富嶽
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「富嶽」のその他の用法については「富嶽 (曖昧さ回避)」をご覧ください。

富嶽(ふがく)は、太平洋戦争中に日本軍が計画した、アメリカ本土爆撃を目的にした超大型戦略爆撃機である。名は富士山の別名にちなむ。その壮大な計画と飛行性能から、局地戦闘機『震電』とともにゲーム架空戦記に頻繁に登場する機体となっている。
富嶽による米本土爆撃計画

1942年昭和17年)、アメリカ軍による初の日本本土空襲ドーリットル空襲)と、日本軍による初のアメリカ本土空襲が行われた。この年、中島飛行機の創始者である中島知久平が立案した『必勝防空計画』に書かれていた、アメリカ合衆国本土を空襲した後にそのままヨーロッパまで飛行し、同盟国であったナチス・ドイツまたはその占領地着陸することが可能な大型長距離戦略爆撃機「Z飛行機」構想が、のちの富嶽である。同年8月15日、大本営陸軍部は「世界戦争完遂ノ為ノ決戦兵器ノ考案」を陸軍省に要望した[1]。その中に「超遠距離飛行機」「特殊気球(フ号装置)ノ能力増大」という項目があった[1]

アメリカ本土爆撃を視野に入れ、日本を飛び立ち太平洋を横断してアメリカ本土を爆撃、そのまま大西洋を横断してドイツに寄り補給を受け、再び逆のコースでアメリカを再攻撃しながら戻ってくるか、またはソ連を爆撃しつつ世界を一周すると言う壮大な計画であった。全長45 m(米軍が太平洋戦争で実戦投入した4発戦略爆撃機ボーイングB-29の1.5倍)、全幅65 m(B-29の1.5倍)、爆弾搭載量20トン(B-29の2.2倍)、航続距離は19,400 km(B-29の3倍)、6発エンジンを目指した。

中島飛行機が設計にかかわる。1943年(昭和18年)5月31日、中島は軍令部官邸での夕食会で本機(富嶽)の構想を説明する[2]。昭和20年にはB-29大型爆撃機が大量配備され「要スルニ現状デハ日本ノ軍需工場ハ全滅シテ戦力ヲ失フノハ明カデアルカラ、大型機ヲ急速ニ設計、生産ニ着手セネバナラヌ」と指摘し、B-29に対抗するには「其ノ飛行場ヲ使用不能ニスル事ガ考エラレル」と述べた[3]。中島は、東條英機首相をはじめ、陸海軍大臣や関係者にも構想を訴えていたという[4]

このあと海軍共同の計画委員会によって計画が承認され、これに軍需省も加わった体制で開発が進められた。しかし陸海軍の要求性能が大幅に異なったため調整に苦労を強いられ、かつ軍需省は途中で独自に川西航空機に設計案を作らせ、しかも陸海軍や他社はおろか中島飛行機内部にさえ根強い反対論があるなど、開発体制には多くの問題があった。第一次案では、下記の仕様のごとくハ54×6基であったが、空冷四重星型という新形式の開発に手間取り[注釈 1]、応急案としてハ44(空冷二重星型18気筒、2,450馬力/2,800 rpm)やハ50(空冷二重星型22気筒、3,100馬力/2,400 rpm)6基装備で暫定的に計画を進めた。この影響で爆弾搭載量も20 tから15 tに減らされた。

当時の日本はおろか戦後すぐのアメリカにおいてすらも、その技術力・工業力では手にあまると思える空前のスケールの機体(1946年に初飛行したアメリカ製の超大型爆撃機B-36ピースメーカー推力不足に悩まされ、当時としては最新鋭の装備であったジェットエンジンをやむなく追加した)であったため、実現までに解決せねばならない諸問題が山積し、与圧キャビンの研究、新式降着装置の開発も行われた。

1943年(昭和18年)より中島飛行機三鷹研究所構内に組み立て工場の建設が開始された。しかし1944年(昭和19年)4月28日、日本軍は陸海軍当事者、軍需省、関係製作会社を集めて超重爆撃機「富嶽」の研究を続行するかを検討した[1]。富嶽を予定どおり生産した場合、日本陸軍の四式戦闘機(疾風)の943機減産、海軍の陸上爆撃機銀河235機の減産を招く見通しとなった[1]。資材、工作機械、技術研究の観点から、富嶽の研究は「遺憾ながら中止せざるを得ない」との結論に至った[1]。日本軍は同年6月下旬のマリアナ沖海戦に敗北[5]絶対国防圏の東の鎖ともいうべきサイパンも7月6日に陥落[6]、最大の支援者であった東條首相は周囲からの排斥によって7月18日に辞職した[7]本土防空戦のための戦闘機開発優先・開発機種削減方針により、「この戦争に間に合わない」と判断された富嶽開発は中止となった。


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