定規とコンパスによる作図
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定規とコンパスによる正六角形の作図正五角形の作図

定規とコンパスによる作図(じょうぎとコンパスによるさくず)とは、定規コンパスだけを有限回使って図形を描くことを指す。ここで、定規は2点を通る直線を引くための道具であり、目盛りがついていても長さを測るのには使わないものとし、コンパスは与えられた中心と半径のを描くことができる道具である。この文脈における「定規」はしばしば「定木」と表記される[注 1]。定規とコンパスによる作図可能性(作図不可能性)の問題として有名なものにギリシアの三大作図問題がある。

数学的には、定規とコンパスによる作図で表せるのは二次方程式を繰り返し解いて得られる範囲の数であることが知られている。つまり、いくつかの二次方程式や一次方程式に帰着出来る問題は定規とコンパスのみで作図可能であり、反対に帰着できない問題は作図不可能である。「作図可能な線分の長さ」の集合は一つのをなしている。
定規とコンパスでできる作業

この問題に言う「定規」「コンパス」は現実世界にある実物のそれではなく(参考にはしているが)、可能な作業が決まっている仮想的な存在である。そのため、思考実験の一種としてサイズに関しては現実的にありえない無茶なことも想定できる代わりに、実物にできることのいくつかははっきりと禁止される。

「コンパス」はいくらでも小さく、またはどこまでも大きく半径を取ることのできる、仮想的なもので、広げて任意の長さを測り取ることもできる。ただし、測り取れるのは既に作図されている二点間の長さとしてだけである。なお、「コンパス」本体に角度を表示する目的などで目盛りなどの印を打つことはできない。また、作図の作業においては軸は既に作図された点に固定されるものとし、定規や線の上を引きずって線を引くような用途には使用できない。

「定規」はいくらでも長くまっすぐな線を引くことができる。ただし、「定規」に目盛りを打つことは許されない(目盛りがあっても長さを測るのには使わない)。また「定規」だけで引けるのは同時に一本だけであり、複数の平行線を同時に引くようなことはできない。「定規」でできるのは既知の任意の二点を線分で結ぶこと、およびそれを延長して直線にすることである。

仮に目測や近似を使って何らかの作図ができたと主張しても、それは作図問題に答えたことにはならない。間違いなく確実に決まっていることが必要なのである。もちろん(いくらきちんと点や線が作図できたとしても)、目盛りのある定規を使ったり、変形コンパスや分度器その他の道具、手段を利用してはならない。そのようにして得たものは定規とコンパスを用いた作図問題の解決とは無関係な存在だからである。作図の基本となる作業

これらの条件から、定規とコンパスによる作図でできることは原理的には次に挙げるような作業のみであり、既知の点、直線、円たちからはじめて、それらの作業を有限回組み合わせて繰り返すだけで必要な点や長さを得ることができるならば目的の作図が可能、できなければ目的の作図は不可能であるということになる。

既知の二点に対し、それらを通る直線を引く。

既知の一点を中心とし、それ以外の既知の点を通るような円を描く。

互いに平行でない既知の二直線から、その交点を得る。

既知の円と直線から、その高々二個の交点を得る。

既知の二つの円から、その高々二個の交点を得る。

たとえば、相異なる二点が与えられているだけの最低限の仮定からはじめれば、まずひとつの直線と半径の等しい二つの円を描くことができる。交わる二つの円が得られているのでそれらの交点として新たに二つの点を得ることができる。この新たな二点のうちのいずれかと最初の二点とをそれぞれ結べば正三角形の作図が完成する。

これはつまり、作図という幾何学的な問題は、どのような記号(点や直線、円など)を初めに与えて (initial set)、どのような方法で (algorithm)、どのような結果が得られるか (result) という点に係っているということである。このような側面から言えば、作図問題というのは元が点や直線になっただけの公理的な代数学と等価な存在であるといえる。それを現実のものとし、それによっていくつかの作図問題の不可能性を証明したはじめての人はおそらくガウスであろう[注 2]。後の時代になってヒルベルトが、著書『幾何学基礎論』においてユークリッド幾何学の公理を完全に厳密な形で与えている[3]
作図可能数詳細は「定規とコンパスによる作図可能数(英語版)」を参照

