育制度の中において9年制の小中一貫校の存在意義も曖昧になりかねない[注 3]

一貫教育の目的として教育課程の連携やギャップの解消を標榜しているにもかかわらず、公立の小中一貫校の場合、高等学校には接続されておらず、高校受験や進学手続き等は現行の公立中学校の制度と変わらない。なお、私立では12年一貫教育が行われているものの6-3-3制の学年区分に合わせた小・中・高の各組織に校長を置き、それぞれ入学者選抜(選考)、入学、卒業を行っている場合がほとんどである。


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