宝石のトリートメント(ほうせきのトリートメント)とは、天然に産する宝石向けの素材(以降、石とする)に、主目的として石の外観をより美しく見せるため、副次効果として石の耐久性を増すため、人的手段を用いて石に何らかの物理的、化学的変化を起こさせたり、あるいは異物質と組み合わせたりして石を改変すること (modification) を云う。ただし石のカット、研磨については、石のトリートメントには含まれない。
こうした処理を施した宝石は処理宝石と呼ばれ、その石の外観などに大きな変化が現れる場合も多々あるが、もともと天然宝石として産したため、張り合わせ石といった明らかな小細工を除くと、模倣宝石とは異なり一般には贋物とはされない。
日本では、2004年までこうした人工処理についてエンハンスメント (enhancement)、とトリートメント (treatment) に分けており、エンハンスメントはその石が本来持っている潜在的な美をひきだす処理を、トリートメントは石に対して施す、自然界ではまず起こりえない人工処理を指した。しかし同じ処理を施した場合であっても、処理により起きた変化が不可逆である場合はエンハンスメント、時間経過によりその効果が薄れたりして元に戻ってしまう場合はトリートメントとして扱ったりするなど、その使い分けは極めて曖昧であった。さらに日本では、一般にエンハンスメントを施した石は天然宝石とほぼ同じ価値を持つと評価されたのに対し、トリートメントを施した石はそれよりずっと低く評価され、場合によっては紛い物、贋物扱いされるといった問題もあった。
元の石に対して人工的処理を施すことには変わりなく、日本以外の諸外国ではそういった区別はほとんどされない。2004年以降は日本でもそれに倣い、こうした区別はせずどちらもトリートメントと呼んでいる。
こうした宝石のトリートメントは、専門機関によりその石を鑑別
した際、発行された鑑別書の鑑定結果の項に、備考や注記、開示コメントなどの形で記載される[1]。しかし、石の種類によってはその処理でしか得られない、あるいはその処理を施すことが当たり前になっている場合や、鑑別時点での技術レベルでは処理されたかどうかを見分けられない場合もあり、そのような場合は、通常?が行なわれていますと記述される。宝石素材に対するトリートメントの目的には
色の改善
色の変化
透明度の改善
外観の改善
光沢の改善
といったものがある。 元の色を濃くしたり、鮮やかにしたりなどして引き立たせる。旧定義のエンハンスメントの範疇に含まれる処理であり、一部例外を除き色を変えること(色の変化)は旧定義のトリートメント扱いとされた。 石を加熱することで着色の原因となっている不純物に物理的、化学的変化が起き色が変化する。自然環境下においても起こる現象であり、その場合は熱変成と呼ばれる。ゆえにかつては典型的なエンハンスメント処理として扱われており、さほど問題にされなかった。加熱自体は古くからタイで行われており、加熱技術においては世界一であるが、1987年にスリランカでも行われるようになり、ますます加熱処理が広がっていった。 人工処理と云うより小細工、騙しのテクニックである。 上面が天然オパールで下面が下に黒いプラスチックや天然石を張り合わせたダブレッドオパール、オパールを薄くスライスして、上にプラスチックや水晶下に黒いプラスチックや天然石を張り合わせたトリプレッドの2種類がある。この処理は騙しのテクニックではなく、ちゃんとした市場も存在するのと、横から見た接着面と下面(古い宝飾品だと接着剤が劣化して鑑別が容易である)で見分けがつきやすいが宝飾品として完全に金やプラチナで表面以外かぶせられた場合は鑑別が出来ないので必ず宝飾品を購入する際は鑑別書があるかどうか確認する。また最近では、下面を天然オパールの母岩を用いた商品も出てきているので。その場合は、下面で判断する従来の鑑別方法も通用しないので、必ずオパール製品を購入する際はルースのままで、鑑別した鑑別書を発行してもらうことが肝要である。 元とは全く異なった色に変える。旧定義におけるトリートメント処理の典型例。 HPHT (High Pressure High Temparature) とも呼ばれる。1990年頃にGE社が開発した技術で、石に高温高圧をかけ、色の変化を起こす。
色の改善
加熱処理
アクアマリン
評価の低いヘリオドールやグリーンベリル等を加熱し、アクアマリンへ変性させることで付加価値を高める。またアクアマリンの多くは、掘り出したときは淡い青しか呈しない石がほとんどのため、加熱処理を施し色を濃くするのが当たり前になっており、ゆえに鑑別書に無処理が記されない。
コハク
商品にならないコハクの破片や、研磨の際に出た粉末、コハクには至らない経年の浅いコーパル
コランダム(ルビー、サファイア)
ジュエリーとして市販されているコランダムのほとんどに加熱処理が行われている。加熱処理をしていない石で、優れた彩度を持ちかつ透明度の高い石は極めて稀であり、それゆえに古くは王侯貴族しか手にできなかったが、現在はこの処理のおかげで多くの人が手に届くようになった。稀ではあるが加熱していない石もときおり産出はするので、そうした石は非加熱と呼ばれ高額で取引される。
シトリン
天然にはシトリン(黄水晶)はほとんど産しないため、アメシスト(紫水晶)を加熱することにより大量生産される。
ジルコン
無色、青、ゴールデンのジルコンは、加熱処理による着色がほとんどなので、鑑別書に無処理と記されない。
タンザナイト(ブルー・ゾイサイト)
ジュエリーに用いられるタンザナイトは、現在ではその全てが加熱処理されるため、鑑別書に無処理と記されない。
トルマリン
一部のイオン化した銅を含んだインディゴライト(青いトルマリン)は、加熱処理によりずっと価値の高いパライバ・トルマリンに変色する。その他のカラーも加熱処理が施されていることが多い。
ピンク・トパーズ
ピンク・トパーズはインペリアル・トパーズを加熱することで得られる。この石もまた、鑑別書で無処理である旨の記載がされない。
フォイルバック
カラーストーン全般
色の淡い石に対して、石の裏面、背面に塗料を塗ったり、色の付いたフィルムを貼ったり色の付いた被膜を蒸着させたりなどして、色を強調する。
石をひっくり返してみれば簡単に看破できるので、裸石(ルース)に施されることはなく、指輪などの台に、それも立て爪など背面が見える方法ではなく、埋め込みなど背面が見えない方法で固定された石に対して行われる。
オパール
ブラック・オパール
ブラック・オパールは産地が限定されていて、しかも産出量が少ないので、ホワイト・オパールやメキシコ・オパールを砂糖水で浸した後で、硫酸に付けることによって砂糖を焦がして、ブラック・オパールに似せた石が市場に出回っている。
色の変化
高温高圧プロセス
ダイヤモンド
現在ジュエリーとして市販されているピンクやブルーのファンシー・ダイヤモンドのほとんどは、安価な工業用の褐色や黄ばんだ石をこの処理にかけた結果得られた石である。自然環境下でも十分起こる可能性があるが、旧定義でのトリートメントとされていた。また、この処理をされた石の登場時は鑑別不可であった[2] が、現在は鑑別法が発見されており鑑別可能。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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