平面内に原点 O ともう一つの基準となる点 P が与えられると、O の座標を (0, 0)、P の座標を (1, 0)とするような xy-座標系を平面上で考えることができる。この二つの点を元に定規とコンパスを使った有限回の操作で点 Q (座標を (q, r) とする)が指定されたとすると、体の二次拡大の塔Q = K0 ⊂ K1 ⊂ … ⊂ Kj ⊂ … ⊂ Kn ([Kj+1 : Kj] = 2 for any j)

が存在して q, r ∈ Kn となっていなければならない。

実際、座標 (a, b) の点を中心として座標 (c, d) の点が円周上にあるような円は(x − a)2 + (y − b)2 = (c − a)2 + (d − b)2

という方程式によって表され、座標 (a′, b′)の点と座標 (c′, d′)の点を通る直線は(d′ − b′)(x − a′) + (c′ − a′)(y − b′) = 0

という方程式によって表されている。従って、作図できている点を元にして描いた円や直線の交点として新しい点を求めるという操作はこれら高々二次の方程式を連立させてその解を求めるという問題に帰着される。

とくに Kn の Q 上の拡大次数は 2n であり、Kn の部分体である Q(q) や Q(r) も同様の構造を持っていなければならないことがわかる。したがって Q(p) の次元が 2 の冪にならないような代数的数 p やそもそも代数方程式の根として表せないような超越数 p を座標に持つ点は作図できない。
不可能な作図

ギリシアの三大作図問題:ギリシア時代の数学者たちによって次の3つの作図が定規とコンパスによって可能か、という問いが立てられた
与えられた円と等しい面積をもつ正方形を作ること(
円積問題

与えられた立方体の体積の 2 倍に等しい体積をもつ立方体を作ること(立方体倍積問題,「デロス島の災難」の問題)

与えられた角を三等分すること(角の三等分問題

現在ではこれらは全て定規とコンパスのみでは作図できないことが証明されている。1837年ヴァンツェルは、角の三等分問題と立方体倍積問題は三次方程式を解かなくてはならないことを示した。非自明な三次方程式の根によって生成される体は拡大次数が 3 になってしまい、そのような数を座標にする点は作図できない。倍積問題はある線分を2の3乗根(無理数)倍に伸ばす方法の導出、円積問題は、方程式 x2 = πr2 の解を求めることと同値である(π は円周率)。1882年に、リンデマンにより π が超越数であることが証明され、作図が不可能であることが示された。

なお、不可能であることが示されているにもかかわらず、いまだに角の三等分が作図可能であることを示そうとする人々がおり、角の三等分家 (Trisector) と呼ばれている。定規・コンパス以外の道具を使用したり、定規・コンパスを本来とは異なる使い方で使用することで角の三等分を作図(あるいは工作等)することは可能であるが、当然ながら、これらは元々の「角の三等分問題」に対する解答ではない。また、「任意の角を三等分する」という問題であるのに、これを「少なくとも一つの角を三等分する」問題であると勘違いし、直角などが三等分できたのでこの問題を解けたと速断する人もいる(角度によっては定規とコンパスで、その角度の1/3の角度を作図できる)[要出典]。
作図可能な正多角形

正三角形正五角形、この2つの正多角形の頂点の数の最小公倍数の値と同じ数の頂点を持つ正十五角形正方形、およびこれらの頂点の数に2の冪を乗じた数の頂点を持つ正多角形が作図可能である事は古代ギリシアの数学者エウクレイデスユークリッド)が著した『原論』に記されており、よく知られていた。長い間それ以上のことは判明しなかったが、ガウス1796年3月30日に、正十七角形が作図可能であることを発見した[4][5]。同時に正五十一角形、正八十五角形、正二百五十五角形、及び17もしくはこれらの頂点の数に2の冪を乗じた数の頂点を持つ正多角形が作図可能であることも発見されたことになる。ガウスはさらに1801年に出版した『整数論の研究』において、正 n 角形が作図可能であるための必要十分条件が、n が2の冪と相異なるフェルマー素数の積、すなわちn = 2mFaFb…Fc(Fa , Fb , … ,Fc は全て異なるフェルマー素数、m は非負整数)

の形であることを示した[2]。これは 1 の原始 n 乗根 ζn のガロア群の構造が 2 次拡大の繰り返しによって得られることの特徴付けとして得られる。このような n は、小さい順に(50以下のものを)並べると、[6]3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 15, 16, 17, 20, 24, 30, 32, 34, 40, 48, ... (オンライン整数列大辞典の数列 A003401)


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