寒い国から帰ってきたスパイ
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寒い国から帰ってきたスパイ
The Spy Who Came in from the Cold
S-Fマガジン』1964年11月号に掲載された広告
著者ジョン・ル・カレ
発行日 1963年9月12日[1]
1964年9月25日
発行元 Victor Gollancz & Pan
早川書房
ジャンルスパイ小説

言語英語
形態文学作品
ページ数256ページ(ハードカバー)
240ページ(ペーパーバック)
334ページ(ハヤカワ文庫)
前作高貴なる殺人
次作鏡の国の戦争
コードISBN 0-575-00149-6(ハードカバー)
ISBN 0-330-20107-7(ペーパーバック)
ISBN 978-4-15-040174-0ハヤカワ文庫

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『寒い国から帰ってきたスパイ』(さむいくにからかえってきたスパイ、The Spy Who Came in from the Cold)は、1963年に出版されたジョン・ル・カレによるスパイ小説冷戦を舞台として東側諸国と水面下で争う西側諸国諜報活動民主主義と矛盾する現実を描いた。

小説は世界的なベストセラーとなり高い評価を受けた。1964年9月25日、早川書房より宇野利泰の翻訳で刊行された。

1965年にはマーティン・リット監督により『寒い国から帰ったスパイ』として映画化されている。
あらすじ

イギリス秘密情報部(ケンブリッジ・サーカス)のベルリン代表部員アレック・リーマスは、東ベルリンとの間にある検問所で協力者のカルル・リーメックが現れるのを待っていた。東ドイツ政府高官であるリーメックは、これまでサーカスのために働いてきたが、協力者が大量に逮捕される事態となったので、ついに亡命することになっていたのだ。しかし検問所を無事に通過したと思われた瞬間、東側の人民警察が発砲しリーメックは射殺される。リーマスは、元ナチスで冷酷な東ドイツ諜報部副長官のムントのしわざだと確信する。

ベルリンでの諜報網が壊滅したために、リーマスはイギリスに呼び戻され、秘密情報部の長官である管理官により経理部へ左遷される。しかし地味な仕事が苦手のリーマスはやがて酒に溺れ、横領の容疑をかけられ、ついに解雇されてしまう。その後も様々な仕事をするがどれもうまくいかず、ようようある図書館の整理係に雇われる。リーマスはここでイギリス共産党員の司書リズ・ゴールドと恋人となるが、ある日、ツケを断られたことからある食料品店の店員を殴ってしまい、監獄へと入れられてしまう。

出所したリーマスはベルリン時代の知人と名乗る男と出会い、ある仕事の口を提供される。この男は東ドイツ諜報機関のスパイで、リーマスに情報の提供を依頼してきたのだ。しかし実は、リーマスがおちぶれたのは管理官が元諜報部員のジョージ・スマイリーらと共に立案した作戦だった。リーマスが不当な扱いを受け解雇されたと装って東側の二重スパイとなり、虚偽の情報を流してムントを失脚させる計画だったのだ。リーマスはベルリンの諜報網をつぶされた恨みからもムントを憎んでいたので、この危険な任務を承諾していた。

リーマスは東ドイツのスパイ、ピーターズによってオランダへつれていかれ、大金と引き換えにイギリス情報部の情報を提供する。尋問の最中にリーマスは、東ドイツ諜報部内にイギリスの二重スパイが潜んでいることをそれとなく暗示する。その頃イギリスではスマイリーがリズを訪問し、リーマスへの援助を申し出ていた。

サーカスにより機密保護法違反で指名手配されたリーマスは東ドイツへと渡る。東ドイツ諜報部の防諜局長であるフィードラーが自らリーマスを尋問する。フィードラーは、東側の情報活動は平和と社会的進歩のための闘争としての共産主義運動の前衛であり、その目的のためには個人の犠牲は正当化されると主張し、それに対してキリスト教と民主主義思想に基づく西側諸国はどう折り合いをつけているのかなどとリーマスに尋ねる。理想主義的な共産党員であるフィードラーは、それまでムントの元で働くことに満足していたが、ムントが二重スパイではないかと疑うようになってからは、フィードラー自身ユダヤ人であることもあって、元ナチスのムントとは対立するようになっていた。管理官の作戦では、このフィードラーを用いてムントを失脚させる予定となっていた。

フィードラーの疑いを知ったムントは、フィードラーとリーマスを逮捕し、粛清を企てる。しかしフィードラーは既に東ドイツ政府最高会議にムントを告発しており、最高会議はフィードラーを釈放して逆にムントを拘束する。ムントはリーマスの証言に基づき二重スパイの容疑で査問会にかけられる。

査問会においてリーマスは、イギリス情報部からムントへの報酬を振り込んだ北欧の複数の銀行の口座情報を明らかにする。口座への入金時期とムントがコペンハーゲンとヘルシンキを訪問した期間が一致したことで、ムントは追い詰められたかのように見えた。

ここでムントの弁護人は、交換党員プログラムにより東ドイツに招き入れていたリズを証人として召喚する。状況を理解しきれていないリズだが、リーマス助けたさの一心から、自分とリーマスが殴った店員に対して何者かから金が渡されたこと、その殴打事件があった前の晩にリーマスから別れを告げられていたことなどを喋ってしまう。そしてサーカス管理官によるムント失脚の陰謀が暴露されると、リーマスはリズ助けたさのためにこれを認め、リズやフィードラーは陰謀に関与していないことを訴える。しかしムントの放免とフィードラーの拘束が決まった瞬間、リーマスは真相を悟ったのだった。

査問会が終わってリズは監獄に拘束されるが、すぐにムント自身の案内により釈放される。外には、リーマスが車で待っていた。ベルリンへと向かう車の中で、リーマスはリズに対して真相を伝える。ムントはやはりイギリスの二重スパイだったのであり、今回のサーカスの作戦の目的はそのことでムントを疑っていたフィードラーを排除し、ムントを助けることにあったのだった。管理官たちはリーマスに真の目的を伝えておらず、またリズのいる図書館でリーマスが働くようになったのも周到に用意された計画の一部であった。

リズは自分と同じユダヤ人であることもあって、敵側であっても紳士的であったフィードラーを死刑台に送り、冷酷なムントを助ける作戦の正義のなさを糾弾する。リーマスはこれが世界の現実の姿なのだと答えるが、やりきれない思いを抱いているのは同じであった。

二人はベルリンに到着し、ムントの部下の手引にしたがってベルリンの壁を越えて西ベルリンへと逃亡しようとする。しかし、リーマスが昇った壁の上からリズを引っ張り上げようとしたその瞬間、探照灯が一斉に灯り、警備員によってリズは射殺される。


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