家庭内労働者
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米国の家庭内労働者(1914年)

家庭内労働者(かていないろうどうしゃ、:Home workers)あるいは家事労働者とは、家事を仕事にする労働者のことである[1]。その多くは、料理アイロンがけ、洗濯掃除、食料雑貨の買い物、飼い犬の散歩、子供たちの世話、乳母という家事をおこなう。かつては家政婦と呼ばれたりしたが、近年では家事代行者という言い方も多い。
伝統的な家庭内労働者像

家庭内労働者は、かつて社会階層の一部として、それぞれ役割の異なった仕事を担当していた。執事(バトラー)は上位の家庭内使用人で、伝統的に家庭のワインの管理と他の使用人の管理をおこなう。女性の使用人は、女中またはメイドと呼ばれる。男性の場合ハウスボーイと呼ばれることもある。この種の社会階層に基づく家庭内労働者像が先進諸国でほとんど時代遅れなのに対して、低開発国では収入を得るために役立つ社会的役割を果たしている。このような複雑な階層構造が、階級制度、カースト制度のなかから発生した場合、階層の境界線が恒久化され社会的機動性が制限されていく。
ILOの家事労働者条約

国際労働機関(ILO)は、2011年6月に『家事労働者の適切な仕事に関する条約』(家事労働者条約、第189号)を採択した[2]

家事労働者は家庭、労働市場、経済の機能と 人々の安寧に重要な貢献を行っているにもかかわらず、法の不備及び政策の欠如により、ディーセント・ワークとはほど遠い働き方を強いられているという事実を認め[3]、また家事労働者はその特殊性により労働法社会保障法の適用対象外になることが多いことから、家事労働者を労働者と認定し、他の労働者と同じ基本的な労働者の権利を有するべきとしてその労働条件改善を目指す。また、移民労働者に関しては、国境を越える前に雇用契約書などが提供されることなど、追加的なリスクにさらされている可能性がある労働者についての特別保護規定も盛り込まれている。家事労働者について初めて採択された国際基準である。2022年現在の批准国は中南米諸国を中心に35か国で、日本は批准していない。
家庭内労働者に関するILOによる推計

ILOによる2010年の推計によると、全世界で家庭内労働者として働く人は5255万人であるとされ、1990年に比べて6割増えている[1]。地域別にみると、アジア・太平洋地域(すなわち中国、インド、東南アジア)では2147万人(2010年)、中南米・カリブ海地域では1959万人(同)、アフリカ地域では524万人(同)、先進国地域(西欧、北米、豪州、日本など)では356万人(同)、中東地域では211万人(同)、東欧・・CIS地域では60万人(同)となっている[1]。就業先の国別では、中国、ブラジル、インド、インドネシア、フィリピンなど新興国が目立つ[1]。経済成長に伴い女性の社会進出が進む一方、福祉制度は充実しておらず、家の面倒を見てくれる家政婦の需要は高まっているためと分析されている[1]。一方送り出す国の側からすると、受け入れ先の国などが経済危機などに陥ると建設労働者の働き口は減ってしまうおそれが高いが、家事労働者の需要は減りにくく、安定しているという利点もある[1]。家庭内労働者の地位や待遇は、エンジニアや看護師などの専門職に比べて低い。ILOは家庭内労働者の賃金を「他の職種に比べると平均して4割程度」と推計する[1]。香港を拠点に世界46カ国・地域の家事労働者を支援する「国際家事労働者連盟」によると、賃金の相場は香港で月6万円、フィリピンのマニラでは月1万2000円程度である[1]。待遇については、住み込みで働く人も多く、長時間労働を強いられがちである[1]。雇い主による虐待事件も相次ぐ[1]
各地域ごとの家事労働者の概況
アジア

主な受け入れ国は、中東諸国と香港シンガポールマレーシア台湾がある。このうち香港は、7世帯に1世帯が外国人家庭内労働者を雇う「家政婦大国」といわれる[4]。1974年に受け入れが始まった[4]。女性の社会進出と密接な関係がある。香港における女性の労働人口は、1986年には99万人だったが、2014年には189万人に増え、労働人口に占める女性の割合も37パーセントから49パーセントに増えている[4]。最近では家政婦は33万人ほどいるとされるが、そのうち9割以上がフィリピン人とインドネシア人が占める[4]。家庭内労働者を雇うのは裕福な家庭に限らない[4]。香港中文大学の兼任准教授・会田美穂が約80人に面接調査をした結果では共働きで世帯月収が1万香港ドル(約15万円)でも、家庭内労働者を雇うことは珍しくないという[4]。なお香港では、外国人家政婦の最低賃金が定められており、2023年9月30日時点で最低月給4,870香港ドルである。但し、最低月給とは別に食費手当も1,236香港ドル支給する義務がある[5]

また台湾では、1992年に外国人の家事代行を解禁したが、家庭に住み込む形式がほとんどであるため、労働時間の管理が問題となっている[6]。2015年秋、フィリピン人女性が「雇用主が外に出してくれない」と涙目で訴えた。働き始めて6ヶ月にして初めて1日の休日をもらえたという[6]。外国人の就労を担当する労働部労働力発展署の蔡孟良副署長は「雇用主が週7日働かせても、ちゃんと残業代を払い、労働者が合意していれば政府は何もできない。」という[6]。また台湾では、外国人家事代行サービスについて「外国語交じりで子供の世話をされると、子供の文化やアイディンティに影響が出る」という指摘もあり、最近では受け入れの条件を厳しくしているという[6]

シンガポールでは、1980年代から外国人家庭内労働者の雇用を奨励してきた結果、2010年代には5世帯に1世帯までに雇用が拡大した。シンガポールの家庭内労働者は、安い賃金で雇用できるインドネシアフィリピン出身者が多く、約21万人に上る[7]

これらアジアの国々に家庭内労働者を送り出している主な国は、フィリピン、タイインドネシアスリランカエチオピアである。台湾では、ベトナムモンゴルからの労働者が多い。特にフィリピンは「出かせぎ大国」といわれるほどで、国民の1割が海外で暮らす[1]。2014年に海外へ渡った家事労働者は18万人で2009年に比べて2.6倍に増えた[1]。教育費などを稼ぐため、子供を自宅に残して単身で出かせぎに出る母親も多い[1]。2006年アロヨ大統領は、家事労働者を「ブランド化」し、待遇改善につなげることを目的として、「スーパーメイド計画」を打ち出した[1]。新たに渡航する家事労働者に1日8時間、27日間の訓練を受けることを義務付けた[1]。そのために、家事労働者を養成するための訓練学校がフィリピン全土に271校ある[1]。同国政府は、フィリピン人家事労働者の受け入れ国に月400ドル(約5万円)の最低賃金を要求しており、サウジアラビア政府などと協定を結んでいる[1]。しかし、国際家事労働者連盟の事務局長エリザベス・タンは、「月400ドルでも十分な賃金とはいえず、仲介業者から紹介料の名目で月給の8ヶ月分を請求されるケースもあり、家事労働者の立場の弱さは変わらない」という[1]


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