宿舎
[Wikipedia|▼Menu]

寄宿舎(きしゅくしゃ)は、企業や学校などが設置する、労働者または学生・生徒・児童などが共同生活をするための施設である[1]
目的
企業における寄宿舎

企業における寄宿舎は、労働者の居住のために設けられる。

例えば、スイスの初期の紡績企業であるハルト会社(1802年設立)は紡績工場に隣接して農場や教会、寄宿舎、学校を設置している[2]
学校などにおける寄宿舎

学校における寄宿舎は、学校との通学距離が長い、交通が不便という地理的な理由の他に、重度または重複障害を持っている場合などで、毎日の通学が困難な場合に生徒・児童のために学校に附属して設置されることがある。

また、欧米を中心にボーディングスクール(寄宿学校)と呼ばれる学校がある。

産業革命初期の企業では多数の児童を雇用していたため、先述のスイスの紡績企業であるハルト会社でも紡績工場に隣接して寄宿舎を設け、学校と教会を併設し、教師として専属の牧師を置いていた[2]
同化政策を進めるための寄宿舎

インディアン寄宿学校

カナダの先住民寄宿学校

アボリジニの寄宿学校

日本の法制度上の寄宿舎
労働法規における寄宿舎

かつて紡績工場、製糸工場に女工寄宿舎が付属していた。これは女工の福利厚生のためではなく、女工には前借りがあるから逃亡しないようにしたということと、早朝から就業させたということからであった。過酷な待遇が、女工哀史などで問題となり、また風紀上芳しからざることもあり、政府は、1927年(昭和2年)4月6日、内務省令第26号工場附属寄宿舎規則を発布した[3]が、これには罰則がなかったため、実効は乏しかった。一方、同年6月には、東洋モスリン女工労働争議を通じて、外出する自由を初めて会社側に認めさせる事例も見られている[4]

こうした歴史を受け、1947年(昭和22年)施行の労働基準法では、使用者労働者に提供するその事業に附属する寄宿舎については、その第10章(第94条?第96条の3)及び事業附属寄宿舎規程(昭和22年労働省令第7号)・建設業附属寄宿舎規程(昭和42年労働省令第27号)によって規制している[5]

ILO115号勧告(1961年の労働者住宅勧告)では、やむを得ない事情のある場合を除き、使用者がその労働者に直接住宅を提供するのでなく、公の機関が提供することが望ましいとしている[6]
寄宿舎生活の自治

第94条(寄宿舎生活の自治
使用者は、事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。

使用者は、寮長、室長その他寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任に干渉してはならない。

寄宿舎生活は労働関係とは別個の私生活であり、これに使用者が干渉することは私生活の自由を侵すものであって、本条の運用にあたってはこの趣旨によらなければならない(昭和22年9月13日発基17号)。「寄宿舎」とは、常態として相当人数の労働者が宿泊し、共同生活の実態を備えるものをいう。「事業に附属する」とは、事業経営の必要上その一部として設けられているような事業との関連をもつことをいう。この二つの条件を充たすものが、事業附属寄宿舎として労働基準法第10章の適用を受ける(昭和23年3月30日基発508号)。社宅・住込・福利厚生施設として設けられているアパート式寄宿舎は、「事業附属寄宿舎」に含まれない。

「事業附属性」については、「宿泊している労働者について、労務管理上共同生活が要請されているか否か」「事業場内又はその付近にあるか否か」といった基準から総合的に判断される。事業との関連が強い場合には寄宿舎として認めようとする趣旨と考えられる(判例として、日之出屋商店事件、札幌高判昭和34年10月13日)。もっとも学説の多くは、事業との関連がわずかでもあれば「事業附属性」が肯定されるとする[7]

1項の規定を受けて、事業附属寄宿舎規程第4条が具体的に定める。これらは、寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵す行為の例示であり、労働者の私生活の自由を侵す行為がこの3つにとどまるものでないことは勿論である(昭和30年2月25日基発104号)[8]。建設業附属寄宿舎規程第5条にも同趣旨の規定がある。1項違反に対する罰則は設けられていないが、同項違反は公序良俗違反として無効になると考えられる。

事業附属寄宿舎規程第4条使用者は、次の各号に掲げる行為等寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵す行為をしてはならない。
外出又は外泊について使用者の承認を受けさせること。

教育、娯楽その他の行事に参加を強制すること。

共同の利益を害する場所及び時間を除き、面会の自由を制限すること。

2項の「役員の選任に干渉してはならない」とは、役員の選任に関する一切の事項に干渉してはならない趣旨である(昭和23年5月1日基収1317号)。したがって、自治組織体の役員の構成、員数、選出方法等に関して使用者が案を作成して寄宿労働者の自由な承認を求めることや、これにより決定した事項を寄宿舎規則に記載することは、違法となる。寄宿舎内における共同生活の秩序維持は、当該寄宿舎に居住する労働者の自治自律に任せるべきものである(旭化成事件、宮崎地延岡支判昭和38年4月10日)。

寄宿舎の管理人寮母を置いても私生活の自治を侵さない限り本条に抵触しない(昭和22年9月13日発基17号)。なお寄宿舎に寄宿する労働者に関する事項について、使用者のために事務を処理する者(舎監、世話係等名称は問わない)は、たとえ寄宿舎に入舎していても本条でいう自治の主体としての「労働者」ではないから、寄宿舎の自治に必要な役員となることはできない(昭和23年6月3日基収1844号)。寄宿舎の自治のみに専任する寮長に対して賃金を支払うか否かは当事者の自由である(昭和23年6月16日基収1933号)。

寄宿舎生活の秩序

第95条(寄宿舎生活の秩序)
事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させる使用者は、左の事項について寄宿舎規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。これを変更した場合においても同様である。
1.起床、就寝、外出及び外泊に関する事項
2.行事に関する事項
3.食事に関する事項
4.安全及び衛生に関する事項
5.建設物及び設備の管理に関する事項

使用者は、前項第1号乃至第4号の事項に関する規定の作成又は変更については、寄宿舎に寄宿する
労働者の過半数を代表する者の同意を得なければならない。

使用者は、第1項の規定により届出をなすについて、前項の同意を証明する書面を添附しなければならない。

使用者及び寄宿舎に寄宿する労働者は、寄宿舎規則を遵守しなければならない。

第106条(法令等の周知義務)


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:45 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef